2-113.コーラを作ろう
アジージョ州の化学者、ヨハン・スティス・エンピツバートンは、ドーフォロク郡ルビスクッノで生まれた。 19歳という若さで魔法薬学の学位を取得した彼は、地元の新聞に「アジージョが生んだ 最も著名な魔法薬学者の1人」と称えられた その技量を、いかんなく発揮する。 それこそが、コカの葉、ペプシン、コーラの実を使った、コカワインの研究だ。 当時、多くの飛翔兵たちに、薬物中毒、うつ病、胃腸病が蔓延しており、ワインを使って、その治療を試みたのだ。 彼の調合薬は、女性、神経衰弱、胃腸病、痛み、神経強壮、刺激剤を必要とする者に 多大な効果を発揮した。
コカは、亜熱帯の人里離れた山岳地帯の畑で作られる低木樹だ。 その葉は、痛み止めとして葉そのものを噛んだり、高山病対策として、葉を茶として飲用するなど、現地民に、伝統的に嗜まれてきた。 また、恐怖感を喪失させ、疲労感を薄れさせ、空腹感を忘れさせ、眠気を取るとして、鉱山労働者や、一部の飛翔兵にも、コカの葉を噛みながら仕事をする習慣があった。
ペプシンは、タンパク質分解酵素で、胃より分泌される。 不活性な前駆体ペプシノーゲンとして胃底腺の主細胞で作られ、胃液中に分泌されると活性化し、消化酵素として効果を発揮する。
コーラは、熱帯雨林に植生する高木樹で、その種子は、クリの実ほどの大きさであり、白色から赤色をしている。 これは、コーラ・ナッツと呼ばれ、噛むと強い渋味を感じるものの、一時的に空腹感を紛らわせ、眠気を取ることが出来るとして、少しずつ 噛み砕いて 楽しむ嗜好品として用いられる。
コカワインを使った飛翔兵の治療は、瞬く間に兵団に広がった。 しかし、当然のことであるが、ワインは、アルコールを含有する。 識者たちから、飲酒状態での軍事行動は、安全面において、大きな影響があるため、軍の活動に従事する飛翔兵に ほどこす治療としては 問題があると、指摘されることとなる。
エンピツバートン氏は、治療に使ったコカワインから、アルコールを抜く必要にせまられた。 こうした生まれたのが、コーラ飲料だ。 彼は、おいしく、リフレッシュでき、スカッとして、爽快。 頭痛や神経痛など、全身の痛みを癒すだけでなく、疲れを取り除き、神経を落ち着ける飲み物として、あのノンアルコール飲料を作り出した。
かの有名な『コカペプシンコーラ』が誕生した 瞬間である。
飛翔師兵学院の筆頭教授を長く務めた ミジカイ・ナカヨシ・アンターナッハ氏も、この飲料を研究した人物だと言われている。 彼の指導を受けた デターネ・アリー・ヘドファン。 後の女王アリーは、学生時代に、現在は失われた魔法を使い、コカの葉や、コーラの実を使わずに、コカペプシンコーラに似た、炭酸飲料を作り出したという話が 今に伝えられている。
[美容師の娘] 【 2-113.ライリューンの受難 】
るーるるーるるるーん♪
砂糖を 煮詰めるっ。
ほんのちょっと、バターと牛乳も加える。
お菓子作りって 楽しーぃ。
あっ、私は、ソファーに 寝転がっているけどね。
「ライリューン。 焦げないように混ぜ続けてね。
あと、加熱しすぎは分離する原因になるから、気を付けて。」
「アリー、どこまで煮詰めたらいいか、分からないっ。
そっちで、寝転がってないで、鍋を見てよ。」
「もったりして、薄い白茶色になったら、止めていいよ。」
「だから、それが 分からないんだって。
沸騰させちゃ、ダメなんだよね?」
「うんうん。 弱火で、混ぜ続けて。」
「泡の感じが 少し変わって来たんだけど、どうするの?
まだ、続ける?」
「煮詰めて、あわあわに なるまでは、続けるよー。
たまに、火からおろして、様子を見てね。」
ホント、そのくらい、自分で考えようね。 ふぁぁぁ・・・ぐぅ・・・Zzzz。
「もぉ、寝ないでよ。 起きて 鍋の中身を見てっ。
ちょっと・・・ アリーっ。」
うるさいなぁ・・・。
仕方なく起き上がる。 ライリューンが、木べらで 鍋をかき回し続けているので、中のお菓子の原料は、焦げては いないだろう。
実は、糖が引き起こす酸化反応を 利用した このお菓子を、カジノで 提供しようと思っている。 今日は、その試作品を 作っているのだ。 砂糖を加熱すると、フラン化合物が生じる。 さらに熱し続けると、重合反応により、フラン・ポリマー構造が作られるのだ。 この、糖を加熱して作った褐色色素のドロドロの塊を固化させて、小さく切り分け 軽くつまめるようにできれば、カジノでの ちょっとした 楽しみになると思う。
確認のため、一度、火を止める。
「アリー。 これっ。 はいっ。」
ライリューンが バトンタッチをするように、木べらを 差し出して来た。
受け取ったへらを、すっぅと動かすと、鍋の底が見え、混ぜた跡が一瞬だが残る。 そして、すぐに 平らに戻った。
んー。 もう完成かな?
氷水を数滴、ポトンと 落としてみる・・・ 白褐色のドロドロが、粘土状なった。 よーし、いいでしょう。 ちょっと、味を見てみようかな?
「ほう、甘い匂いが していると思ったら、キャラメルか。」
って、味見をしようとした瞬間、甘い匂いに誘われて、ナカヨシが 私の実験室に現れた。 カブトムシかっ、お前は。
「うん。 これは、研究の合間に いいの。
頭の疲れが 取れるようじゃ。」
あぁ あぁ、私や、ライリューンより先に、ナカヨシが、味見を 始めてしまった。 もぉぉ ずるいなぁ。
「そうじゃ、キャラメルを作ったなら、コーラ飲料は、どうじゃ。
コーラの製造にも、挑戦してみるがよい。」
コーラ? こっちの世界にも、コーラがあるんだ。
「そうじゃの。
成分は、すでにアリーは、魔法で作れるはずじゃ。
あとは、配合量を 工夫するだけでいいじゃろう。」
なんと、いままでナカヨシに 作らされていた香料などの成分と、砂糖や、今作ったような キャラメルを 混ぜあわせることで、簡単にコーラが、作れてしまうらしい。
「あぁ、あと、コカの葉は、入れぬ方が良いぞ。
あれは、依存性がある。
問題が、起こってからでは遅いからのぉ。」
コカの葉?
あぁ、ミラドールが、時々、粉を 鼻から吸引してたヤツだね。
葉を、細かく破砕し、油に浸してよく混ぜる。 こうして溶出した成分に リューサンと呼ばれる酸性の液体を混ぜた後、アルカリで中和する。 さらに、できた液体の上澄み部分を捨てて、下に沈んでいる ドロドロを集めて 乾燥させると ペーストができる。 これを酸で処理し、カマンガンサンカリウムという物質を使って、不純物を除き、丁寧に濾過すると、ミラドールが、愛用していた、特殊 精製メリケン粉、白い粉が 出来上がる。
ミラドールは、手の甲に 粉を乗せて、片方の鼻の穴を 指で押さえながら、ズズズっと、吸い込んでいた。 「これを吸わないと、鼻水が止まらないのよねぇ。」 なんて 言ってたなぁ。
「コカは、ナトリウムチャネルを 遮断するでの。
膜安定化作用があり、痛みには良いが、連用はダメじゃ。
飲料とするには、向かぬのぉ」
ナトリウムチャネル? 膜安定化? 何? それ???
「まぁ、良い。
成分は、ここに書いておくから、配合を工夫してみよ。」
それだけ言うと、ナカヨシは、1枚の紙にサラサラと何かを書きつけて、そのまま行ってしまった。
シトロン酸
砂糖
ライム
バニラ
キャラメル
香料
オレンジ
レモン
ナツメグ
ネロリ
コリアンダー
シナモン
これを水に溶かす。
シトロン酸? なんだろ?
私は、紙を持ち上げて、成分を読み上げてみたが、大問題が発生・・・。 恐ろしいことに、ナカヨシが 最初に書いた成分が、分からない。
「ライリューン。 シトロン酸って何か分かる?」
「シトロンは、枸櫞でしょ? その酸?
良く分かんないけど・・・。」
「くえん・・・食えん? 食べれないの?」
「ちがうっ。
枸櫞は、くえん。 って、オヤジギャグじゃない。
果物のシトロンだよ。 レモンみたいなやつ。」
ん・・・? レモン・・・ クエン・・・ シトロン酸?
あぁ、クエン酸だっ。 そうだ。 レモンに似た形で、表面にブツブツというか、突突がある果物から、クエン酸を取り出して、それを木魔法と水魔法を使って作る っていうのを やらされた。
クエン酸を作ればいいのね。 私は、さっとクエン酸を作って皿の上に盛った。
砂糖は、コーンから 抽出したやつを 使えばいいか。 魔法で作るより、そっちが楽よね。 ライムも市場で買ったやつがある。 ライリューンが、麦焼酎に入れるので、大量に 常備してあるのだ。
バニラは、ナカヨシの得意なやつだ。 ワインを作るときに、大量に作ったから、バニリンにしろ、オイゲノールにしろ、もう片手間でも、魔法を使って 作り出せるようになっている。
キャラメルは、バターと牛乳を除いたもので、作り直した方が、コーラには、良さそうね。 じゃ、ライリューンには、向こうで、砂糖だけを、煮詰めてもらおう。 いってらっしゃーい。
で、香料のオレンジ、レモン、ナツメグ,コリアンダー、ネロリ、それからシナモンね。 柑橘系のエステル類はいままで大量に作っている。 えーと、エチルアセテート、メチルアンスラニレート、エチルヘキサノエート、エチルオクタノエート、メトキシメチルブタンチオール、リナロール、チモール、ヘキサノール、フラネオール、シネンオール、ペリラアルデヒドも用意しておこう。 ウンデカトリエンオン・・・それから、絶対必要なのがリモネンよね。 ほかには、ピネン、ボルネオール、テルピネオール、ゲラニオール、サフロール、ミリスチシン・・・。えーとミスチリンは、除けておこうかな? 中毒を起こしそうだし・・・。 ダイダイから取る ネロリ油は、オシメン、ネロリドール、リナリルでいっか。 コリアンドロールも、リナロールの一種だよねぇ。 まぁいいや。作るのめんどくさい。
試験管が、次々と並んでいく。
あっ、シナモンを忘れてる。
シナモンも、ナカヨシが、研究しつくしているから簡単なのよね。 シンナムアルデヒドでしょ?オイゲノールは、共通しているし、サフロールに、あと、ケイ皮酸系のエステルか・・・ケイ皮酸メチル、ケイ皮酸エチル、ケイ皮酸ブチル、ジヒドロキシケイ皮酸って 所でいいかな?
ふぅ・・・。 疲れた。 なんか、大量の試験管で、テーブルが埋め尽くされてしまっている。
「アリー。 キャラメル出来たよ。
すごく茶色くて黒い。 さっきのより、どす黒いよ。」
そりゃそうだ。 牛乳とか、入ってないんだもん。 白さが無いのは、当然っ。
「ってことで、ライリューン・・・。 ここに試験管があるんだ。
これが、ナカヨシの配合メモね。」
私は、ナカヨシの 配合メモを、ライリューンに手渡した。
「何これ? これを 水に溶かすって・・・。
書いている内容が、シンプル過ぎっ。
混ぜる量、書いてない じゃない。」
そうだね。 混ぜる量、書いてないよね。 ライリューンは、本当にいい所に気づいた。
「じゃ、お願いね。」
「え?」
「この試験管の中身が、その成分だから、組み合わせるの。
元の『コカペプシンコーラ』に、似たものを作っておいてね。
3種類か、4種類出来たら、とりあえずOKだから。」
「・・・え?」
生贄の羊ちゃんを、実験テーブルの前に 座らせる。
「頑張ってねー。」
「ちょっと、待ってっ。 アリー。
こんな数の試験管。 何種類あるのよ。
混ぜ合あわせて 分量を記録するなんて、無理よ。
ちょっ・・・ なに寝てるのよ。
アリィィィィっ。」
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あぁ、ホント眠い。 さっき お昼寝の途中で 起こされたから、なんか、ボーっとするのよね。 もうひと眠り しようっと。
おやすみなさーい。 ぐぅ・・・Zzzz.
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生キャラメルを作ったことがある人は、高評価を押して次の話へ⇒
レビューを、頂いていたようです。御礼を申し上げます。遅くなって申し訳ありません。また、ブックマークもありがとうございます。
蛇足1.エンピツバートン氏と、鉛筆削り
鉛筆を1本、1本、削る。
めんどくさいです。
衆院選で、投票に使った後の鉛筆は、
感染防止対策として、持ち帰ってもらう所もあるそうです。
と、すると、いつもより、数が必要になります。
今日10月20日からの期日前投票が始まります。
1本ずつ削っている職員の方、大変ですね。
蛇足2.コリン・パウエル死去
第44代米国大統領バラク・フセイン・オバマ氏より、
元米国務長官コリン・パウエル氏のほうが好きです。
アメリカの黒人政治家としては。
コロナ感染による合併症で死去されたそうですね。
イラクの大量破壊兵器演説という汚点はありますが、
こんな人が、日本にいればなぁとおもう人です。
軍人上がりの政治家っていうのは、日本では、
生まれにくいでしょうけど。
蛇足3.マイナンバーカードと、健康保険証
マイナンバーカードと、健康保険証の連動が
本格運用になったそうです。
本当は、もうちょっと前に始まる予定でしたが、
保険者による、データの打ち込み間違いなどが
原因で、やり直しとなったため、20日開始と
なったようです。
さて、マイナンバーと、疾患情報の連動。
情報が抜かれたら、疾患と個人を繋げることが出来て、
とっても価値のあるデジタル情報になるだろうなって
思います。
この、本格運用が、成功するかどうかは、おそらく
情報流出事故が、発生するのが、多くの人が
使い始める先か、後かによって決まるような気が
します。
あっ、起こるのが確定的な感じで書いてしまいました。
まいっか。
蛇足4.半導体の自社開発
確か、ソニーなどが自前主義が強かったイメージです。
日本に軸足を置く企業は、網羅性の高い技術を保持し
他社技術の導入については、パーツや部材としては
使うが、自社偏重な思考や状態となっているため、
他社からの技術購入、第三者が開発した技術を
自らのものとする動き、グローバルな共同研究開発
が弱いといわれてきていたような気がします。
半導体の性能は製品やサービスの質に直結するため、
各社とも重視していて、自社製の半導体の搭載では
アップルが先行し、中国のファーウェイも傘下企業が
開発しています。
今回、グーグルが、4年かけて自社開発した半導体を
搭載したスマホを発表したそうです。
なんか、日本企業って、自社開発主義から、
外部からの導入に移行しようと頑張っていますが、
こういう流れを見ると、自社開発主義を続けるのも
悪くない気がするんですがどうでしょうね?