2-110.カジノ革命 18
カーネルさんが、再び、ステッキを 振り上げた。
バーーーンッ
テーブルが、高い音を 響かせる。
まるで それが 合図であったかのように、カジノスタッフが動いた。 さっと、テーブルの周りに駆け付けると、テーブルの上の客のチップを、それぞれ かごに盛り、客の手に 持たせる。
そして、別のスタッフは、テーブルを 移動させ始めた。
あっという間に、四角く、広いスペースが出来た。 その中心には、ロナウドと、カーネルさん。
赤い髪のピエロと、白いスーツの紳士が、対峙している。
な・・・ なんだ、これは?
「小僧、触れてはいけないものに 触れてしまったようだな。
その体に、教えてやろう。 お前の罪を。」
「ホロッホゥー。
なぁにを、教えてくれるのかなぁ。
ロナウド、楽しみだなぁ。 フッフゥ~。」
一体、何が起こっている? なぜこんなことに? ボクは、右手にチップの入ったバスケットを持って立ち尽くすしかない。 あたりを見渡すと、カジノスタッフが、客の周りを回遊し、何かの案内をしはじめた。 なんだ?これは。
「おじさんっ。 賭けないの?」
ん? この女の子は、さっき、平和賞が どうのこうの騒いでいた 子供っ。 賭ける? どういうことだ?
「あぁ、2人の勝負。 仁義なき闘いだね。
どっちが勝つか 賭けることが、出来るの。
勝ち、負け、引き分け・・・・。 どれかを選んでね。
当たったら、賭け金が2倍になって帰ってくるよ。」
はぁ? 誰が闘うって?
「もちろん、ロナウドと、カーネルさんダス。」
はっ? 『何?ダス』・・・とてつもなく、不穏な単語が 聞こえたぞ。
「あっ、ごめんなさい。 なまっちゃった。
私、西の地方出身だから・・・。
闘うのは、ロナウドと、カーネルさんです。」
なんて恐ろしい。 『デス』と『ダス』を間違えるだけで、こんなにも『危険な言葉』になるなんて・・・。
「で、どうする?
あっ、あそこに、速報値が発表された。
今、みんなが賭けている合計金額が、張り出されているよ。
ロナウドの勝ちが、小金貨36400枚。
引き分けが、小金貨20300枚。
カーネルさんの勝ちが、小金貨29700枚だね。
手持ちのチップで、小金貨1枚から賭けられるんだ。
どれに、賭ける? 急がないと、締め切られちゃうよ。」
困った。 急に言われても困る。 しかし、あのロナウドに賭ける気にはならない。 と、すると、カーネルさんか・・・。
「じゃ、カーネルさんの勝ちで・・・。」
「んーと、何枚?」
「じ・・10枚。」
「え? 10枚しか賭けないの? そんなに持ってるのに・・・。」
「いや、100枚で、お願いする。」
「うん、分かった。カーネルさんの勝ちに、小金貨100っ。
じゃ、この紙を無くさないでね。
小金貨100枚分を、カーネルさんに賭けた証書だから。
カーネルさんが、勝った時は、200枚、払い戻しされるよ。
あそこの、換金所まで、証書を持って行ってね。
じゃ、そろそろ、対戦開始みたい。
おじさんの、幸運を祈ってるねー。」
いや、さっきから、おじさん、おじさんって・・・。 ボクは、どう見てもお兄さんだと 思うんだけど・・・。
少女が、たたたっと、ボクから離れていったかと思うと、急に、場内に声が響いた。
ラウンドワンっ、ファイトッ!
あぁ、闘い開始の合図だ。
[美容師の娘] 【 2-110.マックフライ砲手筒 】
さっきの言葉の勢いなら、すぐに激しい闘いになると思ったのだが、ふたりとも、距離を取って、ぐるぐると回り始めた。 間合いをはかっているようだ。
「どうした? さっきまでの勢いは。
どこからでもいいぞ、かかってきたまえ。」
「よーし。
じゃぁ、ロナウド、いざ尋常に勝負しちゃうぞー。
えいっ。」
バシンっ。 タンッ、タンッ、タン。
な・・ステッキ。 なんと、カーネルさんは、ステッキを振るうだけで、ロナウドが 近づいて来るのを 防いでしまった。 これは、有名なバリ・・・
「これは、有名なバリツだわっ。」
いや・・・それ、今ボクが、言おうとしていたセリフ・・・。
「えっ? ライレーン。 バリツって何?」
タニユ・キーオ。
彼は、タケーダモ・ツガイが創始した、不遷流柔術を使いこなす柔術家だ。
不遷流は、柔術以外に杖術・鎖鎌術・十手術・剣術・薙刀術・薙鎌術を伝える多芸な流派で、これを発展させ新武術を考案したのが『スモールタニユ』こと、タニユ・キーオだ。 ステッキと、柔術を組み合わせた 新しい格闘技『バリツ』っ。 この技を、カーネルさんが使っている。
それは、あのエーロック・・・
「あの、エーロック・シャメルズが、使ったことでも有名だわ。」
そのとおり。 ライヘンバッハの滝で、モリ・ノンリアリティ教授と戦うエーロック・シャメルズが使ったのが、この格闘技で、モリ・ノンリアリティ教授を投げ飛ばし、シャメルズは、辛くも勝利を収めた。
しかし なんだ? ボクの発言を ことごとく先に潰す、このライリューンという少女は、何者だ?
鋭い 踏み込みっ!
ロナウドが、カーネルさんの 嵐のようなステッキの弾幕をかわし、懐に飛び込んだ。
ダンッ
靠撃っ。 ~ こうげき
踏み込んだと思った瞬間、ロナウドの体が、弾き飛ばされる。
「そうか、このじじい、体術も使うのか・・・。」
「この当身こそ、柔術だからなっ。」
靠撃 ~ こうげき とは、肩や背中による至近距離での体当たり攻撃。 肘打ちすら、ままならない密着した 至近距離での 攻撃手段として 体当たりという技は重要タだ。 その威力は絶大っ。相手を 防御もろとも 吹き飛ばし、その体勢を崩す。
しかしだ・・・ 確かに、一定距離は、飛ばされたものの、ロナウドは、体勢を、ほとんど崩すことはなかった。 ひょうひょうとした態度に 騙されそうになるが、こいつは、かなりの実力者だ。
そして、今、『柔術の技』とカーネルさんは、言ったけれど、これは、『柔術の技』ではない。 あれこそは、ハッケョクケーンの、テツザ・・・。
「あれは、ハッケョクケーンの技、テツザンコーだわ。
柔術の技とは、違うっ。
カーネルさんは、一体いくつの格闘技を、修めているの?」
いや、待って。それは、ボクが言おうと思ったセリフ。
「ライリューン・・・。
良く分からないけれど、カーネルさんが、スゴイのねっ。」
突きっ、突き、突き・・・。
「ホレっ、ホレホレ。
どうした、さっきまでの軽口はっ。」
タンタンタンッと、ステッキで攻撃する カーネルさんに、ロナウドは、防戦一方だ。
激しいステッキによる攻撃で、ロナウドが膝をついた。 これは、カーネルさんの勝利か?
とどめをさすために、ロナウドの元に、ゆっくりと近づく カーネルさん。
「口だけじゃなっ。 この道化がっ。
あうっ・・・グッ・・・」
逆立ち? いや、片手だ。 ロナウドが、片手で体を支えながら、垂直に飛び上がるように足を上げ、そのまま蹴り上げた。
クルクル、クルクルクルっ。
ステッキが、回転しながら飛んで行く。 これは、センキ・・・
「あれは、トウローケンの、センキュータイねっ。
とっても、きれいな 蹴り技だわっ。」
もういい・・・ 勝手にしてくれ。
本来は、手で体を支えながら、垂直に飛び上がり、相手のあごを連続で蹴り上げる、トウローケンの奇襲技であるセンキュータイ。 ロナウドは、この技で、カーネルさんの手元、ステッキを狙ったのだ。 狙いは完璧にはまり、ステッキは、クルクルと飛び、片づけられた カジノテーブルの方へ・・・。
「どうしたのかなぁ?
おじいちゃん、杖が無くなっても 立っていられる?
ホッホーゥ。」
ニタニタと笑う、ロナウドが、立ち上がり、カーネルさんに近寄る。
その瞬間であった。 カーネルさんが、ロングパンチを放つ。 しかも、連続して・・・。 長拳連撃っ。 こ・・これは、ホンシ・・・。
「今度は、ホンシケンっ。
すごいわっ。 カーネルさんは、武術王みたい。
これでは、ロナウドが、近づくのは難しい。」
ホンシケンは、ボクシングに似ており、猛烈な勢いで連続して拳を相手に打ち込むことを特徴とする。 梅雨の雨が降り注ぐごとくに、そして、爆竹が鳴り続けるごとくと形容される ロングパンチの弾幕は、放長撃遠、遠い間合いでの 闘いで 力を発揮する。
「ふんっ。 ステッキがなければ、勝てるとでも思ったのか?
まだまだ、甘いのっ。」
「くっ・・・ まさか ホンシケンまで使えるとは・・・。
んー。
でも、それっ、近づかれると、勝てないってことだよねー。
ロナウド、お爺ちゃんの、弱点みつけちゃったぁ。」
「口だけは、達者じゃの。
いいじゃろう。 近づけるものなら、攻撃してみるがよい。
当たらぬ 攻撃など、脅威ではないわっ。」
なっ・・・ 本当かどうかも定かではない ロナウドの挑発にのって、カーネルさんは、両手を広げ、無防備な姿勢・・・。 大丈夫か? そのピエロは、かなりの腕の持ち主だぞっ。
「おい、見ろよっ? ビフッ。 なんだ? あれは・・・。」
ひょいっと、ピエロが右を指差した。 つられて皆が、右を見る。 まるで、あっち向いてホイだっ。
ピョーン。
ん? ピエロの腕が伸びた? 違う。 ロナウドが、前に向かって、突進するように、跳ね飛んだのだ。 これは、絶招歩法。 センシ・・・
「センシッポね。 決まった?!?!」
センシッポは、遠距離から、真っすぐ前方に跳ね飛ぶと同時に 拳を突き出し、奇襲攻撃をする突進技。 ロナウドが放った この技が、カーネルさんのアゴを・・・
「アゴを、ガードしていたのね。
すごいわっ。
でも『ビフ』って、なんだろう?」
ピエロの動きにつられて、右方向を 見てしまっていたにも かかわらず、カーネルさんは、自分のアゴを ガードしていたのだ。 しかし、ライリューンというお子ちゃまは、危険だ。 『ビフ』に、触れてはいけない。 誰も、元ネタに気づいてはいない。 分かるのは、先日、ケーブルテレビでの再放送を、偶然見た 作者ぐらいだ。
「姑息じゃのぉ。
通じぬ。 通じぬよ。 このような技は・・・。」
こ・・・こそく・・・。 『姑息』とは、『卑怯な』という意味ではない。 「姑」は、しばらく、「息」は、休むの意味。 しばらくの間、息をつくことから、一時の間に合わせにすること。『一時のがれ』『その場しのぎ』という意味である。 大丈夫か? カーネルさん。ちゃんと、正しい意味で使えているのか? 言葉の乱れが、とても気になってしまう。
「ふーん。 これを防いじゃうんだ・・・。
じゃぁ、お爺ちゃん、死んじゃうかもねぇ。
降参するなら、今のうちだよ?」
「何を言うか。
全く 攻撃が 通用してないくせに 強がりを・・・。
口だけじゃな。 お主は・・・。」
「怒らせちゃったからねぇ。 ロナウドを・・・。
ロナウド・マックフライ様の必殺技を、見せてあげるよ。
そう、マックフライ砲手筒を。」
マックフライほぅてとぅ? これは、マズいっ。 フリガナを振ると、確実に危険だ。 下手したら、どこかから、怒られる。
「受けて見るがいい。 いくぞっ!」
マックフライ砲手筒 ~ マックフ・・・自主規制・・・
ロナウドが、両手を筒状に丸め、突き出した。 なるほど、それで手筒というのか。
と、その瞬間であった。
ドーーーーン
激しい衝撃音と共に、カーネルさんが、後ろに 吹き飛んだ。
いったい・・・ 何が起こった?
「んー。ロナウドは、今、ダンスに夢中。
ほらね。 自然に 体が動いちゃうんだ。」
ボクの、目に映ったのは、倒れたカーネルさん。
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カーネルさんは、ピクリとも動かない。
そう、そこには、奇声をあげ、踊り狂うピエロだけが、立っていた。
「ルーンルーン。ララーン
ロナウドは、嬉しくなると、つい殺っちゃうんだ。」
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『バリツ』を習得している人は、高評価を押して次の話へ⇒
蛇足1.バリツ
イギリスの小説家、コナン・ドイルの推理小説に登場する
日本武術。
『最後の事件』で、ホームズは、宿敵モリアーティ教授と
揉み合いになった末、スイスのライヘンバッハの滝に落ちた
とされた、しかし、そこから生還。
ホームズは、『バリツ』という日本の格闘技の心得があり、
それで、モリアーティ教授を投げ飛ばし、すんでのところで
助かったとされる。
一応、渡英した不遷流柔術の、谷幸雄が創始者ということには
なっているが、基本的には、架空の格闘技である。
蛇足2.エーロック・シャメルズ
『ルパン対ホームズ』(Arsène Lupin contre Herlock Sholmès)
Herlock Sholmès エルロック・ショルメ は、アナグラムである。
アナグラムとは、言葉遊びの一つで、単語または文の中の文字を
いくつか入れ替えることによって、別の言葉にさせる遊びである。
名探偵・シャーロック・ホームズを基にしたエルロック・ショルメと
怪盗ルパンの対決を描くルブランの『ルパン対ホームズ』に登場する。
また、伊吹秀明の『養蜂場の決闘』(ホームズの決闘)では、
ホームズが『バリツ』で、ルパンは『不思議な総合格闘技』で、
ワトソンの立会いの下、一対一の果し合いをする話も存在する。
蛇足3.テツザンコー
貼山靠または、鉄山靠。
中国拳法、八極拳の肩や背中による至近距離での体当たり。
自分の体の背中を向け、相手にぶつけ、吹き飛ばす。
至近距離での密着した形での攻撃手段として優れている。
蛇足4.センキュータイ
穿弓腿。
中国拳法、蟷螂拳の蹴り技。
片手で体を支えながら、伸びあがるように逆立ちとなり、
垂直に真上に蹴り上げる。
相手のあごを連続で蹴る技で、奇襲技として優秀。
蛇足5.ホンシケン
翻子拳。
ボクシングに似ている中国武術。
黄河の北、河北で発達した。
猛烈な勢いで連続して拳を相手に打ち込むことを特徴とし、
ロングパンチの連打は、相手を近づけない。
蛇足6.センシッポ
箭疾歩。
複雑な歩法を多く持つ秘宗拳の絶招と呼ばれる歩法を使った技。
前方に真っすぐ跳ね飛びながら、拳を突き出して攻撃する
突進技で、一瞬にして距離を詰めることができる奇襲技として
優れている。
蛇足7.サッカー日本代表
10月12日、オーストラリア戦。
右足で冷静に蹴り込んで先制点をあげた田中選手。
相手のオウンゴールを誘うシュートを打った浅野選手。
素晴らしいと思うのですが、なんか足りないですね。
チームに、引き出しが、少ない気がします。
相手チームが、対応できているんですよね。
横浜F・マリノスの27番、松原健選手を呼ぶなどして、
偽サイドバックの戦術を取り入れるなんていうのも
どうでしょう?
とにかく、相手が対応出来たら、なかなか点は取れない。
事故が起こったら、失点してしまうのは、容易。
と言うことを考えると、サイドバックが臨機応変に
ポジションを取ることで相手のプレスを無効化し、
局面を打開するような動きも必要な気がします。
サンフレッチェ出身の森保監督は、大昔のサンフレッチェ監督
バクスター氏のように、ハメ手を得意とするイメージですが、
バクスター監督も、ハメ手に対応されると、弱かったと
聞きます。
引き出しと言うか、戦術オプションを増やしてもらえない
でしょうかねぇ
蛇足8.大気汚染が原因で死亡 世界で毎年700万人
WHO、世界保健機関は、
石炭などの化石燃料の使用は、温暖化につながる
二酸化炭素とともに、気管支炎などの原因となる
大気汚染物質を排出するとして、大気汚染が原因で
死亡している人は世界で毎年700万人と指摘。
でも、石炭の価格が、とんでもなく上がっただけで、
中国や、インドでは、大規模停電が多発しています。
結構、なくすの難しそうですね。
蛇足9.
日産の元会長カルロス・ゴーン容疑者が、
インタビューで、日本の刑事裁判で自分守れないと
発言したそうです。
まぁ、明るみに出ている報道状況から見たら、
日本の裁判じゃなくても、守れそうにありませんが。
蛇足10.小型モジュール炉の実用化
どこかの国の幹事長が、40年の耐用年数が近づく原発を、
小型モジュール炉に建て替える案をだしたそうです。
もう、原発って研究用に、何基かだけ置いて、発電用には
別の形態を考えたほうが、長期コストに優れる気がするん
ですが、どうなんでしょうねぇ。