２－１０４．カジノ革命 １２
結婚間近の 婚約者との旅行。
それは、とても心躍るモノだ。
しかし、ボクの心を躍らせている相手は、彼女ではない 彼女だ。
カジノの女王！
ライリューン商会のカジノ
ニューゲーム ルーレット
私は、この言葉に惹かれてしまった。 魅せられてしまった。
Ｑｕｅｅｎ ｏｆ Ｃａｓｉｎｏ・・・。
なんて響きだ。 カジノの女王に会いたい。 彼女に会うまで、止まれやしない。
出発してから、何回、見ただろう。 読み過ぎて、ボロボロになった 羊皮紙を眺める。
ルーレット・・・。
ルーレットの回転盤には、ボールの落ちる １から３６までの数字が記された ポケットがあり、数字ごとに 均等に分けられ、それぞれ区切られている。 また、ポケットの下地には、赤、黒の色がついている。 赤と、黒とは 別枠のポケットとして、０と００の数字もあり、これの下地は、緑色だ。
回転盤を回して、ディーラーが玉を投げ入れる。 どのポケットに玉が入るかを、ボクが 当てるのだ。
ボールが ポケットに落ちた場所が、当選の数字だ。
その他、赤と黒の色を当てても良い。 落ちる数字が偶数か奇数かを 当ててもいいし、数列で 賭けても良い。
配当は、元金も含めて、２倍から３６倍。 数字ひとつだけ選んだ場合、当たる確率は３８分の１と低い。 しかし、当たったら賭け金が 一気に３６倍にもなる。
なんとも、ドキドキする ではないか。
揺れる馬車、隣で眠る婚約者。 しかし、ボクは、眠れそうにない。 女王が、ボクを待っているのだから・・・。
[美容師の娘] 【 ２－１０４．回転する運命 】
「あーん。 待ってよ。 ゴローンちゃんっ。」
婚約者の声が、追いかけてくる。
「１階で、待っててくれ。
上で、ルーレットを やってみたいんだ。
絶対、いっぱいのチップを 持って帰ってくるよ。」
軽やかに、階段を上る。
ボクの名前は、ゴローン・キー・ガイナ。
女王との面会まで、あと数メートル。 心臓は、すでにバクバクしている。 今日は、部屋に、財布を忘れてしまったので、婚約者に 小金貨１０枚分のチップを 購入してもらった。 これを、３６倍の配当で、金貨に換えて見せるっ。 いくぞっ。
少し、きょろきょろしながら、テーブルに着く。 遠慮して、ディーラーから距離のある椅子に座ったが、近くに座ったほうが、よく見えるかもしれない。 失敗だ。
ディーラーと呼ばれるカジノスタッフは、２人いる。 １人が、ルーレット担当、もう一人が、チップの交換や配当を行う。 同じテーブルに、お客は、１人。 だけど、ボクが椅子に腰かけると、席を立ってしまった。
チャンスっ。
席が空いたので移動しますよ。 と言った体を装って、ディーラの近く、ルーレット盤の近くへと移動する。 うん。ほぼ中央。 ここなら、テーブルに書かれた 全部の数字に手が届きそうだし、こっちの位置の方が、雰囲気を感じられる。
鼻息 荒く、カゴから チップを取り出す。
ブルー菱チップを見せると、首を振られた。 どうやら、このテーブルのチップと交換しなくてはならないらしい。 しかも、最低額は、小金貨１枚。 今の資金では、１０回・・・。 これは、厳しい 戦いになってしまう。 もっと、少額のテーブルに移りたいが、お客が１人しかいない状態で、最低賭け金が 無いのが見え見えで 移るというのは、いかにも、素人っぽく目立って カッコ悪い。
仕方がない。 全てのブルー菱チップを、このテーブル専用のチップ・・・ホイールチップと呼ばれるプレーヤーごとに色分けされたチップへと、交換する。 あんなにあったチップが、たった１０枚になってしまった。
目の前に立つ 女性を見る。
若く美しい彼女は、スピナーと呼ばれ、ルーレットの回転盤に、ボールを投げ入れ、回転させるディーラーだ。 どうやら、私と同じ、左利きのようで、左手に持った布で、テーブルの端をすぅぃーっと拭いた。 優雅な仕草だ。
テーブルは、ビリヤード台のような、緑のじゅうたんが敷き詰められ、０と００、赤と黒に塗り分けられた１から３６の数字、また、さまざまの賭け方が プリントされている。
スピナーの頭の上にある木製の表は、今までの出目。 過去３０回分の数字が出されている。 データが、公表されており、これを参考に、賭けることが可能なのだ。
この、出目から、回転盤やスピナーの癖を見抜くことが、勝利への道だ。
直近の５回は、赤の１４、赤の９、黒の２、黒の２６、黒の２８。
数字だけ見ると、バラけているようだが、回転盤の並びで見ると、そうではない。 赤１４の左は、黒２。黒２の左は、０。 その左は、黒２８で、赤９、黒２６，赤３０，黒１１・・・と続く。
何と言うことはない。 数字の０周辺。 両隣３つ数字の内５つが、当選数字なのだ。
これに気づけた私は、たぶん、センスがある。
チップは、緑のじゅうたんにかかれた、枠内に置いているのか、線上なのかが、分かるように、きちんと置かねば、ならない。 おそらく、これを怠ると、素人と見られるはずだ。 意識して、数字の書かれた中央に、チップを はっきりと置く。
０，黒３５・・・２か所だっ。
０周辺なのだから、まず、選ぶべきは、０だ。 そして、０の 両隣３つ数字の中から、直近５回で唯一当選していない黒３５。 この２点に 賭けるっ。
面白いことに、０と黒３５は、緑のじゅうたんの右端と左端。 無理をして 腕を伸ばしてるとみられないよう、一瞬、息を止め、１枚、そして、もう１枚・・・チップを 優雅に置く。
私しか、このテーブルにお客がいないので、スピナーは、私の動きがもう無いかをみる。 いかにも慣れている風に 右手を軽く振って見せる。
「 ｓｔａｒｔ 」
スタートだ。 スピナーの女性が、ハスキーな声で 始まりを告げる。
左手が、回転盤の取っ手に伸び、するりと撫でると、回転が始まる。 右手は、玉だ。 舞うような動きで 投げ入れられたボールが、外周辺部を クルクルと回り始める。 抽選の開始だ。
回転盤が回ると、目では追いきれないスピードで 数字がクルクルと流れる。 そして、逆回転のボールは、運命の軌跡を描く。
「 Ｎｏ ｍｏｒｅ ｂｅｔ！ 」
ノーモアベット・・・もうか賭けちゃダメだよ。 の合図があれば、 新たに、チップを置いたり、置いたチップのキャンセルが、できなくなる。
素人には、見られたくない。 しかし、私の目は、ついつい興味深くボールの行方を追ってしまう。 やがて、回転盤の動きは、緩やかになり、数字が読み取れるようになる。 それと ともに、ボールのスピードも 落ちた。
外周辺部のすぐ内側。 そこにある銀色の突起にボールが当たり、跳ねた。 カランっと言う音とともに、ボールが、数字のポケットへと 吸い込まれる。
どこだっ。
回転盤が止まるのと、ボールの着地点が、私の目に映るのは、同時だった。
「 Ｂｌａｃｋ Ｔｈｉｒｔｙ－ｆｉｖｅ 」
スピナーが、告げたのは、黒の３５。 彼女の右手が動き、ライリューン像と呼ばれるガラス製の小さな女神を、じゅうたんに描かれた、的中数字の枠上に置く。 当選のマーカーだ。
ふぅぅっ という息が、漏れる。
「おめでとうございます。」
祝福の言葉と共に、もう一人のディーラーが、ボクの的中配当３６枚チップを、丁寧に積んでくれるのを 横目に見ながら、テーブルの下で、小さくガッツポーズをした。 コレだ。 コレが、やりたかったんだ。 ボクは・・・。
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ルーレットには、『ゾーンストラテジー』という攻略法が ある。
実は、スピナーの頭の上にある木製の表をみれば、ルーレットに慣れた人間であれば、数字の偏りに気づくことが出来る。 ここからが、本当の勝負なのである。 数字が、そのまま偏ったまま進むのか。 それとも、次のシュート・・・ボールの投げ入れで、数字が散らばるのか。 スピナーの意図を読む。 この読みこそが、賭けのだいご味だ。 『ゾーンストラテジー』は、ルーレットの出目の傾向を利用し、前回の出目に近いエリアの数字が「出やすい」か、近い数字は「連続しない」のかの予測を、直近の 数ゲームの傾向から読み解き、賭け位置を決める手法である。 カンで、ひらめいた数字や、誕生日など好きな数字に 賭け続けるより、範囲を決めて、どのゾーンの出現率が高いかを 予測して賭けた方が、的中効率を 上げられるという考え方だ。
具体的に見ていこう。
０と００の緑の数字のポケットは、回転盤の上で、対称の位置に配置されている。 『ゾーンストラテジー』では、「０」と「００」を含むゾーンを、１０個の数字で区切り、含まないエリアは、９個の数字で区切ることで、円盤を４つのゾーン分割して考える。
Ａゾーンは、２３、３５、１４、２、２８、０、９、２６、３０、１１
Ｂゾーンは、７、２０、３２、１７、５、２２、３４、１５、３
Ｃゾーンは、２４、３６、１３、１、００、２７、１０、２５、２９、１２
Ｄゾーンは、８、１９、３１、１８、６、２１、３３、１６、４
たとえば、０シフトと呼ばれるＡゾーンは、０の周辺の１０個の数字。 これが、ゴローン・キー・ガイナ氏が、発見したセンスのある偏った直近５回の当選数字の位置となっていたということだが、実は、ゴローン氏の賭け方は、ゾーンストラテジーの考え方に、のっとったものではない。。
このポイントは、目標とするゾーンの９または１０個全ての数字に、同じ額のチップを賭けることだ。 ３８個中の９個、または、３８個中の１０個の同じエリアにある数字を 押さえるのだ。
『ゾーンストラテジー』で賭けを行った場合、的中すれば、１枚につき ２６枚のチップが返ってくる。 ３回に１回当てることが出来れば、チップが増える計算になる。
理論上は、この方法での的中確率は、４回に１回の当選なので、うまく流れを掴み、これを３回に１回にすることが出来るならば、あなたが、大金持ちになれることは、間違いない。
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赤１４、赤９、黒２、黒２６、黒２８、黒３５
配当も終わり、木製の表に、出目である黒３５が、直近の数字として、新たに並んだ。 さっきのボクの的中は、よい客引きになったようだ。 テーブルに、何人もの人が、座り始める。 それとともに、ディーラーの人数も、２人増え、お客さんたちのチップを、台専用の１人１人色の違うチップへの交換を始めた。
前回の 的中数字のマーカーである ライリューン像が 取り除かれる。
「 Ｐｌｅａｓｅ ｙｏｕｒ ｂｅｔｓ 」
プリーズユアベット。 次の賭けの始まりの合図だ。 再度、１点賭けを行う。 今度は、本物の１点賭けだ。
０っ。
他のお客は、２３、３５、１４、２、２８、０、９、２６、３０、１１などと言った具合に、たくさんの数字に賭けているが、そんなものは、必要ない。 というより、それほどの賭けを、何度も行えるほどのチップが、私の手元にはない。 さっきの配当を含めた、４４枚のチップを、いかに有効に使うかが、私の勝負の岐路となるはずだ。 ここは、先ほどの０周辺で、最後に１つ残った数字・・・ ゼロを選ぶのが 正しい判断だと思う。
先程と同じように、スピナーが、盤を撫でると、クルクルクルと数字が回り始める。 そして、優雅な舞いをみるような 右手の動きで、ボールを 投げ入れる。
かこーん。 糸を引くような 紫の匂いを漂わせながら、ポケットに吸い込まれた ボール。
うん。 当選数字として、ライリューン像が、置かれたのは、赤２３。 これは、先ほどの的中数字である 黒３５の右隣である。
しまった。 ボクが、内側である ０に入ると予想した のに反して、ボールが落ちる位置は、さらに外に 広がったのだ。
２３、３５、１４、２、２８、０、９、２６、３０、１１と賭けている数人が、配当を貰っている。
ちくしょうっ。 外に広がることを予想して、０，赤２３、赤３０と置いていれば、勝っていた。 視野が狭くなっていたことに、腹が立つ。 そうだ３枚だ。 ３枚賭けよう
これで、残りチップ４３枚・・・。 私は、チップを３枚握り、テーブルの上のレイアウトの数字を 見つめる。
赤１４、赤９、黒２、黒２６、黒２８、黒３５、赤２３・・・。
０と、黒１１と・・・もう一枚。 いや、ここは、２枚だ。 黒の４と 赤の７を加えてしまうと ４枚賭けになる。 外に広げた場合、０から数えて、左に３番目までは 直近７回で 出現しているので、選択すべきは、左４番目の黒１１。 ０を挟んで対称となる位置、右４番目は、さっきの赤２３。 そうなると、右側の４個の数字は、既出ということになる。 バランスを考えたら、０と黒１１の ２か所を押さえる方が、効率が 良いはずだ。
回り出した回転盤の数字が、流れていく。 もちろんボールは、逆回転。 ポケットに、ボールが飲み込まれる。 スピナーが、ライリューン像を置いた。
「 Ｒｅｄ Ｔｗｅｌｖｅ 」
赤の１２・・・。 あぁ、黒１１ではなく、赤の１２・・・。 おしいっ。 あと１個数字が ずれていれば・・・。
「兄ちゃん。
悔しそうだが、それじゃ 当たらないぜ。」
なにをっ。 ボクを素人だと思って、バカにしているのか？ この男は・・・。
話しかけてきた、キユカ・タナー・シズミと名乗るその男性は、配当のチップが 周りに配られる間、ゾーンと呼ばれる円盤を ４分割する範囲分けについて 教えてくれた。
「回転盤を見てみろ。
黒１１に賭けて、赤１２の結果に、悔しがっている段階で、ダメだ。
赤１２と 黒１１は、対称の位置。 全く逆にあるだろう。」
あぁ、そうか。 宝くじの当選番号じゃないんだ。 １番違いといっても、ルーレットの円盤上では、全く反対の位置。 惜しいどころか、大外れだ。 指摘されてみると、単純に、ただ悔しがっていた、自分に腹が立つ。
「ゾーンを分けて、９個か １０個に賭けろ。
確率論では、４回に１回は当たる。
そいつを、３回に１回以上にするのが、腕だぜっ。」
まさか、そんな必勝法があったなんて。 道理で、複数がけをしている人が多くて、且つ、的中者が多いわけだ。
赤９、黒２、黒２６、黒２８、黒３５、赤２３、赤１２・・・。
最後の赤１２は、Ｃゾーン。 ００を含む１０個のうちの１個だ。 そこを押さえよう。
２４、３６、１３、１、００、２７、１０、２５、２９、１２。
１０枚のチップを、ばら撒く。
そして、ボールの入ったポケット・・・ 的中数字は・・・。
０・・・ ゼロだ。
くそっ。 さっき入っていれば、３６枚の配当だったのに。
黒２、黒２６、黒２８、黒３５、赤２３、赤１２、０・・・
ゼロは、Ａゾーンだ。 ２３、３５、１４、２、２８、０、９、２６、３０、１１に賭ける。
赤２７っ。違うっ。 そこ じゃない。
黒２６、黒２８、黒３５、赤２３、赤１２、０、赤２７・・・
赤２７は、００の隣。 えーと・・・次に賭けるのは、Ｃゾーン。 ２４、３６、１３、１、００、２７、１０、２５、２９、１２っ。
赤９ぅぅぅぅ。 なんだこれ？ 賭けた数字の、逆ばかり 来るじゃないか。
黒２８、黒３５、赤２３、赤１２、０、赤２７、赤９・・・
分かった。 これは、逆張りだ。 もう一度、Ｃゾーン。 ００の周辺１０個に張る。黒 ２４、赤３６、黒１３、赤１、００、赤２７、黒１０、赤２５、黒２９、そして赤１２。 チップは、１枚１枚、丁寧に 枠の真ん中に。
スピナーが、ボールを手にした。
スタート。回転盤が、くるくると回る。
「 Ｎｏ ｍｏｒｅ ｂｅｔ！ 」
もう、数字を変えることはできない。 ボールが、ポケットに落ち、ライリューン像は、緑のじゅうたんの上に 安置される。
「 Ｂｌａｃｋ Ｔｈｉｒｔｙ－ｆｉｖｅ 」
無情なコール。 黒３５・・・。チップが、木っ端みじんに散ってしまった。 残るのは、手の中に握り込んでいる １枚のみ。
そうだ、小さなことからコツコツだ。 １点賭け・・・３６倍賭けだから、当たらない。 ボクは、方針を変えた。
赤の数字に入るか、黒の数字に入るかを当てるのだ。 これなら、当たった場合の配当は、２倍。 著しく配当は、下がるものの、３８分の１８・・・。 ４７．３％の確率で 当たる。
黒・・・赤・・・どっちだ。 自分の服の色を見る。 黒だっ。 そうだ、これだ。 残る１枚を、黒の位置に・・・ 最後のチップを 賭ける。 頼むっ。
クルクルと回る円盤に、カコーンと言う音が響く。 回る運命が止まった 瞬間だ。
・・・０。
そう、赤でも黒でもない数字。 ０と、００だけは、下地が緑色なのだ。 外れである。 最後の１枚のチップは、無情にも カジノに 回収されてしまった。
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「あぁ、そういえば、緑だったな。」
憔悴しきった顔で、椅子から立ち上がった瞬間、ゴローンは、１階に置いてきた 婚約者の目の色を思い出した。 美しい翡翠のような 彼女の緑色の瞳を・・・。
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瞳の色が緑色の方は、高評価を押して次の話へ⇒
蛇足１．水素燃料
フランスの西部の沿岸に、水素の製造工場が建設されました。
９月３０日、工場の稼働を記念する式典が開かれたそうです。
近くの風力発電所から電気を引き、
海水をくみ上げ分解して水素をつくる。
温暖化の原因となる二酸化炭素を排出しないグリーン水素。
同じ技術を使った工場や施設をドイツやデンマークなど
１０か国に展開予定らしいですが、
この方式が、広がると、ある車の会社が有利になりそうです。
水素燃料電池自動車を作る会社ですね。
現在、電気自動車が、優位ですが、
一瞬で立場が入れ替わる
可能性があります。
ちょっと気になりますね。
