2-102.カジノ革命 10
すいへーりーべー ボクどらえも・・・
ななまがりしっぷす くらーくか・・・
すこっちばくろまん・・・
ん? 何の呪文だろう。
研究室から、聞こえる声の主は、ライリューン。
「何言ってるの? ライリューン。」
「あぁ、元素の周期表って いうのを覚えてるの。
教授が、覚えろって言って 表を置いていったから。」
あぁ、なんかあったね。 すいへーりーべーで、元素番号1番から順番に、水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム・・・ だったよね。
「うん、縦にも、覚えなきゃ ダメなんだよね。」
「縦?」
「そう。 縦の順番も、覚えるの。」
ふーん。 頑張ってね。 私は言われてないから やらなくても 大丈夫だね。
ライリューンの ブツブツは続くが、私は、私で やることがあるのだ。
へんなねぇちゃん アレして コレして
Sっくす らんらん Oるがずむ・・・
ふっくら Bらじゃー AIのあとってね・・・
おーすげー Sっくす てくは
Pるのなみ れべるたかっ・・・
「ちょっ・・・ライリューン。 なんて呪文唱えてるのよ。」
「いや、右から 縦読みしてるだけだよ。」
右から・・・ 縦読み・・・
えーと、右から1列目が、Heヘリウム、Neネオン、Arアルゴン、Krクリプトン、Xeキセノン、Rnラドン、Ogオガネソン・・・。
2列目が、Fフッ素、Cl塩素、Br臭素、Iヨウ素、Atアスタチン、Tsテネシン・・・。
3列目が、O酸素、S硫黄、Seセレン、Teテルル、Poポロニウム、Lvリバモリウム・・・。
そうだね。 一応、合ってるね。
何も言えずに、イライラしながら、自分の研究室に戻り、ワインを並べる。
コウ州産ワインと、カヤオマ州産ワイン。 赤と白とロゼ。 そして、スパークリングワイン。
うーん。 私の課題は、難しい。 とりあえず、順番にやっていかなきゃダメだね。
そう思って、集中しようとするんだけれども、ライリューンのブツブツが、まだ聞こえてくる。
ベッドに 潜って 彼とするのは バラ色の世界・・・
うるさーいっ。 そんな、縦読み、聞いたことないよっ!
[美容師の娘] 【 2-102. ワインを 作れっ 】
ナカヨシが、私に与えた課題は、ワイン作り。
コウ州産ワイン、カヤオマ州産ワイン。
これを、ライリューン商会で 販売することになっている。
赤ワインのブランド名は、ウェンディ。
白ワインは、イアン。
ロゼは、アリー。
そして、スパークリングワインのブランドは、ベルディアン。
もちろん、ベルの サイレントベルディアンから 取ったものだ。
それぞれを、新ブランド名で、売りに出す。 たとえば、コーシューの2017であれば、イアン~コーシュー2017となるわけだ。
香水や、香りの石鹸のアリーブランドのように、これらのワインは、高い地位に位置するブランドとなる。 おそらく、貴族や、大商人、あるいは、ホームカンシ教の高位の聖職者たちが、口にすることになるのだろう。
しかし、残念ながら、庶民にとっては、手が出る値段ではない。
・・・っていうか、価格設定が高すぎなんだよ。 テレサさん、どれだけ、ぼるつもりなのよ。
と、いうことで、香りのブランドと同じように、お手頃価格の ライリューンブランドを作ることになった。
まずは、くずブドウを取り出す。。
そう、コウ州からは、ハサミで、ちょいちょいちょいと 除かれていた、小さいまま成長をしない ショットベリーと呼ばれる未熟粒や、カラスなどにツツカれた破砕粒を、持って帰って来た。
カヤオマ州でも、皮の色素が少なくなって、着色が悪くなった 黒ブドウを 箱に詰めたものが、荷馬車に 乗せられていた。
これらを使って、基礎となる ブドウのしぼり汁のジュースを作る。
これに、エステルを加えていく。
試験管を振って、果物の匂い、酢酸エチルや、酪酸ペンチル、カプロン酸エチルなどなど。 たくさんのフルーティな匂いの素を作った。 そうだね。 ナカヨシは、あの時から、これを計画してたんだろう。
匂いの素を、魔法で再現した液体を、少しずつ、ブドウのしぼり汁のジュースに加えて、熟成されたワインの香りに近づけるのだ。
ナカヨシに言わせると、味が分かる舌の持ち主なんて、1000人の人がいたら、100人程度しかいない。 ブドウのしぼり汁に、エステルを加え、匂わないアルコールを水魔法で作り出して加えて 1週間ほど放置すれば、そこそこのワインが出来る。 とのことであった。
ほんとかなぁ? って思うけど・・・。
まずは、マスカットベリーエックスの搾り汁をろ過する。 ろ過し終わった、ブドウのジュースに、イチゴ、梅などの赤系果実の香りや、バラの香りを加えていく。
んー・・・一口飲んだけれど、全然違う。
フルーツ感は、豊かだけれど、ピュアな口当たりが、無い。 中盤から後半にかけては、ふくよかで自然なうまみが・・・広がってこない。
一口ずつ、交互に飲むと、偽物の質の悪さが 良く分かる。
上手くいかないねぇ。 木樽の感じも全くないし・・・。 これは、ナカヨシの見込み違いじゃないかなぁ。
「どうじゃ? 出来ておるか?」
噂をすれば影っ。 ナカヨシが 研究室に顔を出した。
「無理だよぉ。
どうやっても、変な ぶどうジュースにしか、ならない。
木樽の香りだって、つけるの できてないし。」
「ん? 木樽は、簡単じゃぞ?
バニラの香りの 応用じゃからの。
ワシの、バニリン作りを、応用すればよい。」
はぁ? なんで、ここで『ナカヨシ印のバニラの香り』が出てくるのよ。
『ナカヨシ印のバニラの香り』って言うのは、バニリンを 実験で分離した後、その化学構造を魔法で覚えた ナカヨシが、バニラの香りを 作り出して販売している香料。
「それは、バニラ豆から、オイゲノールを取り出すからじゃ。」
おいげのーる?
あぁ、そういえば、やったね。
丁子という植物から、精油を取り出して、オイゲノールを抽出してみたり、バニラ豆から、オイゲノールを取り出して、バニリンを分離したり。
で、そのオイゲノールが、どうしたの?
「まだ、気づかぬか?
あれが、木樽の香りじゃ。」
え・・・?
慌てて、魔法を構築し、オイゲノールを作り出す。
ほんとだっ。 木樽の香りっ。 気づかなかった。
オイゲノール・・・これは、ぶどうには、ほとんど含まれていない物質。
しかし、ワインには、クローブの香りがするものがある。 クローブの特徴的な香りのもとである、オイゲノールの匂いだ。
もう、お分かりだろう。 このオイゲノールは、オーク樽に多く含まれてるのだ。
つまり、木樽の香りには、ワインが木樽で熟成されている段階で樽から溶け込んだ オイゲノールが含まれる。 樽のトーストが強いほど、オイゲノールの香りは強くつくため、ヘビートーストの木樽を再現するなら、いっぱいオイゲノールを入れればいい。 ・・・なるほど。
「それに、コーシューの皮には、オイゲノールが入っておる。
コーシューワインを再現するときには、少量入れるべきじゃ。」
なんと、コーシューで作った白ワインには、クローブの香りを感じるものが多くあるらしい。 これは、ブドウの皮の下に、オイゲノールを含むため。
しかし、ナカヨシって、いろいろヤバい人だなぁ。 どこで、そんな知識を手に入れたんだろう? パラリと、学園のパンフレットの羊皮紙の皮をめくる。 見たいのは、教授紹介のページだ。
ミジカイ・ナカヨシ・アンターナッハ。
ハチスカ王国出身の 魔法薬学者。
薬品製造、砂糖精製、電気メッキ、銃、大砲など、多岐に わたる研究を国内で行う。 その後、ハチスカ王国の派遣留学生として、プロセム王国に留学。 プロセム王国の ルリンベ大学で 化学を研究し、学位を得た。
ルリンベ大学では、タフマン教授に 請われて 私設助手となり、そのまま プロセム王国に13年間 滞在。
帰国後は、王立 飛翔師 学院に請われ 教授に 就任。
現在、王立 飛翔師 学院 の 筆頭教授を つとめる。
「この知識は、プロセム王国のルリンベ大学で得たの?」
「ん? あぁ、パンフレットか。
そうじゃな。 タフマン教授に、教わったものもある。」
ルリンベ大学で、ウグストア・ヴィルムルヘ・フォン・タフマン教授に師事したナカヨシは、丁字油から オイゲノールを抽出し、誘導体を作る実験を行った。 また、バニラ豆からオイゲノールを経由してバニリンを分離することに成功。 その他、バニリン酸、桂皮酸の誘導体などを 作り上げるなど、数々の研究成果を ルリンベ大学であげたのだ。
「お主に 今 教えておるのは、ワシが、一度通った道じゃな。
まぁ、模造ワインは、作っておらぬが、応用じゃ。
やって見るがよい。
あっ、これも 置いておくから使え。
これを、一人にしておくと、うるさくて、かなわん。」
そう言って、ナカヨシは、ライリューンを置いていった。 うん、あの 呪文 うっとおしいもん。
「ひどいよね。 ナカヨシ教授が 覚えろって言ったのに。
もう、覚えないよーだ。」
いや、あの覚え方は、ひどいと思う。 聞くに堪えないもん。
「じゃ、模造ワインを作るから、味を比べていってね。」
とんとんとん。 と、今まで作ったものと、本物のワインを 並べる。 ちょっとずつ 口をつけていくライリューン。
「ん? 全部ダメじゃん。
全く違うよ? そもそも、アルコール入ってないし・・・。」
ライリューンが、水魔法で、アルコールを作り出す。 模造ワインのカップに、アルコールを注ぐと、ぶんぶん振り回して、撹拌っ。
「ちょっ・・・。 ワインって、振っちゃダメでしょ?」
「いや、これ、ワインじゃないし・・・・。
あのね、熟成したワインだから、静かに寝かせるの。
振ったらダメなのは、澱ができて、味が落ちるから。
これなんて、ただの香り付き ブドウジュースよ。
振ったところで、味なんて、そう変わらないわ。」
う・・・。 反論できない。
「うん。 アルコールが、入ったら、ちょっと違うね。
これね、別のワインとして 扱えばいいと思う。
同じものを再現しようとするから、出来ないんだよ。」
あぁ、確かにっ。
そうよね。 同じものを再現しようと思っても、そもそも熟成すらさせてないんだから、出来るわけがない。 発想の転換だね。
「よしっ、これに、さっき言ってたやつ。
オイゲノールって言うのを、入れてみて。」
ライリューンが選んだ、一番できのいい試作品に、オイゲノールを数滴・・・ポトリと落とす。
「うーん。 木樽で熟成した感じが出てきた。
いいねぇ。 じゃ、桂皮酸エチルも入れて。」
ポトリと、桂皮酸エチルも数滴。
「わっ。 全く違うのになった。
これいいかも。 この分岐で2個に分けよう。」
な・・なんと、ライリューンが参加して3分で、2種類の試作品の方向性が、出来てしまった。 ワインだと、有能だなぁ。 米の醸造酒の時は、ただの よっぱらいのおっさんだったのに・・・。
「精油作ってたでしょ? アリー。
ナツメグの・・・。 あれ入れてみない?」
ミリスチシンだね。 あれは、甘苦いから、私 嫌いなんだけどね。
「うん。 甘さと、苦さを思わせる香り。
ほろ苦い木樽の香りが付いた。
これは これで、アリだと思うよ。」
私も、一口飲んでみる。 うっ、だめ。 なんか濃い。 私には、ダメだな。
「ゼラニウムの香りも、入れてみない?」
ん-と、ゲラニオールやシトロネロールだよね。 バラの香りで 入れてるんだけど?
「ハーブっぽさが混じる グリーンフローラルが欲しいの。
感じが変わりそう。」
とりあえず、ライリューンの言うとおりに やってみよう。
1時間もすると、試作品のカップで、私の実験室が、いっぱいになった。
「赤は、5~6種類くらいに 絞りたいんだけど。」
「ん-。 確かに。 これじゃ数が多すぎるね。」
とりあえず、選ぶなら、ライトボディ感覚のもの、ミディアムボディのもの、フルボディのもので、3種類よね。
まずは、私が、1種類選ぶ。 ミディアムで、香り豊かでベリーやバラを思わせる心地良い香りと、クローブやナツメグを連想させる スパイシーさがあるものが、私はいいな。
ライリューンが選んだのは、しなやかで 上品な味わいの フルボディ模造赤ワイン。
ブラックチェリーやプラムといった黒い果実のような香りづけをした、しっかりした フルボディワイン。 おだやかな酸、なめらかなタンニンの後味。 じつは、これ、カタイワシからとった、出汁を少し加えて、うまみも加えている。 これは、カジノ地下の うどん店、インナ・ゲーガラヒさんの所から 手に入れたものだ。 クローブっぽい香りも加えて、魚臭さを消している。
ライトボディは、簡単。 そもそも、ライトボディは、熟成に向かない感じの早飲みタイプ。 ぶどうジュースプラスアルコールの段階で、ほぼ完成している。 これに、イチゴやチェリーのようなフルーティな香りを加え、タンニン少なめ、ほどよい酸味、エレガントで繊細っというか、細くて壊れそうな 味わいに仕上げたものを 選んだ。
「あと、2~3種類は、1週間 寝かしてから決めない?
私は、2種類、フルとミディアムで いいと思う。」
そうだね。 ナカヨシも、1週間寝かせるように言ってたし、そうしてみよっか。
すぅっと、椅子から立ち上がると、足がふらつく。 ちょっと飲み過ぎたみたい。 私とライリューンは、ほろ酔いで、休憩室に向かう。
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「アリー。 私、今日、こっちに 泊めて。」
うん。 私も、今日は、寮には、帰らない。 休憩室に泊まる。 いやぁ、研究って ホント大変だわ。 ・・・ひっく・・・うぷっ。
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元素の周期表、すべて覚えている人は、高評価を押して次の話へ⇒
蛇足1.元素の周期表
一般的な周期表では、水素は、左上の場所にあります。
しかし、これは適切な位置ではないのではないか? と言う議論があるようです。 水素は、アルカリ金属に似た性質と、ハロゲン的な性質を併せ持ち、1p軌道が満たされる状態から、ひとつ電子が少ないと捉えると、フッ素たち の仲間とも みられるからのようです。
と、すると、ライリューンの呪文は、どうなるのでしょうか?
ふっくらBらじゃーAIのあとってね・・・
F、Cl、Br、I、At、Ts
そうですね。 Fフッ素の上に、H水素を 入れてみましょう。
えっちっ。ふっくらぶらじゃーあいのあとってね。
H、F、Cl、Br、I、At、Ts
んー。 使えないことはないですが、ほんの少し 違和感があります。
呪文に美しさが無くなるので、アリーの世界では、水素は、アルカリ金属の上に置いておくことにしましょう。
蛇足2.立体の元素の周期表
平面的な周期表では、周期表の両端は、断絶しているように
見えますが、実は1段違えて、くっついています。
らせん状に 円柱形に なっているんですね。
ネオンの横は、ナトリウム。
アルゴンの横には、カリウム。
2003年2月に 発売された、エレメンタッチと呼ばれる
立体の元素の周期表は、円柱形です。
平面の周期表は世界地図。
エレメンタッチは、周期表の地球儀と言われますが、
まさにその通りなんでしょう。
ってことで、京都にある大学のホームページの型紙をダウンロードして、切って作ってみましょう。
すごく分かりやすい。
しかも上から見たら、s・p軌道、d軌道、f軌道が分かる・・・。
Zn、Cd、Hgが、それぞれ、Ca、Sr、Baの間に
挟まる所など、分かりやすい。
これ、小学校の時に、欲しかったですね。
これがあれば、理科が、好きになったかもしれません。
さて、ライリューンの 呪文です。
ベッドに潜って彼とするのはバラ色の世界・・・
Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra
ここに、Zn、Cd,Hgなどが、挟まります。
Be,Mg,Ca、Zn,Sr,Cd,
Ba,Yb,Hg、Ra、No、Cn
困りました。
ベッドに潜って、かぜシロップをください。
バカ言ってるハゲらの子ペロっ。
無理です。 美しさがありません。
風邪をひいて、ベッドの中で、シロップを舐めようとするハゲている人の子供・・・。
頑張っても、意味が、全く通りません。
特に、Ybイッテルビウムが、使いにくい。
とにかく、Cnコペルニシウムも、邪魔です。
呪文に 美しさも 意味も無くなるので、アリーの世界では、周期表は、平面のままにしておきましょう。
蛇足3.どんな名前にしたっけ?
※『ナカヨシ印のバニラの香り』 の初出
2020/12/17 09:00
1-6.ダイエットしなきゃダメ? [1]
https://ncode.syosetu.com/n6487gq/6/
※バニリン の初出
2020/12/21 09:00
1-8.テレサさんは 美人
https://ncode.syosetu.com/n6487gq/8/
※ナカヨシの、プロセム王国留学 の初出
2021/03/24 09:00
2-19. ミジカイ・ナカヨシ・アンターナッハの基礎魔法薬学
https://ncode.syosetu.com/n6487gq/55/
※カタクチイワシ の初出
2020/12/13 09:00
1-4.お魚を捕まえよう
https://ncode.syosetu.com/n6487gq/4/
→じつは、これ、カタクチイワシのダシを少し加えて、うまみを加えている。これは、カジノ地下の うどん店 インナ・ゲーガラヒさんの所から手に入れたものだ。
例えば、イワシの名前、何にしたっけ? とか、
ナカヨシが留学した先は、どこだっけ? とか
たしか、出身は、ハチスカ王国だったかな? など
何種類か候補を考えてから、選びましたので、その時に、どっち選をんだかも、ハッキリしません。
ってことで、昔の話を、さかのぼるわけですが、さすがに、12月のものが多すぎ。 ほとんど、覚えていませんでした。 これ、既に、どこかで、つじつま合わない所が出てきていそうですね。
つじつまが合わない箇所に、気づいた場合は、矛盾を、想像力で埋めていただけると幸いです。