2-99.カジノ革命 7
「わざわざ、行かなくても いいんじゃない?」
「どうせ、内装工事が 終わるまでは、何もできんじゃろ。
それならば、少し休んで 楽しめばよいのじゃ。」
「そうよ。 それに、これも、お仕事ですから。」
馬車には、テレサさんと、ナカヨシ。
向かう先は、カヤオマ州。
カヤオマ州は、日照時間が 長いことで有名だ。
川を挟んだ向こう岸の、サヌキ州の次に、太陽が 照っている。
ただ、向こう岸のサヌキ州は、雨が降らないせいで、日照りが、たびたび 起こるらしいけれど、こちら カヤオマ州は、水不足が 無いのが特徴だ。
ちなみに、カジノ地下の うどん店に居る インナ・ゲーガラヒは、サヌキ州の出身で、この川に、橋を渡す仕事をしたと 聞いている。
ゴトゴトと、進む私たちの馬車の後ろには、大型の荷馬車が続く。 何台も。 何台も。 何台も。 って、その数は、200台超えてる? やばっ。 どんな商隊よ。
荷馬車には、アリーブランド、ライリューンブランド、ナカヨシブランドの香水と、石鹸を満載している。 向こうで、割増料金で売るらしい。 テレサさん、商売上手。
あっ、あと、空いている荷馬車は、その他に、良く分からない 木の樽が 積み荷として乗っている。
しかし、今回の目的は、香水販売ではなく、マスカットベリーエックスの赤ワイン。
この前、ライリューンたちと選定したワインのうち、王都近くで作られている物を、受け取りに行くのだ。
わざわざ、行かなくていいと 思うんだけどね。
[美容師の娘] 【 2-99. ロゼワイン赤ワイン白ワイン 】
ブドウ畑を案内してくれるのは、ゼンピョウ・エカ・ワカミ氏。 葡萄園の主だ。
「最近はね、雨が降るんですよ。 大雨が。」
そう、少雨で日照時間が長いことで 有名な ここカヤオマ州では、近年、気象状況が変わってきており、大雨が降るようになってきているらしい。
ブドウは、長雨や大雨にさらされると、カビが生えて、腐ってしまう。 長雨や豪雨の頻度が増えて、マスカットベリーエックスの栽培に影響が出てきているのだ。
「しかも、気温も上がってきていて・・・。
ちょっと、味がねぇ。」
ここ、カヤオマ州では、夏場から、収穫の時期にかけて、気温が30度を超える日が 続いている。
「昔は、28度くらいで、暑いって言っていましたけれど。
今は、そのくらいは、当たり前になってきてしまいました。」
気温が30度を超えようになると、皮の裏側の色素が少なくなり、黒ブドウの着色が悪くなる。
マスカットベリーエックスは、すっきりとした おだやかな渋みと 甘味が感じられる黒ブドウ種なのだが、色が薄くなると、酸味と香りのレベルが 低くなる。
ワインに仕上げた時に、フレッシュな果実の風味と、鋭さのある酸味が、感じられにくくなり、軽いタンニンの渋みが、えぐみに変わってしまうのだ。
「収穫を前に、枝を切り落として、工夫しています。
しかし、なかなか難しい。」
ゼンピョウさんは、年に1度、5月ごろに、思い切って枝ごと切り取っているのだ。 こうすることで、枝が、もう一度、生えそろってくるまでの、40~50日間、ブドウ生育が止まり、着色までの時間も40~50日程度、遅れる。
通常、着色が始まるのが、夏真っ盛りの8月で、9月中頃は、収穫時期だ。
これが、枝切りにより、9月の中頃に、遅れて着色が始まるようになる。 9月だから、当然、温度も、夏よりはやや低め。 成熟も遅れてしまうため、収穫は、11月と遅くなってしまうものの、色づく時期の温度が低くなったことで、今までと 同じくらいの品質の黒ブドウ、マスカットベリーエックスの果実が 得られるようになった。
「それで、ここ数年、ワインの入荷が、おかしかったのね。」
さすがに、テレサさん。 流通状況に 詳しい。
「そうですねぇ。
5年前くらいから、やっと、質と量が、安定しました。
枝切を始めた当初は、良いブドウが、少なかったので。」
額の汗を拭きながら、ゼンピョウさんが、色づき始めた ブドウの房を撫でる。
「それじゃ、ワインを 頂きましょうか。」
農場に併設されるように建てられた、ワイナリーから、運び出されてきたのは、2年物、3年物と、4年物。
「フルーティだし、フレッシュね。」
テレサさんが、口にしているのは、マスカットベリーエックスのロゼワイン。
美しい輝きと、透明感を持つ、チェリー色のかかったバラ色の液体が、甘い香りを放つ。
もぎたてのぶどうを 思わせる フレッシュな味わい。
華やかな香りを、さわやかな酸味が 引き立てる。
フルーティで果実感たっぷり。 ほのかな甘みが特徴だ。
「果汁を低温で発酵させて、このような味に仕上げています。」
ゼンピョウさんが言うには、昔の帝国との戦争で、カクヘイキと呼ばれる武器を収納していた 地下蔵で、ワインを発酵や熟成をさせている。
タンク熟成の比率は85%、樽熟成が15%で、1~2年熟成させ、あとは、瓶に詰められて、瓶熟成される。
ステンレススチール製タンクで熟成が行われるのは、機密性が高く、温度調節が容易なので、タンク目一杯にワインが入っている場合、ワインの酸化が、少なく高い品質が保たれるためだ。
ただし、ゼンピョウさんのマスカットベリーエックスから作られるワインは、十分なボディーを持つので、樽熟成しても、元々の香味を失わず、酸化による褐変にも、ある程度まで耐えられる。
15%が、オークの木樽で、発酵熟成されているのは、このためだ。
基本的に、高価な木樽を用いるのは、購入コストがあまりに高い。
かつ、実は、ステンレスと比べて作業コストも高いため、木樽を用いるのは、経済的ではない。
作業コストのほとんどは、温度・湿度の管理と、蒸発のチェック。 そして、トッピングと呼ばれる 注ぎ足しだ。
これは、蒸発による減少分を補うための作業である。
貯蔵室の湿度が60%より低いと、水が多く失われ、60%より高いと、アルコールが、多く失われる。 どちらにしても水も、アルコールも蒸発するわけだ。
たとえば、1~2年間10℃で樽熟成したとすると、250リットル容木樽を用いたとき、蒸発によるワインの損失は、5~12リットル達する。
木樽内に、大きな空間ができると、そこに入り込んだ空気により、ワインの酸化が起こる。 ここに、ワインを注ぎ足すのだ。
この作業が、バカにならない。
それでも、木樽を熟成目的に用いるのは、香りづけのため。 タンニン性のボディーからの渋みを引き立たせるためだ。 樽で熟成することで、ポリフェノールをゆっくりと酸化させ、一部を沈殿させる。 そして、ワインにオークフレーバー感を加え、ブーケの複雑性を加えるのだ。
「まぁ、その高い高い高い木樽ですが・・・。」
「ほほほ。高いだなんて。
とっても、貴重な木材を丁寧に仕上げてますのよ。」
そう、その木樽を用意しているのが、木材をを扱う商会。 テレサさんのアンターナッハ商会。
そういえば、荷馬車にいっぱい積んでたなぁ・・・。
乙女と、オークの木樽の命は短い。
香りづけのために用いることが出来る時間は、せいぜい5~6年。 その後の木樽は、下取りに出されて、アンティーク風の木箱や本棚、あるいは、ワインボックス、一部は、植木鉢などとして、生まれ変わる運命だ。 その木箱や植木鉢も、アンターナッハ商会が取り扱うことになるのだが。
「そこまでして、木樽を使っても、味が分かる人は、一握り。
ほとんどの人にとっては、うんちくを語るためのものです。」
なので、樽熟成は、15%混ぜることで、コストのバランスをとっているらしい。
この程度の量をブレンドするだけでも、分かる人には、味の違いが判るらしい。 また、分からない人は、ラベルの表示に、樽熟成の文字があることで、満足いただけるので、問題はない。
私も飲んでみたけれど、樽香は、ほとんど わからない。 指摘されないと、たぶん 気づかないだろう。 うん、ラベル表示は、大切だ。
「こちらも、よく出来ておるの。」
ナカヨシが、口にしているのは、マスカットベリーエックスの赤ワイン。
紫を帯びた、明るいルビー色の液体が、華やかな香りを放つ
バラ、キイチゴ、さくらんぼの香り。 そして、ほのかな樽香と キャンディ香が、鼻をくすぐる。
「フルーツ感が豊かで、ピュアな 口当たりじゃ。
ほどよい酸味と、タンニンの渋みが よいな。
後味の方で、うまみの骨格になっておる。」
タンク熟成80%、樽熟成20%のそれは、ロゼとちがって、口に含んだ時の ほのかな樽香を、私でも感じられる。
余韻まで 香りが残っているのも良い。
果実感のある 軽やかな赤ワインだ。
で、私の持つグラスは、これ。 ブドウジュース?
搾りたてのマスカットベリーエックスの濃い味が・・・。
うん。 ちょっと濃すぎるね。
加水する。
このくらいで割ると、スッキリおいしく飲めるわ。
「では、頼んでおいただけ全て持って帰るわ。
アリーも、ナカヨシも、準備をお願いね。」
え? 頼んでおいた? すべて持って帰る? 準備をお願い?
テレサさんが、良く分からない 不穏な発言をする。
さっと、ゼンピョウさんが、立ち上がり、スタッフに指示をする。
ずらりと 外に並ぶ荷馬車に、ワラが 敷かれる。
そして、その上には、ワイン収納ボックス。
このボックスは、便利で、1箱に 12本のワインボトルを 収納できる。
1本ごとに、斜めに組まれた板によって 仕切られているため、瓶自体が、輸送によって 傷むことは、そうそう 起こらない設計だ。
まぁ、荷馬車は揺れるので、中に澱が出来たりして、多少ダメージを受けるのは、仕方ないだろうが・・・。
1個1個の箱を確認しながら、ふたが閉じられる。 これで、もう中のワイン瓶が、固定され、中で、揺れることはない。 あとは、荷馬車の揺れをどれだけ、敷き詰めたワラが、吸収してくれるかにかかっている。
これを引くのは、ラバ。
オスのロバと メスの馬を 掛け合わせたのがラバで、雑種強勢の原則により、親より体格が大きく、粗食でも問題が 無く、その上、耐久性もある。
ロバは馬に比べて足が遅いが、よりパワーがあり、重い荷車を牽引させることができる 特徴があり、もちろんラバも、その特徴を 受け継いでいる。
ワインの運送のように、慎重に運ぶ必要がある場合、馬のようなスピードは、必要ない。 ラバは、ワイン輸送に 最適な生き物なのだ。
マスカットベリーエックスの ロゼワインは、荷馬車60台分。
マスカットベリーエックスの 赤ワインは、荷馬車100台分。
ブドウジュースの原液は、荷馬車10台分。
あとの数十台には、皮の色素が少なくなり、着色が悪くなった黒ブドウを箱に詰めたものが、乗せられる。
「カジノに必要なのは、多くても1台分なんだけど。」
荷馬車1台には、600程のボックスが 積まれている。
そう、おそらく、ロゼも、赤ワインも合わせて荷馬車1台分あれば、カジノで消費する1年分相当が、見込めるはずだ。
「何、言ってるの。
ライリューン商会で、販売するのよ?」
な・・なんと、ライリューン商会で、このワインを取り扱う予定になっていたらしい。 商会長の私、全く知らなかった。
「じゃ、冷やしてね。」
そう、私と、ナカヨシのお仕事。
それは、火魔法で、温度管理をすることだ。
断熱材などは無いため、いくつも積んだワイン収納ボックスの周囲には、ワラを敷き詰めてある。 このワラは、クッションとしての役割とともに、断熱材としての働きが期待されている。
雨風や、直接の日の光は、積んだボックスの上にかけられた動物の皮で出来た 幌のような形状の布で、覆われているため 防ぐことが出来るが、熱を防ぐことは 難しい。
そこで、私たちの出番だ。
200台ほどの馬車を定期的にグルグルと周り、ワラを魔法で、冷やしていくわけだ。 冷やしすぎて、ボックスを痛めると、荷崩れが起こるため、ボックス自体には、魔法をかけてはならない。 上下左右、周囲に敷き詰めた ワラを冷やすことで、周りの温度に影響されない ワイナリーの地下蔵に 近い環境で 輸送することが出来る。
魔法って偉大だ。
もちろん、普通の魔法使いでは、このような 膨大な積み荷を 冷やすことはできない。
しかし、そこは、私と、ナカヨシ。
圧倒的な魔力と、繊細な魔力操作で、それぞれの分担する 荷馬車を 冷やしていく。
もちろん、割合は、ナカヨシ150に対して、私50と端数という感じで、均等に 分けてもらった。 均等にっ。
いや、魔力は私の方が多いけれど、冷却までの発動が、早いんだよ。 ナカヨシの方が。
王都外れの アンターナッハ商会の倉庫に たどり着く直前、少し大きな小屋の手前で、私たちの馬車が止まった。
「ん? どうしたの?」
「ここに、入り口を 一つ 作っておこう。」
私には、何のことか 分からない。
「そうね。 ここなら安心だし。」
あら? ナカヨシと、テレサさんは、分かるのね。 さすが夫婦。
ナカヨシは、小屋の扉を がらがらと開く。
結構な 広さのある 小屋ではあるが、中は、からっぽ。
ナカヨシが、膝をつき、手の平を地面につける。
ぐっと、魔力を込める気配を感じた途端、小屋の地面が グググっと下がっていった。 おだやかな 斜めの傾斜をした穴が ドンドンと広がっていく。
「アリー、続きを やってみるか。
トンネルを あちらの方向まで 進めてくれ。
あっ、倉庫近くになったら、慎重にな。」
私も、同じように、手を地面に当て、土魔法を 発動させる。
どうも、発動や、その掘削スピードは、ナカヨシに 敵わない。
私の方が、魔力が 多いはずなのに。
「それが、魔力操作の 精度の差じゃな。
お主も、50年ほど魔法を使い続ければ、出来るはずじゃ。」
ながっ。 50年って、おばあちゃんに なってるじゃん。
くだらないことを言い合っていると、真上に アンターナッハ商会の倉庫が 近づいてきた。
「よし、代わろう。
ここからは、慎重に掘らねば、崩れてしまう。」
ナカヨシが、横壁に、手を当てると、ボコっという音がした。
そのまま、穴が開く。
あっ、地下蔵・・・。
そう、いま魔法で作っていた、この横穴は、アンターナッハ商会の地下蔵へと 続く地下通路。
「この 地下蔵も 急造でな。
出発前に 1日で作った物じゃ。」
テレサさん、人使い荒いな。
ナカヨシが、いいように 使われている。
私も 気をつけておこっと。
小屋から掘りすすめた、斜めに下る 地下蔵への通路。
これを 荷馬車が、進んでいく。
「もう大丈夫。 冷却は必要ないわ。
蔵での保管は、こっちの商会で やっておくわね。
私たちは、コンディションのチェックをしておくわ。」
そう、ワインのコンディションチェックだ。
ワインの輸送は、慎重に慎重に行われた。
温度管理、振動、たぶん、ここまで 完璧にできるのは、私とナカヨシが居たから。
それでも 輸送によるダメージが、深刻で、販売の対象から除外すべきワインボトルも、いくつかは 出てくる。
チェックすべきポイントは、液面、色調。そして、コルクの状態などの封印状態だ。
輸送による影響を 落ち着かせるため、2~3日寝かせてから、ワインのコンディションチェックは行われる。
まずは、色調。
輝きがなく 濁っていたり、茶色や黒く 変色したワインは、アウト。 今回の輸送では、さすがに、茶色や黒のものは ないだろうが、輝きを失い、濁った物が、少しは出るだろう とのこと。
液漏れしているワインも アウト。 販売の対象から 除外される。
見るのは、コルク側面だ。 赤ワインの赤い染みが、筋を作っているようなものは、温度管理に問題があった可能性がある。
熱を加えると、瓶の中身は、膨張する。輸送中に熱せられて、膨張したワインが、しみ出して、液漏れすると、コルクに、このような筋をつけてしまうのだ。
これが、ワインが、熱で劣化している可能性が疑われる証拠となる。
液面のチェックも大切だ。
ワインは、10年で1センチメートルほど、自然に目減りする。
実は、コルク栓のされた瓶は、気密から密封状態にある。
密閉、気密、密封の違いは、このとおり。
「密閉容器」とは、内容の損失を防ぎ、固体の異物が侵入することを防ぐ容器。
「気密容器」は、密閉容器の性能に加えて、内容の風解・潮解・蒸発を防ぎ、液体の異物が侵入することも防ぐ容器。
「密封容器」は、気密容器の性能に加えて、気体の侵入も防ぐ容器。
さて、現在でもつかわれている、牛乳、ワイン、ビールの腐敗を防ぐ低温殺菌法や、ワクチンの予防接種を開発した、ルイ・パスツールという フランスの細菌学者。
まぁ、ヨーロッパのワイン製造業者は、常温充填を行っていて、パストライズ法低温殺菌をしている業者は、あまり存在しないが、清酒は いまだにパストライズが主流で、同じような殺菌が行われている。
ただし、清酒の火入れ技術が、パスツール以前からであるということは、酒を造る人たちの自慢でもあるらしく、明治時代、東大の外国人教師、アトキンソン教授が、酒の液面を 火入れすることを 蔵元で見聞きして、温度計なしで 適切な低温殺菌を行っていることに 驚いた話を、今でも、嬉しそうに話してもらえる。
それはともかく、ドイツのコッホと共に 微生物医学の黎明期をなす この学者の言葉のひとつに「ワインはコルクを通して呼吸し、酸素を取り込み熟成する」という有名なものがある。
この、「パスツールの嘘」は、今でも信じられており、「コルクは呼吸をする」という言葉が、独り歩きしている。
しかし、実際には、「コルク栓のされた瓶は、気密から密封状態」にある。
つまり、空気を、ほとんど通さず、呼吸を許さないのだ。
では、なぜ、「10年で1センチメートル」の液体が失われるか?
理由は、2点。
1.コルクの吸収。
2.隙間空間の水分子の通過。
1.コルクの吸収は、簡単だ。
見た目通りスカスカのコルクの細胞間に、ワイン自体が、吸収されるのだ。
古いワインのコルクは、ほぼ例外なく、おいしいワインを、吸いこんでいる。
2.隙間空間の水分子の通過。
コルク栓は、気密から密封状態という、あいまいな言い方になったのは、このためだ。
H2O「水」が、抜けていると考えられているのだ。 H2Oは、O2「空気」や、C2H5・OH「アルコール」よりも 小さく、少し、年月が経過したコルクでは、その空間を すり抜けてしまう。 ただし、C2H5・OHや、O2は、大きいのですり抜けない。 このため、「水の蒸発は起こるが、コルクによる呼吸は無く、アルコール分の蒸発は無い」という理屈だ。 これは、多少疑問視されているものの、通説である。
しかし、これらは、基本的にワインにとって、ダメージとはならないため、どちらにしろ、問題ない。
問題となるのは、液漏れだ。
液漏れが起こると「10年で1センチメートル」を超える量の 液体が失われる。
先程説明した、熱せられて、膨張したワインが、しみ出す場合の液漏れも、液面の低下がおこる。 そして、もう一つ。 コルクが劣化して、栓の役割を正しく果たせなくなった場合も、当然、液漏れが起こってしまい、液面が 大きく下がるのだ。
この場合は、ワインが劣化している可能性が、非常に高く、当然、販売の対象にはならない。
これらのチェックが、ワインのコンディションチェック、検品だ。
確か、運んできたロゼワインは、40万本超、赤ワインは、70万本を超える。 このチェックを しなければならないと考えると、ゾッとする。
しかし、「私たちは、コンディションのチェックをしておくわ。」という、テレサさんの言葉。 コレは、私と、ナカヨシのお仕事は、ここまで。 もう解放してあげる。という言葉である。
ふぅ・・・疲れた。 もう、なんかグッタリって感じだもんね。
ほんと、お疲れさまでしたー。
「じゃ、荷馬車が、全部開いたら、白ワインをお願いね。
私は、検品があるから、行けないけど。
2人でお願いね。」
え・・・?
「コウ州じゃったかの?」
コウ州・・・?
なんと、いつの間にか、私と、ナカヨシの2人は、同じように、コウ州から、白ワインを運んでくる予定になっていたらしい。
解放してくれるんじゃなかったのね・・・。 テレサさん、人使いが荒すぎ。
「あっ、行く前に、地下蔵の氷を補充しておいてね。」
地下蔵は、温度を一定に保つため、その入り口周辺に、氷を大量に詰める穴がある。 溶けると水になるので、そこを、私たち二人で凍らせるのだ。
「今回は、新しく 大きな入り口を 作ったからの。
穴を掘って、そこにも、氷を詰めるのじゃ。」
あぁ、入り口の空気の出入りから、地下蔵の 温度が変わっちゃうからね。
ナカヨシが、入り口の近くに横穴を掘り、私が、大量の氷を詰める。
繰り返すこと10回。
「これくらいでいいじゃろう。
では、出かけるかの・・・。
準備は、既にテレサが、しておるでのぉ。」
私の お泊り用のお着替えから 何から、テレサさんは、準備済み。 ゆっくりする時間もない。
=== ===== === ===== ===
こうして、私とナカヨシは、ポクポクと、コウ州に向かって 移動することになった。
あぁ、早く解放してー。
=== ===== === ===== ===
ロゼワインをナカヨシ、赤ワインをテレサさんが飲むべきだと思う人は、高評価を押して次の話へ⇒
蛇足1.ロゼワイン 赤ワイン 蒲生野問答歌
★あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る
紫草の生えた野原を、あちらこちらに行き来して・・・
この狩りをする標野の番人である、野守が、
あなたの動きを見咎めてしまうではありませんか
あなたが、私に対して、袖をお振りになるのを・・・
~狩りのあとの額田女王の大海人皇子への歌 万葉集
★むらさきのにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑに我恋ひめやも
紫草のように色美しく映えるあなたのことを、いやだと思うなら
どうして、兄の妻であるのあなたのことを恋い慕いましょうか
私は、嫌ではないからこそ、あなたを恋い慕うのです
~狩りのあとの額田女王の大海人皇子への歌に対する答歌 万葉集
紫を帯びた、明るいルビー色の液体が、華やかな香りを放つ赤ワイン
赤ワインが、むらさき色の華やかに匂うワインであるならば、人妻のテレサさんが飲んだ方が良かったかもしれない。書き上げた後、そんな風に、ふっと思いました。
蛇足2.グテーレス事務総長
9月21日、ニューヨークで開かれている
国連総会の冒頭の話です。
新型コロナウイルスのワクチンについて
いくつかの国ではあり余っているのに、
ほかの国では全く行き届いていない
裕福な国では多くの人が接種を完了したが、
アフリカでは9割を超えるの人が、
1回目の接種を待っている
と、グテーレス事務総長が、発言しました。
グテーレス事務総長は、
2005年に、国連難民高等弁務官した後、
イラクやシリア難民の問題に大活躍していたため、
すごく注目していた人です。
うん・・・。
グレーテス事務総長だとばかり今まで思っていました。
ヘンゼルとグレーテルが悪いのだと思います。