2-84.アタリヤショック 6
「ヘラームズは、どこだ?」
「昼に荷馬車に乗って出て行ったきり、戻っていません。
クッキー様の指示だと聞いておりますが?」
「あぁ、そうだった。
忘れていた。
うん、行って構わないぞ。」
積みあがった 回胴式遊技機の筐体は、夜の移送だけでは、倉庫から、あふれ出す 状態にまで なっていた。
このため、カジノのフロアマネージャーである ヘラームズは、昼と夜の 1日2回、荷馬車に 遊技機を乗せて ゴルドプリンアラモ市の砂漠へと 向かうことになった。
「くっ。 多少、戻ってきたが、これではダメだ。」
カジノの客足である。
戻って来ては、いるのだ。
カジノの、回胴式遊技機は、200台の評判の良い台に絞って設置したことが功を奏し、少しずつ戻って来たお客・・・。
しかし、このままでは、マズいのだ。
いずれ、現金が、足りなくなる。
次々と納入される、設置できない 遊技機。
1日1万台の遊技機が、あと5日間、配送されてくる。
これを 荷馬車で輸送し、埋めるだけでも、とんでもない 金額となる。
重い物の運搬など、力仕事で 生計を立てる 人足たちは、基本、日当制だ。
そう、その場で、現金を支払う必要が ある。
そして、それより 重く のしかかるのが、今後、支払いが発生する 遊技機の代金の支払いだ。
次々と運び込まれ、すぐに砂漠に埋められていく 遊技機の納品書の束。
羊皮紙が、机の上に、どんどんと 積み重なっていく。
「もう、無理かもしれん・・・。」
クッキーは、小さく つぶやいた。
[美容師の娘] 【 2-84.エステルを作ろう 】
「さて、エステルじゃな。」
「エステル?」
「そうじゃ。 今日は、エステルづくりを覚えてもらう。」
「だから、エステルって 何よ。」
スタディオン走の後、私は、ナカヨシの研究室に入り浸っている。
「アリー。
お主、ハンマーと、エステルの物語は、知っておるな?」
「え? 何それ? 初めて聞くけど?」
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メスアネケ朝 シヤルペ国の王 エロスハシユア。
この妻 エステルは、元は、亡国 ラエルダヤの王女であった。
流浪の旅の後、養父イカモデルと共に、アザスッの街に住んでいたエステルは、その美貌から、後宮の宦官イヘーガに目を留められ、王の元へと 召し上げられたのだ。
シヤルペ国のマケドスコピニア人代官、マンハーは、気位の高い男であった。
王に重用され、マンハーの前では、王以外の全ての者が、跪いて 首を垂れた。
エステルの養父イカモデルは、この男が嫌いであった。
皆が、代官に跪いて頭を下げる中、彼だけが、起立し、頭を下げなかったのだ。
代官マンハーは、イカモデルに、腹を立てた。
いや、イカモデルだけ ではない。
亡国ラエルダヤの民、すべてに対して、その怒りを ぶつけようとしたのだ。
彼は、讒言をした。
エロスハシユア王に、ラエルダヤの民が 謀反を企てていると 告げたのだ。
王は、邪悪に対しては、人一倍に 敏感であった。
王は、両手で代官マンハーの体を ゆすぶって、質問を重ねた。
マンハーは、あたりを はばかる低声で、わずかに 答えた。
ラエルダヤの民は、故国を 復活させるつもりです。
おどろいた。 ラエルダヤの民は、乱心したか。
いいえ、乱心では ございませぬ。
シヤルペ国を、信ずる事が 出来ぬ、というのです。
あきれた民だ。 生かして置けぬ。
王は、激怒した。
そして、必ず、邪智暴虐の ラエルダヤの民を 除かなければならぬと 決意した。
代官マンハーは、エロスハシユア王の名による 勅書を作成した。
全ての ラエルダヤの民を 殺害する 勅書だ。
エロスハシユア王の治世第12年の1の月。
この月に、マンハーは、王の命を受け、くじを 引いた。
クジによって、引き出されたのは、3の月。
処刑の日が、クジよって3の月の13日と決まったのだ。
先立って、磔となり、処刑されかける、エステルの養父イカモデル。
イカモデルは、マンハーと王の前で、緋色のマントに包まれて、柱に、くくりり付けられてゆく。
これを知った、エステルは、その御前に 飛び出し、王に告げる。
我が主、そして、我が愛しの王よ。
私は、亡国ラエルダヤの民。
なぜ、王は、私の仲間を殺そうとするのか。
そして、その柱に磔となっているのは、わが養父。
わが父を 殺すならば、先に 私をっ。
そこまで告げると、エステルは、衣を脱ぎ去り、生まれたままの姿となって、窓から 身を投げようとした。
王は、慌ててエステルの手を掴み、抱き寄せる。
なんと。 この者が、エステルの養父であると?
エステルならば、閨で、わが首を切ることが出来る。
いままで、そのような素振りを見たことは無い。
たばかったな、マンハーよ。
王は、イカモデルと、ラエルダヤの民にむかい、告げた。
おまえたちの望みは 叶かなった。
おまえたちは、勝ったのだ。
信とは、決して、空虚な妄想ではなかった。
どうか、わしをも 仲間に入れてくれまいか。
どうか、おまえたちの仲間の一人にしてほしい。
どっと、ラエルダヤの民の間に、歓声が 起こった。
柱より降ろされた、養父イカモデルは、ヨタヨタと エステルに近づくと、自分が包まれていた 緋色のマントを、彼女に捧げた。
王の目が 優しく微笑み、その口は、エステルの耳元へと近づいた。
エステルよ。
おぬしの 美しき肌が、全て露出されておる。
早くそのマントを、まとうがよい。
養父どのは、エステルの裸体を 他人に見られるのが、
たまらなく悔しいのだ。
ひどく赤面したエステルが、クルリとマントをまとう。
彼女が、包まれた、その緋色のマントは、甘い果物の匂いがしたという。
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「ふぅん。
聞いたことあるような。無いような。
なぁんか、どっかで聞いたことある感じかな?
で、それが、どうしたの?」
「それからじゃな。
この果物の匂いをエステルと言うようになった。
さぁ、アリーには、その作り方を覚えてもらう。」
かちゃかちゃと、試験管を振る。
うーん。 なんか、理科の実験みたいだね。
まずは、「酸っぱそうな液体」と、「匂いの強いアルコール? みたいな液体」を 混ぜる。
それ上から、「のおりゆう酸」って液体を、ポトポト落とす。
「それぞれの薬品が、どのような物か覚えておくのじゃ。
魔力に記憶させる感じでな。」
魔力に記憶させるって、どうやるのよ。
とりあえず、1個1個の材料に、魔力を通してみるけれど、記憶したかどうか なんて 分からない。
「では、その試験管で、混ぜながら 加熱するのじゃ。」
火魔法で、指先に 小さな炎を 生み出す。
チロチロと、試験管の底を 炙りながら 振ると、微かな 香りが してきた。
「これ? リンゴかな?」
「そうじゃ。 水よりも軽いため、上層になっておる。
ピペットで、吸い出してみるが よい。」
試験管の液体。
その上層部分を、ピペットで、吸い出し、ろ紙に 垂らす。
「どうじゃ?」
液体を 吸い込んだ ろ紙を、鼻先に 近づけてみた。
「リンゴだっ。」
「これが、酢酸エチル。 エステルじゃよ。」
ん? 酢酸エチル? なんか聞いたことある。
元の世界の、理科の授業?
この世界、元の世界と、繋がってる?
「よし、次に 進むぞ。」
ナカヨシは、考える時間を くれない。
「ラクさん」と、「アルコール」。
「かぷロンさん」と、「アルコール」。
これを同じように混ぜて、熱する。
「わぁ。こっちは、バナナ。
こっちは、パイナップルの匂いがするっ。」
「うむ。酪酸ペンチルと、カプロン酸エチルじゃ。
どんどん、進めていくぞ。」
こうして、私は、酢酸エチル、酪酸ペンチル、カプロン酸エチル、ギ酸ペンチル、酢酸イソペンチル、ギ酸エチル、へプチル酸エチル、酢酸オクチル、ギ酸イソペンチルという、9つのエステルを作り出すことに成功した。
よしっ。今日は、頑張った。
自分で自分を、ほめてあげたい。
「よし、準備は終了じゃ。
ここからが、本番。
魔法で、エステルを作るぞっ。」
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えっ?終わりじゃない。
まだ、準備段階だったの?
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走れメロスを読んだことがある人は、一度、激怒した後に、高評価を押して次の話へ⇒
蛇足1.学生
1994年を検索すると、イノセントワールド、ロマンスの神様、恋しさとせつなさと心強さと、って曲が流行っていた時代。って出ます。そう言われると、大昔って感覚になります。
タリバーンって、学生たちって意味なんですね。
神学校で教育を受ける学生ってことですか。
1994年ごろ、パシュトゥーン地域の学生=タリブを中心に構成されたそうです。
現地では、訳が分からない狂信者ではなく、田舎を基盤とする政権というイメージで、麻薬と鉱物と寄付なんかで、活動を支えているとか。よく知りませんけど。
その、タリバーン。
アフガニスタンの全34州中21州を14日までに、支配したそうです。
国境に通じるルートや主要な幹線道路を押さえ、首都カブールの兵糧攻めを狙っているということで、アメリカは、軍、約3000人をカブールに派遣し、大使館員を退避させようとしているみたいです。
それどころか、13日、大使館にある機密性の高い書類などを破棄するよう職員に通達した上、大使館にある米国旗も、奪われた場合、その宣伝に使われる恐れがあるため廃棄するとか・・・。
深夜に、NHKとかでやっている、ベトナムからヘリコプターでのアメリカの撤退みたいな光景になりそうで、今後どうなるのかな?って心配に思います。
蛇足2.神戸弘陵―高知中央
全国高校「女子」硬式野球選手権大会決勝。
夏の「男子」甲子園の準々決勝翌日の休養日に、甲子園でやる予定なんですが、「男子」甲子園は、何日も雨天順延していますよね。
順延が、もう1日起こったら、中止もあり得そうとか・・・。
どうにか「女子」も、甲子園でやらせてあげたいですね。
と、いったことを考えながら、大雨と、感染症の話題から、現実逃避しているのですが、テレビをつけると、かかるのは、どっちかのニュースなんだろうなって思うと憂鬱になります。