2-83.アタリヤショック 5
あの噂から、29年と8か月が、経過した。
私の名は、アネトン・イスクラー。
フルーク王国の報道記者だ。
主に、過去の事件の真相究明を行っている。
この日、ゴルドプリンアラモ市の委員会は、砂漠の発掘許可を、我々に与えた。
これで、あの処分を担当した、カジノのフロアマネージャーであるJ・ヘラームズの証言を、検証できるかもしれない。
J・ヘラームズによれば、7万2800機の台が、眠っているという。
本当だろうか? という思いは、私にもある。
その疑問を解消するためには、実際に調査を行うしかない。
我々は、発掘が与える環境への影響を 最小限にするという課題を クリアするために、さらに 1年ほどの月日を必要とした。
慎重に検討された、深さ18フィートの採掘計画。
私たち発掘チームは、事件から30年目の4月26日、許可を得た計画にのっとり、発掘調査を開始した。
証言が正確であるならば、約2メートルの砂の層を除き、さらに3.5メートルの土の層を掘り進めると、おそらく 最初の埋設物が 見つかるはずだ。
出ないっ。
市当局へ提出した計画は、18フィートの採掘。
約5.5メートル。
我々は、その地点までは、掘り進んでしまった。
発掘チームは、選択を迫られた。
ここで、採掘をやめ、調査を中止する。
あるいは、新たな計画を市当局へ提出し、新しい発掘許可を得る。
どちらかを選ばなければならない。
「ヘラームズっ。どうなんだ?」
「分かりません。 アネトンさん。
もしかすると、もう少し 深いのかも しれません。
粘土層が、出るはず なのです。
埋める際、環境への影響を考え 粘土で 固めました。
その層が、出るまで 掘るべきです。」
周りの環境に影響を与えぬよう、計画変更が行われたため、発掘調査は、すでに、1年延期されている。 これ以上、延期するわけにはいかない。
私は、第三の道を 選択した。
「掘ろう。」
あと、10フィートだけ 掘ろう。
市当局から 許可を得る時間は、無い。
現場の判断 というものだ。
3フィート。 5フィート。 7フィート・・・。
出ないっ。
発掘現場に、焦りの色が、出始める。
何しろ、市当局へ提出した計画を 大幅に延伸してまで、採掘しているのだから。
・・・9フィート。
「アネトンさん。 粘土ですっ。
粘土の層が、現れました。」
9フィートで、やっと粘土層が、現れたのだ。
最初に 掘った18フィートと 合わせると、約8.2メートル。
「掘れっ。 10フィートを超えて 構わないっ。
出るまで 掘るんだっ。
そうだ、スコップだ。 小さなシャベルを 使え。
丁寧に、手掘りしろっ。」
もう、発掘計画なんて 関係ない。
この砂漠の地下10メートルに、自然な粘土層などは、存在しない。
当たり前だ。
粘土層があるならば、水が保持される。
水が保持されれば、この場所が、砂漠となることはない。
私は、「彼の証言は、本当だったのだ。」と確信した。
さらに、1メートル。
粘土が出るまでの 8メートルを 掘るのには、1時間しか かかっていない。
しかし、園芸に使うような 小さなスコップを使ったため、この、たった1メートルを 掘るのには、2時間の時間を必要とした。
「出ました。 TEです。」
それは「TE」と呼ばれた 回胴式遊技機の筐体。
粘土に包まれ、それは、確かに 埋まっていたのだ。
「ツツミマンも、埋まっていました。
ウチュウゲームスも、あります。」
出るわ、出るわっ。
9メートル地点からは、約1300台の回胴式遊技機が、掘り出された。 この感じだと、その下に、さらに7万台のゲーム機が、埋まっていても、全くおかしくない。 私は、驚喜した。 ついに見つけたのだっ。
それは、30年前。
クソゲーと言われた、低品質の回胴式遊技機が、ゴルドプリンアラモ市の砂漠に 埋められた。
関係者から 漏れたと言う、その噂は、多くのカジノファンの 興味を引いた。
「信憑性が薄い。」「処分の話そのものが、信頼できない。」
そんな風に言われ続けた、「ゲーム機の墓場」の都市伝説。
まさか、本当だったとは・・・。
そう、我々は、伝説の「回胴式ゲーム機の墓場」の 発掘に 成功したのだ。
[美容師の娘] 【 2-83.回胴式ゲーム機の墓場 】
飛翔師学院のジェミニを部屋から追い払った後、フロアマネージャーが、事務所に戻って来た。
青い顔をして、震えている。
「ん? どうした? ヘラームズ。
あの教授が、何か言ってきたか?」
「いえ、実は・・・。」
「なんだ。はっきり言え。」
「私は、主であるクッキー様に、忠誠を誓っております。
アタリヤ商会に損をさせようと、思ったことはありません。」
「あぁ、それは、分かっている。
続けろっ。」
「今日だけで、ゲーム機が、5000台、届きました。
回胴式遊技機の筐体が、倉庫にあふれています。
最終的には、7万台ほどが、届けられるはずです。」
「何っ? そんな馬鹿なっ。
7万っ? 私は、そんな 発注を許しておらんぞ。」
「それは・・・。」
アタリヤ商会のカジノは、回胴式遊技機を、大量に発注した。
従来のメーカーでは、すぐに、対応できないほどに。
そして、市場の 急激な拡大に釣られ、遊技機を作ったこともない 他業種のメーカーが、参入してきたのだ。
「TE」を作った「カエルスモッグ社」は、朝食のシリアルのメーカー。 「ツツミマン」を作った「ケム・ニュートロニウム社」は、ペットフードのメーカー。 なんと、「ウチュウゲームス」を作った「金属装備社」に至っては、「メタル装備社」のダミー会社であった。
カジノから、客足が遠のいたのは、それらのメーカーの 低品質ゲーム機に、多くの宣伝を 打ってしまい、アタリヤ商会の 回胴式遊技機 全体の信用を 損なわせたためだ。
そして、今、倉庫に積まれている 5000台在庫。
今後送られてくるであろう 7万台の在庫にも 理由がある。
ヘラームズは、商会長のクッキーが指示した通り、遊技機の筐体を カジノに設置しようとしたのだ。
ただし、クッキーの要求は、過大で、あおり立てるような 速度のものであった。
「可及的 速やかに・・・。」
ヘラームズは、追い立てられるように、回胴式遊技機の種類と、数を用意する 必要があった。
しかも、それは、その後も続くと 予想されるものであった。
そう、フロアマネージャー、J・ヘラームズは、今後の命令に備えて、新規参入のメーカーから、大量の納入契約を受けつけてしまっていたのだ。
クッキーは、小さく歯ぎしりをした。
フロアマネージャーを、叱責するのは、たやすい。
ただし、責めてみても、クッキーが、得られるものは、何もない。
能力は高くないが、忠実である、この部下を 失うだけであろう。
今は、積みあがる遊技機の筐体を、どうにか しなくては ならない。
カジノに 設置するわけには いかない。
『設置台は、厳選した200台の回胴式遊技機に 絞る』
そう、広告チラシを配ったばかりなのだから・・・。
「そうだっ。荷馬車を 用意しろっ。
10台・・・ いや15台だっ。」
思いついた名案。 迷案で あったかも しれない。
キューメシキコ州プリンアラモドルゴ市の砂漠。
その処分場に、回胴式遊技機を埋めれば 良いのだ。
クッキーは、荷馬車を用意させた。
5000台の埋設に必要であった荷馬車は、14台。
最初の処分には、クッキー自身が立ち会い、指示を出した。
「粘土を使って 固めろっ。
後から 掘り返されることの ないように。」
フロアマネージャーは、その後の処分責任者となった。
約7万台の回胴式遊技機の埋設を、指揮したのだ。
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そう、これは、事件の発端。
後に「アタリヤショック」と 呼ばれるようになった 事件の幕開けであった。
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蛇足1.スコップとシャベル
そうだ、スコップだ。 小さなシャベルを 使え。
園芸に使うような 小さなスコップを使ったため、
東日本では、大型の物を「スコップ」、小型の物を「シャベル」と呼びます。
西日本では、大型の物が「シャベル」、小型の物が「スコップ」と呼ばれます。
北国では、「土を掘る」先がとがった物が「シャベル」で、「雪かき用」の平らな物を「スコップ」とする地域もあります。
今回、表記を、統一しなかったのは、どちらに住む人にも、小さいものをイメージしてもらうためと、ご理解ください。
ちなみに、JIS規格では、足をかける部分がある物を「ショベル」(シャベル)とし、無い物を「スコップ」と規定しています。
大きさには、規定は無いのですが、通常、小さい物は、足をかけることが出来ないため、西日本の言い方を通例とするほうが、規格にあった表現と出来ると思います。
そういう意味で、もし、統一するなら、「園芸に使うような小さなスコップ」とした方がよさそうです。あっ、園芸用のものは、園芸用こて、移植こて、など「コテ」と呼ぶのも、良いかもしれません。
モルタルや漆喰を塗る「左官ごて」をイメージされそうで、私は、イヤですが・・・。
そして、どうでもいい話ですが、「砂漠の発掘許可を、我々に与えた。」と「私たち発掘チームは、」の表記を、統一していないのは、たぶん良いことではなくて、「我々」に統一するのが正しい気がします。こちらは「私たち」を使いたかっただけですね。
蛇足2.温暖化
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が、8月9日、地球温暖化の科学的根拠をまとめた作業部会の最新報告書(第6次評価報告書)を公表。「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている」と強い調子で、従来より踏み込んで断定しました。
地球の2011~2020年の地表温度は、1850~1900年に比べて1.09度高く、過去5年間の気温は、1850年以降、最も高かったそうです。そして、熱波など暑さの異常気象が1950年代から頻度と激しさを増しているのは「ほぼ確実」ということです。
つまり、異常気象が、異常な状態で無い、通常気象と呼ぶべき状態になる可能性が高いということですね。
と、いうことを、8月12日から続く、九州の豪雨のニュースを見て、つくづく感じました。九州北部では、14日くらいまで記録的豪雨が続くの可能性があるということで、土砂災害などが起こるのではないかと、気になって仕方ありません。
7月3日に静岡県熱海市で起こった土石流は、長時間降雨が続いたあと、時間40mm程度の雨が続き、これが引き金となって起こった可能性が高いそうです。
あれは、処分した産廃含みの残土が、土砂として流れたものみたいですが・・・。
物語の「回胴式ゲーム機の墓場」が、30年間、大雨などで被害を起こさなかったのは、きっと粘土で固めてあったせいですね。
蛇足3.低栄養化
香川県の高松港では、海面清掃船「みずきⅡ」を用いて、海面のゴミを清掃しているそうです。
その乗組員は、2名。
70代で、宇高航路と呼ばれる、岡山と高松を結ぶ船にかかわって来た、40年以上、瀬戸内海を見てきたプロだそうです。
その人たちが、近年、魚が見られなくなったことを嘆いています。アジやサワラが海水面付近を走っていた(泳いでいた)のが見られなくなってきたそうです。
その原因は、海面清掃船の乗員だけに、プラスチックなどのゴミを魚が食べたせいではないか?と危惧しているそうです。
さて、5月31日の第87部分2-51.ダダ もれ アリーの後書きで、「瀬戸内海環境保全特別措置法」の改正。について触れました。
https://ncode.syosetu.com/n6487gq/87/
そこから考えると、「海がキレイなりすぎて、魚が居なくなってきた」+「今日の蛇足2に書いた温暖化による海水温の上昇で魚の種類などが変わってきた」可能性の方が高く、プラゴミの関与は低いと思いました。たぶん、プラゴミを食べても、体内に蓄積して、けっこう生き残りそうなイメージなんですよね。魚って。
まぁ、しかし、それには関係なく、プラスチックごみは、海から減らしてほしいです。
蛇足4.回胴式遊技機の墓場
ビデオゲームの墓場は、アメリカ合衆国ニューメキシコ州アラモゴードにあります。
この場所は、1983年にアタリ社が、大量のゲーム機を処分した地点として、有名です。
アーケードゲームの家庭用移植を主とするアタリは、『アステロイド』や『スペースインベーダー』などの移植版で大ヒットを記録。
その流れを受け、1982年に、アーケードゲームとして人気があった『パックマン』の移植、映画『E.T.』のゲーム化を行います。
この2つが、クソゲーと呼ばれる低品質ゲームソフトとして、ゲームユーザーに評価され、『パックマン』は、500万本の不良在庫、『E.T.』は350万本の不良在庫となってしまいました。
また、1982年頃より、家庭用ゲーム市場の急激な拡大に釣られて、ゲームを作ったこともない他業種のメーカーが、参入してきました。朝食シリアルメーカーや、ペットフードメーカーなどまでが参入してきたのです。
それらのメーカーは低品質ゲームソフトを大宣伝し、市場全体の信用を失わせました。
ユーザーは「ゲームを始めるまで、本当に面白いかどうか判らない」状況になってしまったためです。
こうして、開発企業の倒産が相次ぎ、在庫の捨て値処分が行われ、新作のよいゲームソフトが高く見え売れなくなる現象がおき、不良在庫が積み重なります。
また、1981年ごろから、売上の増大に生産が追いつかないことを問題視したアタリ社が、翌年の一括発注を卸に求めたため、在庫切れを避けるための水増し発注が起こります。アタリ社は、水増しを鵜呑みにして需要予測を誤ったまま大量生産。そのための、大量キャンセル、大量不良在庫という現象も起こってしまいます。
このような事態が積み重なって、おこったのがビデオゲームの墓場事件です。
アタリ社は、1983年9月、『E.T.』『パックマン』など、大量のゲームや、ゲーム機本体など不良在庫を、コンクリート処理して、廃棄。
アラモゴード市の、地中へと埋めてしまいました。
しかし、大量のゲームが処分されたことは、都市伝説化し、そういわれているが信用性は無いというレベルの噂として、21世紀へと持ち越されました。
謎めいた 砂漠地帯が 発掘されたのは、2014年4月26日。
発掘調査は数ヶ月の準備期間を経て行われました。
18フィートまでしか計画されていなかった発掘は、実際には、30フィートまで採掘され、やっとのことで、1300本ほどのソフトが掘り起こせたそうです。
まさに、現代のハインリヒ・シュリーマン。
トロイアの発掘を、思い起こさせる出来事です。
掘り出したのは、遺跡ではなく、ただのゴミですが・・・。
そんな、ビデオゲームの墓場ですが、物語の回胴式遊技機の墓場とは、これっぽっちも関係ありません。また、ツツミマンも、パックマンと関係ございませんし、もちろん、TEも、『E.T.』とは関係するものではありません。はい。
蛇足5.3053字
気になったので、ちょっと見てみました。
この物語の、本文の文字数は、3053字。
そして、蛇足の文字数は、3106字でした。
道理で、蛇足を書くのに時間がかかると思いました。あぁ疲れた。