2-64.不愉快な水曜日 2
曇り。21.9度、湿度55%。
「まぁ、ピッチ上は、こんなものじゃないだろうね。」
そう、おそらく、もっと蒸し暑いに違いない。
王都ホゥスボール協会 理事 コジョーン・キ・ノマートは呟いた。
ホゥスボールは、馬の上に乗って行うため、大した運動ではない と思われる人が いるかもしれない。
しかし、それは事実ではない。
馬上の格闘技と呼ばれるこの競技は、通常の格闘技よりも、激しいものとなりがちだ。
飛翔魔法で、フワフワと浮かぶ女性理事は、かつて 自分の両足があった場所を見つめた。
芝を駆ける王都代表の姿を見ながら、女性は、右手でふわりと髪をかき上げた。
[美容師の娘] 【 2-64.熱中症 】
「良いところに、来ていただきました。」
医務室の氷の残量はゼロ。 既に尽きていた。
でも大丈夫。私の氷は、すぐに用意できる。
水魔法で 水滴を 作り、火魔法で それを 冷やす。
はいっ、小さな 氷の 出来上がり。
手の平から ざらざらと落ちる小粒の氷は、あっという間に 小さな山となった。
「これくらいでいい?」
「はいっ。十分でございます。」
看護をする美しい女性は、4つの革袋に氷を詰めた。
本人の意識が、はっきりしていない。
水分補給をしても、症状がよくならない。
このような場合に、疑われるのが、熱中症だ。
帝国代表のキズカ・ハ・ナーガは、まさに この症状。
看護の女性は、キズカの首筋に2つ。わきの下に2つ。
そっと氷を詰めた革袋を置き、太ももの付け根に、冷やしたタオルを置いた。
待つこと数秒。キズカの目が開く。
「試合は?」
「まだ、続いています。
2-0で帝国が勝っていますよ。」
「行かなきゃ。王都相手じゃ、2-0じゃ足りない。
もう、1点ほしいわ。
ゴールを決めて、みんなで喜びをわかちあいたい。」
キズカは、ベッドから降り、試合会場へと向かおうとする。
「ダメですよ。安静にしなくては。
あなたは、熱中症で倒れていたのですから。
脱水症状もあります。
大人しくしておいてください。」
看護の女性は、手早く点滴を用意し、静脈へと打ち込んだ。
「いや、これでは、動けない。
試合に戻らなきゃダメなの。」
慌てて、針を抜こうとするキズカ。
「ダメです。
少なくとも点滴が終わるまでは、このままですよ。」
この点滴110ミリリットルの点滴にかかる時間は、12~20分。
「最速にしてください。」
12分で入れるよう、滴下速度が調節される。
「では、このまま大人しく休んでいてください。」
看護の女性は、そっとベッドの横から離れた。
「あなたは?」
横に立つ私に気づいたキズカと目が合った。
「私は、アリー。この氷を用意しに来ました。」
「あぁ。ありがとう。楽になったよ。
ついでに、少し点滴の落ちるスピードを上げてほしい。」
え? そんなことして いいの?
さっき、最速でお願いって言っていたような・・・。
「今の倍のスピードまで上げておいて。」
倍速って・・・。これかな? つまみを回す。
160滴おちる水滴を、320滴にまで引き上げる。
さっきまで、ぽとっぽとっ だった 水滴が、ポタポタポタと 落ち始めた。
これだと、終わるまで6分。でも、大丈夫?
「うん。ありがと。早くなった。
あと、水あるかな?
顔が熱い。冷やしたいんだ。」
「オッケー。まかせて。
ちょっと目をつぶってもらえる?」
水魔法で、泡を生じさせる。
火魔法で、少し冷やした状態で。
手の平から 淡い水の泡が ふわりと飛び出す。
イオンミストが、顔と頭を包み 熱を冷ます。
「あぁ コレ気持ちいいわ。」
そっと、風魔法で、風を送る。
ウェンディ式の、水・火・風の魔法を使った 美容ケアの応用。
6分間の点滴が終わるまで、私は、ケアを続けた。
「よしっ、終わった。」
最後の1滴が落ちるのを待たずに、キズカが針を引き抜いた。
「大丈夫?」
「もう、問題ない。
アリーありがとうね。」
ベッドから飛び起きたキズカは、革袋や、タオルを落としながら、競技場へ向かおうとする。
「あぁ、まだ安静にしておいてくださいっ。」
悲鳴のような声を上げる 看護のおねーさんと、私を残して。
「きゃっ。」
あっ、ライリューンが突き飛ばされた。
「ごめんね。急いでいるんだ。」
キズカは、 競技場へと走って行った。
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〔後半19分〕 GOOOOOAL!!
後半19分。王都代表。
帝国代表は、クロスを一度はクリアしたものの、一瞬のスキが生まれる。
ボールを奪い返した王都ヤンが、左サイドからクロス。
このボールを、ゴール前、オダが、棍で落とした。
あわてて、帝国GKジエが飛び出すものの、ゴウ・キシ・ハルフに馬体ごとボールを押し込まれてしまう。
王都代表 1 〔後半19分〕 2 帝国代表
医務室にライリューンとアリーが向かってしまったため、ライレーンは、貴賓室に残されてしまっていた。
「お互いにアグレッシブなホゥスボールね。」
ミラドールさんが、呟いた。
「ボク、ホゥスボールは、あまり分かんないけど。
そうなのね。」
とりあえず、相槌を打っておく。
ライリューン、アリー、早く戻ってきてよね。
この人と2人きりだと、会話が持たない。
後半26分。帝国代表。
両足の痙攣をおこした、帝国セテン・チョが、退場する。
「あら? キズカも退場してるから、人が足りなくない?
どうするんだろう。」
「もう1人、キユロ・ヒチ・グニタって人が居るみたいですよ。」
私は、パンフレットのメンバー表を見て答える。
「いや、それ、守備の人。
攻撃するセテンと、キズカの2人が抜けたからね。
前線の人数が足りないのよ。」
「あっ、出てきた。」
キズカが、馬に乗って駆けている。
「キズカは、戻るんだ。
出場できるんだね。」
キズカが戻って来たなら、ライリューンも、アリーも、すぐ戻ってきそう。
ミラドールさんと、2人は、ちょっときつい。
ライレーンが、ほっと息を吐いたその時、競技場のランプが、ピカピカと赤い光を放った。
「え? 何これ?」
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そう、魔マーモグラフィー。
王都でのホゥスボールは、魔マーモグラフィー という 装置で、グラウンド 全体を 監視し、魔法 感知 しているのだ。
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女子は、100mハードルなのを知っている人は、
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蛇足1.110メートルハードル
この点滴110ミリリットルの点滴にかかる時間は、12~20分。
最速にしてください。
6月27日、男子110メートルハードル。
泉谷駿介選手の優勝タイムは13秒06で、日本新記録。
ってあれ?
5月21日の関東インカレ男子1部110mハードルでの泉谷駿介選手の優勝タイムは、13秒05。
日本新記録より早い!
実は、追い風5.2メートルだったので参考記録になっちゃったんですね。 200m以下のトラック種目と、走幅跳、三段跳では、風速を計測し、2.1メートル以上の追い風となった場合は参考記録になるルールがあるんです。 そういう意味では、1か月後に記録を出し直した。と言えます。そう考えると、1か月後に、オリンピックでも、同じ程度の記録が出るかも・・・。
6月26日に出た、グラント・ホロウェイ選手の12秒81が、今季最速のはずなので、メダルの期待が、できるかもしれません。
蛇足2.フライング
後半26分。
両足の痙攣をおこした、帝国セテン・チョが、退場する。
さて、このハードル競技の決勝、村竹ラシッド選手と石川周平選手が、フライングで一発失格で退場となっていましたが、その確認に、VARっぽい感じで、モニター確認をしていて興味深かったです。
そして、この2人、泉谷選手の両隣だったんです。
両隣が、失格して退場。 横のコース両方ともに走る選手が居なくて、泉谷選手は、走りにくいだろうなって思いました。
でも、100mの時みたいに、水が浮くほど、下が濡れていなくてよかったですね。 100メートルの時、山縣選手が、途中でバランスを崩したうえに、左手がポケットに引っかかって、ポケットから白い何か落ちてるんですが、たぶん、タイムロスをしているはずです。 バランスを崩したのが、雨で出来た水たまりのせいだったら面白くないなって思ってたので。
蛇足3.
女子は、100mハードルなので、12秒87が日本記録。
男子のハードルより速い記録なので、見ると、一瞬ビックリしますよね。
蛇足4.イスタンブール運河
そっと革袋を置き、太ももの「付け根」に、冷やしたタオルを置いた。
ボスポラス海峡の付け根に、運河を作る。
6月26日、トルコで、巨大運河建設計画が始動してしまいました。
ボスポラス海峡をバイパスする、人工ボスポラス海峡「イスタンブール運河」です。
ボスポラス海峡とダーダネルス海峡の通航について定めた、ある条約があります。
1936年に結ばれたモントルー条約。
この中では、黒海沿岸諸国以外の国の排水量15,000トンを超える軍艦の通航を規制されています。新運河ができれば、両海峡を通らずに地中海と黒海の間を船舶が行き来できるようになりますので、この条約が形骸化してしまう可能性があるんですね。
ロシア、ウクライナなど黒海に面する国にとって、ここは、地中海を通じて大西洋に船を出すための要所ですから、完成してしまうと、問題が起こりそうな気がします。
ところで、このモントルー条約。
条約締結当初の締結国に、なぜか日本が入っているんですよね。
これは、国際連盟の常任理事国として、日本が海峡委員会のメンバーだったことから、批准したそうです。
地中海の話なのに、日本が初期メンバーっていうのが面白いです。