1-1.ハピバスディ アリー
ヘドファン=アリーは、美容師の娘である。
美容院の名前はボエロ。
その日も、ボエロは 臨時休業していた。
「目元が、お父様そっくりね」
猿みたいな顔だ。と思いながら、助産師ワモルは、父親に声をかけた。
「しかし、まったく泣かないな」
イアンは、我が子の頭をなでながら つぶやく。
産まれた瞬間にオギャーと声を上げたあとは
口を閉じたままの赤子に やや困惑しているのだろうか。
「ホント、目元は イアンね」
ベッドに横になるウェンディは、ホッとしたような顔でつぶやく。
赤ん坊のパッチリした目は、母親のウェンディに やや似ている。
産まれた子の瞳を父親似と言う。
これは、フルーク王国の都ソアーの慣習だ。
母は、自分の子であることが分かる。
しかし、父であるイアンには・・・。
= = = = = = = = = = = = = = = = = = = = = = = = = = = = = =
「えー 子供のファンタジー小説に こんなこと書いちゃうのっ?」
図書室で見つけた本は、日焼けして その角は折れていた。
遠藤杏里は、取り落としそうになった 古い本を持ち直して つぶやいた。
その朝、どうしても教室に戻りたくなかった杏里は、図書室にいた。
司書さん一人が カウンターに座る 図書室で、
持ち出し禁止の本を そっと セーターのおなか部分に隠し、
ドアが音をたてないように そっと飛び出してきたのだ。
家の離れの2階までは、父は来ないだろう。
肩から 体全体を包み込むようにかぶる毛布は、バニラの匂いがした。
母が作ってくれたケーキが頭に浮かび杏里は、唇を噛んだ。
窓を見ると、毛布の中で震える自分が、じっと杏里を見つめていた。
「お母さんが いなくなってから 私 なんにも なくなっちゃったよ」
毛布でギュッと体を包むと隙間から本を顔の前に出す。
さみしくない一人でも。
時計の針が、午後2時をさし ボーンボーンと低い音が響いた。
「お母さんのところに行けたらな」
考えたってしょうがない。
ペ-ジをめくると電球が 瞬き、文字がふわりと揺れた気がした。
窓から 庭のソメイヨシノの青葉が さみしそうに見えた。
「誰も私のことを知らない場所がいいな」
離れの2階の電球は、業者が先月LEDに替えたはずだ。
ふいに電球が 光を失い、杏里は、暗さに思わず 本を取り落とした。
「きゃっ」
足元から、白い光が刺す。
文字の書かれていない白いページが杏里を手招きし、
光と ともに 彼女を吸い込んでいった。
= = = = = = = = = = = = = = = = = =
その日、アリーは、美容師の娘として生まれた。
あなたが明日の宿題を終わらせているなら、高評価を押して次の話へ
魔法使いのチョモチョモ という童話の本の あとがきが 好きです