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9月2日(水曜日)音水と倉庫の中で

 水曜日の昼休み。

 クリーニングに出していたクマの着ぐるみが帰ってきた。


 まだ休憩時間は残っていたが食事も済ませているし、今のうちに片付けよう。


 段ボールに入れた着ぐるみを地下室にある倉庫に運び込むと、俺以外の社員が入口付近でガサゴソと作業をしていた。


「誰かと思ったら音水じゃないか」

「あ! 笹宮さん! すみません、倉庫の入口を散らかしちゃって」


 そこにいたのは二ヶ月ほど前まで俺が教育係についていた後輩、音水(おとみず)(はるか)だ。


 今日も髪を後ろで束ねてアップにし、レディーススーツをスッキリと着こなしている。

 まだ猛暑と言える時期なのにたいしたものだ。


「資料整理か? 手伝うぜ」

「そんな! 悪いですよ」

「ついでだから気にするな」

「ありがとうございます」


 音水が片付けていたのは、過去のハロウィンキャンペーンの資料だ。

 おそらく今の仕事に役立つものがないか探していたのだろう。


 ったく。

 かわいいのに真面目とか反則だぜ。


「確か、音水はハロウィンのイラストコンテストを担当しているんだよな」

「はい。といっても、紺野主任に同行してるだけなんですけど……」

「音水は十分に活躍しているよ」

「私なんてまだまだです……」


 自信なさげに下を見る音水。

 そんな彼女を、俺は優しい口調で励ました。


「そんなことないさ。今回のイラストコンテストでも音水がテーマパークとコラボすることを提案したことがきっかけで企画採用に繋がったんだろ。もっと自信を持て」

「は……はい……」


 テーマパークとイラスト投稿サイトのコラボでコンテストを行うというのは、両者の顔を立てながら仕事をしないといけないので大変だ。


 だが、音水ならちゃんとこなせると信じている。


 気が付くと、音水が俺の間近まで近づいていた。


「あのぉ……、笹宮さん。お願いとかしてもいいですか?」

「内容によるが、なんだ?」

「この企画が成功したら、……そのぉ……ご褒美がほしいなぁ~って」


 おそらく自分の提案が成功するかどうかわからず、プレッシャーがかかっているんだろう。

 そうなると意味のない不安ばかりを考えてしまうものだ。


 別チームだから直接手助けすることはできないが、個人的にご褒美を上げるくらいのことはいいだろう。


「ああ、いいぜ。どんなものが欲しいんだ?」

「えっと……、モノじゃなくて……。その! 成功した時に改めてお願いします!」

「わかった」


 モノではないご褒美か……。

 なんだろうな。


 まぁ、音水のことだ。

 とんでもない要求はしないだろう。


 バキンッ!!


 すぐ近くで金属が折れる音がした。

 それが金属製の棚の音だと気づいた直後、収納していた大きな荷物が崩れてきた。


「音水! 危ない!!」


 俺は慌てて音水を抱きしめて引き寄せる。

 次の瞬間、さっきまで音水が立っていた場所に大量の荷物がなだれのように落ちてくる。


 危なかった……。


 こんなに多くの荷物が落ちてきたら、大怪我をしていたかもしれない。


「大丈夫か、音水」

「はい……。すみません」

「いや、音水のせいじゃない。古い棚だったから脆くなっていたんだろう」


 すぐに倉庫から出ようとしたが、俺はあることに気づく。


「ん……。あれ? ドアが開かない……」


 しまった。

 さっきの衝撃で歪んでしまったんだ。


 このビル自体が古いからな。

 たぶんドアもかなりガタがきていたんだろう。


 とりあえず、音水を心配させないように状況を伝えるか。


「すまん、音水。閉じ込められたみたいだ」

「え!? 最高じゃないですか!」


「安心しろ。すぐにスマホで助けを……って、電波が入らねぇ……」

「神様、ありがとうございます!」


「あ、ここなら電波が入る」

「そんな! なんて無慈悲な!」


「ビルの管理人さんが来てくれるらしいが、三十分ほどかかるらしい。それまでは辛抱してくれ」

「よぉし!!」


 俺が状況を伝えるたびに、音水はおかしな反応をする。

 突然の出来事にテンパっているのだろう。


 三十分だけとはいえ、暗い倉庫に閉じ込められたのだ。

 無理もない。

 俺がしっかりと支えてあげないといけないな。


「笹宮さん!」


 突然、音水が俺に抱きついてきた。


「ど! どうしたんだ!」

「えっと……、えっと……! どさくさに紛れて抱きついてみました!!」

「相当テンパってるな」

「はい! なのでギュッとしてください」


 きっと心細いのだろう。

 ここで抱きしめてあげるのが優しさなのかもしれない。


 よし、ギュッてしてあげよう。

 決して、俺に邪な気持ちはない!


 だが俺が手を伸ばしかけた瞬間――、管理人の老人がドアを開いた。


「急いで駆け付けたぞ! 大丈夫じゃったか? ん……。ほほぉ……。すまん、すまん。若いもんでイチャコラ中じゃったかのぉ」

「いやいや! 誤解ですよ!」


 その後、何度も説明して誤解を解くことができた。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても励みになっています。


次回、笹宮が活躍!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 音水ちゃんの心の声がだだ漏れだっ! 笹宮、聞け!心の声を!w [気になる点] いや、1人にとっては誤解じゃないんですがね…
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