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8月13日(木曜日)楓坂とデート(告白のゆくえ)

「将来的に、私とお付き合いしませんか?」


 駅ビルの中にある靴屋で、楓坂が突然そんなことを言い出した。


 あまりに唐突なことだったので、俺は言葉を失う。


 普通に考えれば、恋人になろうという意味だよな。

 まさかここでダジャレなんてことはないだろう。


 しかし……、


「……将来的……というのは、どういう意味だ?」

「今すぐでなくていいという意味です。笹宮さんの気が向いたら付き合ってください」


 ずいぶん、フワッとした告白だ。

 こういう場合、どう返事をしていいのかわからん。


 戸惑いを隠せない俺に、楓坂は女神スマイルで微笑む。


「うふふ。笹宮さんのあっけにとられた顔、とてもとても好きよ」

「いきなりで驚いてるんだよ」

「だって普通に『付き合ってください』って言ったら、笹宮さんって深く考えずに断りそうですもの」


 そう言われれば……そうかもしれん。


 俺みたいな恋愛ベタは現状維持を求める傾向がある。

 そんな人間が告白なんてされたら、『一度断る』『距離を取る』といった選択肢しか思いつかないのだ。


 それに比べて『答えを求められない告白』というのは、情けないが安心感がある。


「それにね。私、あなたとこうしてイジり合っている時間が楽しいの。すぐに恋人関係になったらつまらないでしょ?」


 まるでもう付き合うこと前提みたいな口ぶりだな。

 ……って、おい!


「待て」

「なにかしら?」

「なにがイジり合うだ。いつも俺が一方的にイジられているだけだろ」

「笹宮さんもイジっていいですよ?」

「怒るだろ」

「反撃はしますね」


 ふふふ……と楓坂は嬉しそうに笑う。


 くっそぉ~。なんだこれ……。


 告白されてんのに、この敗北感はなんなんだ。

 普段のおまえならこういうとき、恥ずかしくて半泣きになるだろ。おのれぇ~。


   ◆


 買い物を終えた俺達は、そのまま駅に向かった。


 だが告白されて以降、俺はずっと混乱している。

 心ここにあらずという言葉がぴったり当てはまる状態だ。


 改札口の前に到着すると、楓坂は頭を下げる。


「今日はありがとうございました」

「ああ……」

「あ、戸惑っている顔。えーいっ」

「こら、つっつくな」


 クスクスと笑う楓坂。


 ぐっ……。今まで全然気づかなかったけど、楓坂がかわいく見える。


 フワッとしていたが、告白をされて意識するようになってしまったじゃないか。


 だが、ここで動揺すると負けた気分になるので冷静を装わないと……。


 一方楓坂はというと、俺の様子を見てほほえんでいた。


「やっと私のことを意識して頂けて嬉しいわ」

「……別にそんなことはない」

「えーいっ」

「やめろ」


 正直なところ、楓坂の言う通りだ。

 まだ付き合うとまでは考えていないが、俺は楓坂のことを女性として意識し始めている。


 やばいなぁ……。なんか、このままズルズルと流されそうだ。


「それにしても、あんなことを言ったわりにアッサリと帰ってしまうんだな」

「さびしい?」

「俺がそんなことを考えると思うか?」

「私はちょっとさびしい……かな」


 ぐっ……!

 今日に限って、かわいいことを言いやがって……。


 だが耐えろ、笹宮和人。

 ここで流されたら、一生言いなりの人生になってしまうぞ。


「ま……まぁ、楓坂ほどの人間になれば、告白くらいどうってことはないんだろうな」


 すると楓坂は震える小声でつぶやく。


「ぅ……わ……、私だって……恥ずかしかったに決まってるじゃないですか……」

「え?」

「ふんっ! なんでもありません! それではごきげんよう」


 ぷいっと背を向けた楓坂は長い髪を手で払い、ホームに向かって颯爽と歩いて行った。


 思い返すとペースを楓坂に握られっぱなしだ。

 今日は俺の完敗だな……って、んん?


 ……なんか……様子がおかしいぞ。


 楓坂はまず案内板にぶつかった。

 次はこけそうになり、極めつけは壁にぶつかる。


 あいつ、大丈夫か?


 チラリとこちらを振り向いた彼女は……、


「んんんんんんん~っ!!」


 と半泣きで唸った後、逃げるようにホームへ歩いていった。


 余裕があるように見えていたが、どうやら楓坂もいっぱいいっぱいだったらしい……。


 今日の勝敗は……とりあえず引き分けってところか。


   ◆


 自宅に戻った俺は、リビングのソファに倒れるように寝転がった。


「だっはぁ~! 頭が追いつかねぇ~!!」


 デートかもしれないという期待は確かにあったが、まさか告白されるとか思いもしなかった。


 やべぇ……。全然気持ちの整理がつかない……。


 ピロリン♪


 LINEか?

 今はあんまり他のことを考える余裕はないんだが……って、なんだ。妹の愛菜(あいな)からじゃないか。


 愛菜は今年から中学一年生だ。

 夏休みだからきっとバリバリ勉強を……してるわけないよな。


 あいつはガチのオタクだから、アニメ三昧の生活をしているに違いない。


 えっと、LINEの内容は……どれどれ……。


『やほーっ! 兄貴、生きてる? 明日からしばらくそっちに泊まるからお菓子と漫画を用意しといてね。愛菜より』


 ……はぁ!? 泊まりに来る? 明日から!?

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても嬉しいです。


次回より新展開! 妹の愛菜が登場!!


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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― 新着の感想 ―
[一言] なんと、すぐ返事をしなくていいとは!楓坂ちゃんに性格を見切られてるね(笑) 妹ちゃん、登場か…楽しみ(^^)
[一言] けっこう年が離れてる兄妹なんですね。 25歳と中学一年だから12か13歳。ひとまわりも違う兄妹って珍しい。
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