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８月１０日（月曜日）通勤電車で女子高生に相談してみよう

　コミケが終わった翌日の朝。

　俺は会社に出勤するため通勤電車の先頭車両にいた。

「楓坂のやつ、どうして俺を誘ったんだ？」

　昨日打ち上げの席で楓坂と買い物をする約束をしたのだが、俺は困惑していた。

　もしこれが普通の女子なら、デートのお誘いだと思って喜ぶこともできるのだが相手が楓坂。

　ラブな展開はありえないだろう。

　とはいえ、あれだけ仕事を頑張っていたんだ。

　ご褒美というわけではないが、彼女を労ってあげたいという気持ちはある。

　さて、どうすればいいものか。

　そんなことを考えていた時、トン……と俺の前に女子高生が立った。

　制服を着た彼女はいつものフラットテンションの声であいさつをする。

「おはよ。お兄さん」

「よぉ。結衣花」

「コミケ、お疲れ様。今日はユニフォーム姿じゃないんだね」

「その方がよかったか？」

「ううん。スーツの方が似合ってるよ」

　言うまでもないが、夏場のスーツ姿というのははっきりいって地獄だ。

　世間ではクールビズという習慣があるそうだが、うちは古い会社なので未だにスーツ至上主義を掲げている。

　温暖化が進む現代においていかがなものかと思うのだが、会社の方針には逆らえない。

　そういえば楓坂の買い物に付き合う時の服装も考えておかないと、またバカにされるかもしれん。

　昨日の打ち上げの時にも『バカ』って言われたしな。

　しかし、結局あれってどういう意味だったんだ？

　どれだけ考えても変なことは何も言っていなかったと思うのだが……。

　そうだ。

　結衣花なら楓坂が言った意味を理解できるかもしれない。

「なぁ、結衣花。ちょっと訊ねたいことがあるんだが……」

「なに？」

「バカって言われたんだけど、どういう意味かな？」

　すると女子高生は淡々とした口調で返す。

「お兄さんがバカってことでしょ？」

「やっぱりそうなるか」

「それ以外にないじゃん」

　そうなんだよな。ぶっちゃけ、それ以外の答えはない。

　相手が楓坂なのだから、言っても全く不思議ではない。

　だけど、何かが違うような気がする。

　なんていうか……、あの時の楓坂っていじけているようには見えたけど、敵意がなかったんだよな。

　せめて、もう少しだけ楓坂が考えていることが分かれば……。

　すると結衣花は腕を二回ムニって訊ねてきた。

「ねぇ。相談してみる？」

「ふっ……。俺が助けを求めているように見えるか？」

「違うの？」

「求めてます」

　社会人になって俺が学んだことは、素直に相談することが最速の問題解決法だということだ。

　聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥というではないか。

　もっとも女子高生に相談している社会人というのはかなりダサいのだが、そこはとりあえずスルーしよう。

「まぁ、そんなに深い話じゃないんだが」

「お兄さんって基本的には浅い人生だもんね」

「こら」

「てへ」

　表情を変えずに「てへ」っていうやつ、始めて見たぜ。

　だが、かわいいので許してやろう。

「簡潔に言うと、研修生の女性から買い物に行こうと誘われたんだ」

「あ、お兄さんが補佐してた人？」

「ああ。それで最後にバカって言われたんだ。ぶっちゃけ、わけわからん」

　結衣花は「んん？」と唸って、首を傾けた。

「それってさ。デートに誘っているのに、お兄さんが意図に気づいてくれないからバカって言ったんじゃない？」

　あり得ない答えに、俺は片手を振った。

「さすがにそれはない」

「でもお兄さんって、女の人の気持ちを読むのが苦手じゃん。それでもあり得ないって言える？」

「うっ……」

　そうなんだよなぁ。

　俺は女性の気持ちを理解できていない。

　そりゃ、ちょっとは努力してるんだぜ？

　だが、わからないものはわからないのだ。

「私的には後輩さんを応援しているけど、お兄さんの気持ちが一番だからね」

「……つまり、どうしたらいいんだ？」

「とりあえずデートしてみて、相手の気持ちを確かめてみたら？」

　確かにその通りだ。

　実際、楓坂がどう思っているかなんて全く分からない。

　そもそもデートというのはお互いのことを知るためにするんじゃないか。

　だが……、と俺は思う。

「なあ、結衣花。俺にそんなトークができると思うか？　自慢じゃないが、俺は口ベタなんだぜ」

「あ、そうだね。できないよね。ごめん」

「謝らないでくれ。悲しくなっちゃうじゃないか」

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次回、楓坂とデート！

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