表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/330

8月5日(水曜日)俺と後輩の会話が食い違ってる件について

 昼休み。


 会社近くのファミレスでランチをしながら、俺は笑いに関する情報をチェックしていた。

 目的はもちろん、話をしてくれなくなった楓坂を笑わせて仲直りするためだ。


 スマホに表示されるサイトにはこう書かれている。


 『笑いとは心を激しく震わせ、求めるものを与えることなり』


 とても説得力のあるフレーズだが、具体性がないのでイマイチ意味がわからない。

 やはり俺には荷が重いのか……。


「笹宮さん」


 ふいに可愛い声が聞こえたので顔を上げると、そこには後輩の音水がいた。

 トレイにはコーヒーとベーグルサンドが乗っている。


「笹宮さんもランチですか?」

「ああ。よかったら一緒に食うか?」

「はいっ!」


 出勤日に音水と一緒にランチをするのはひさしぶりだ。

 俺達の仕事は外出が多くなるため、別チームになってしまうと会う機会が極端に少なくなる。


 しかたがないことだが、さびしくもある。


 おっと。あの事を言っておかないと……。


「紺野さんから聞いているかもしれないが、明日から音水もザニー社のコミケチームに入ってもらう。頼むぜ」

「はい! また笹宮さんと一緒に仕事ができてうれしいです!」


 ザニー社のナンパ主任・張星がチームから抜けたため、メンバーの補充が必要になった。

 そこでヘルプとして音水に入ってもらうことになったのだ。


 だが急に音水の表情が暗くなった。


「あのぉ……」

「どうした。そんな不安そうな顔で」

「楓坂さんと……、どんな感じなのかなぁ~と思って……」

「そうだな。正直に言うと、今一番気になっているのが楓坂のことだ」

「えっ!?」


 驚いた音水はガタッと席を立った。


「……どうした?」

「い……、いえ……。なんでもありません。は……はは……」


 なにかおかしなことを言っただろうか?

 まあいい。話を続けよう。


「最近は楓坂のことばかり考えて夜も眠れなくてな」

「そうなんですね……」

「彼女を笑顔にしたいのだが、俺にはその術がわからない」

「……彼女を……え……笑顔に……ですか」


 席に着いた音水は、真剣な表情で考えるしぐさをした。


 まさか……俺のために一緒に悩んでくれているのか。

 おまえ、どんだけいい奴なんだよ。


 ふっ……。やれやれ。

 こんなに真面目な後輩がいてくれるのに、なにを立ち止まっているんだ。

 よし! くよくよせずに前向きにいこう!


 自信を取り戻した俺は、音水をまっすぐに見る。


「すまん、音水。もう迷いは断ち切った。俺にはお前がいるということを今さら思い出したよ」

「そっ! それってつまり!!」

「ふっ……。言わせるなよ」


 俺は気の利いたセリフが言えない男だぜ。

 深く追求されたら、どう答えていいかわからん。


 すると……、


「きゅはわぁぁぁぁぁぁぁゎゎゎっ!!!!!!!!」


 突然、音水は顔を真っ赤にして叫び出した。

 なんだ、いったい……。


「……なんで叫ぶんだ?」

「だって、笹宮さんがおかしなことを言うから!!」

「おかしかったか?」

「いえ、全然おかしくありません!!」

「どっちだよ」


 たまに音水はこういうところがあるんだよな。

 人にはそれぞれ悩みがあるものだし、いざと言う時は相談に乗ってやろう。


 そうだ。

 音水にも笑いについて聞いてみるか。


 笑いの極意は『心を激しく震わせ、与えること』というところまではわかったが、その先がさっぱりだ。

 彼女なら、なにかヒントをくれるかもしれない。


「ところ音水。少し驚くようなことを聞いてもいいか?」

「もうドキドキしてます!」


 一呼吸を置いて、俺はおもむろに訊ねる。


「音水の心を激しく震わせるとすれば、どうすればいい?」

「は!! 激しく……ですか!?」


 音水は再び、ガタっと椅子から立ちあがった。


「ああ、激しく与えたいんだ」

「与える!? な、なにを!?」

「具体的にと言われると表現しがたいな」

「そ! そうですよね! この場で言うのは、いろいろヤバそうですよね!」

「ヤバくはないと思うが……」


 笑いの極意について話しているのだが、やはり音水にもわからないようだ。


 しかたがないよな。

 普通はこんなことを訊ねられても、困惑するだけだろう。


「混乱させてすまない。俺自身もどう攻めていいのかわかっていないんだ」


 すると音水は、なぜか顔を赤くしてモジモジし始めた。


「そのぉ……。私、笹宮さんなら、どんな攻めでもオッケーというか……。……はわわわっ!! もうっ、もうっ! なに言わせるんですか!! きゃーっ!!」

「なぜ俺の肩を叩く?」


 どうしてこんな反応をするんだ?

 

 ああ、そうか。

 きっと音水は素直だから、俺が披露するネタはどんなものでも面白いと言いたいんだな。


 まったく、かわいいやつだぜ。


 だが、自信は得た。

 今の俺なら楓坂と関係を修復することができるだろう。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。


次回、楓坂が本音を伝える?

二人の関係がまた一歩近づきます!


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*'ワ'*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 安定の音水ちゃん(*^^*) そして、勘違いさせるセリフが上手な笹宮くん(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ