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6月28日(日曜日)【結衣花視点】神社のベンチで

 日曜日の朝。

 私はホテルの近くにある神社のベンチに座って、深いため息をついた。


「あぁ……。なんであんなこと聞いちゃったんだろう……」


 昨日、お兄さんと電話をしている時、つい「もし私が告白したら」なんて聞いてしまった。


 お兄さんに告白するつもりなんて全然ない。

 後輩さんとのことだって応援している。

 そもそも、私とお兄さんが付き合えるはずがない。


 だけど、お兄さんともう少し一緒にいたかった。

 あの質問は、離れて欲しくないというわがままだったんだ。


 っていうか、めっちゃ恥ずかしい。


「なんか、私ってめちゃくちゃだな……」


 と言っても、もうこんなことで悩む必要もないか。

 お兄さんの性格から考えて、後輩さんから告白されたら受け入れるはず。


 だって会社の体裁より、後輩さんの悲しむ顔を見たくないって考える人だもん。


 これからは電車で一緒に話すのもやめたほうがいいだろう。

 ちょっと……さびしいな。


 近くにいる野良猫をぼんやりとながめていた時、よく知っている人の声がした。


「よぉ。結衣花」


 ポロシャツにチノパンというラフな格好で現れたのは、お兄さんだった。

 スッキリした顔に見えるのは、きっと後輩さんと結ばれて嬉しいからだろう。


 私はさっきまでの感情を押し込み、いつものトーンで返事を返す。


「どうしたの?」

「昨日と同じで散歩だ」

「そっか。奇遇だね」


 するとお兄さんは「ん?」と不思議そうな顔をした。


「なんか、元気がないように見えるけど大丈夫か?」

「普通だけど?」

「……そうか」


 普通……だよね。

 いつも通りにしているし。


 私の隣に座ったお兄さんは、前髪をいじった。

 これ、緊張している時のクセだ。

 自分で気づいてないのかな?


「あー。昨日の結果報告なんだが……」


 はいはい。

 聞かなくてもわかってるよ。


 きっと告白をされて、最初は会社のことを理由に断ろうとしたんでしょ。

 だけど、すぐに『お前のことを全力で守る』とか言って、付き合うことになったってところじゃないかな。


 だけどお兄さんの報告は、私の予想を見事に裏切った。  


「結局のところ、別チームになってもLINEをしようっていう内容だった」

「え……。それだけ?」

「ああ。それだけだ」

「じゃあ、告白されるって話は……」

「……俺の早とちりだった」


 あまりに予想外だったため、私は呆然としてしまった。


 え……。なにが起きてるの……。

 だって、昨日あれだけガチに相談してきたのに、それが早とちりだったってあり得る?


 しばらくポカーンとした私は、たまらず「ぶっ!」っと吹き出すように笑った。


「あはははっ! お兄さん、バカみたい!」

「おい、笑うな。直前までは本当にビビってたんだ」

「ヘタレ、ここに極まりって感じだね。うんうん。絶滅危惧種はそうでなくっちゃ」

「ったく。こんな時だけ嬉しそうにしやがって」

「面白いを楽しむのは人として自然です」

「人の悩みを楽しむのは不自然だ」


 結局、いつも通りってことじゃん。

 もう会わないほうがいいとか考えてた私がマヌケだよ。


 でもこれで、もうしばらくお兄さんとの時間を続けることができる。

 こんな時にホッとしてしまうなんて、私はズルいな。


 あれ?

 じゃあ、なんでさっき私と会った時、スッキリした顔をしていたの?


 うーん。……わかんない。

 まぁ、いいや。

 どうせ、お兄さんだし。


 恥ずかしさを紛らわすように頭をかいたお兄さんは、そらしていた視線を私に戻す。


「しかし結衣花が声を出して笑うなんてめずらしいな」

「そう?」

「ああ。少なくとも俺ははじめて見たぜ」


 そういえば、そうかも。

 こんなふうに笑ったのって久しぶりだ。


 あ……。なんか子供っぽかったかな。

 そう考えると、恥ずかしいかも。


 でもお兄さんしか見てないし、ノーカウントということでいいでしょう。


 ベンチから立ち上がったお兄さんは体を伸ばして、私の方を見た。


「これからコンビニ行くが、結衣花も来るか?」

「うん。今日はほうじ茶ラテかな」

「まるでおごり前提のような口ぶりだな」

「お兄さんの心遣いに感謝だよ」


 するとお兄さんは「ふっ……」と、軽くほほえむ。


「まぁ、いいだろう。俺もほうじ茶ラテを飲みたかったので了承だ」

「ほうじ茶ラテなら、男の人でも恥ずかしくないでしょ?」

「飲んだ時の感想を言い合える相手が欲しいんだ」

「わぁ、出た。ボッチなのに共感を求めるタイプ」

「ダメか?」

「ううん。私は嫌いじゃないよ」


 立ち上がった私はお兄さんの隣に立ち、腕を二回ムニった。

 この揉み心地はとても癒される。


 この時間が好き。


 お兄さんと一緒にいて、どうでもいい話をして、ただ寄り添うだけの時間が好き。


 たったそれだけなのに、すごく愛おしい。


「あ、そうそう。言い忘れてた」

「なんだ?」

「おはよ。お兄さん」

☆評価・ブクマ、いつもありがとうございます。

とても励みになっています。


出張編も残り三話。

次回、音水が「ふにゅわぁぁぁっ!!」と叫ぶ!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*'ワ'*)

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― 新着の感想 ―
[一言] 結衣花ちゃん、お兄さんの腕に癒やされてるね~ 俺「他の場所もにゅってもいいんやで?」(事案発生)
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