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告白の行方


「私ね。お兄さんのことが好きです」


 結衣花に言われた突然の言葉。

 普段の俺なら、きっと驚いていただろう。


 だが、なぜか驚きはない。

 戸惑いも動揺もない。


 彼女の言葉はとても自然に俺の中に入り込んできた。


「……結衣花」


 俺は社会人、結衣花は女子高生。

 当たり前だが付き合うことなんてできない。


 そのことを知っている結衣花は、寂しそうにうつむく。


「でも、女子高生の私なんかにこんなこと言われても困るよね」


 空笑いをする結衣花は、すぐ傍にあった置物を目的もなく触っていた。

 気を紛らわすようなそのしぐさは、まるで俺の言葉を待っているかのように見える。


 結衣花の言う通り、普通は困る場面だろう。


 だが、俺は嬉しかった。


 もちろん彼女が女子高生だということは理解している。

 歳の差があることも理解している。

 社会的にも問題があるだろう。


 しかし、違うのだ。

 俺が求めているのは表向きの答えじゃない。


「そんなことないよ」


 言ってはいけない言葉だとわかった上で、俺は話を続ける。


「結衣花と一緒に過ごす時間は、俺にとっても大切だ。そう言ってもらえて嬉しい。本当に嬉しいよ」

「……お兄さん」

「もしこれからどんな楽しいことがあっても、その時に結衣花がいなかったらつまらない。電車の中で話してきたように、ゆっくりとあんな優しい時間を過ごしたいんだ。人によっては退屈なことかもしれないけど、結衣花がいてくれるなら、それは幸せなことだと思う」


 普段の俺なら一言二言で終わってしまうようなやり取りなのに、今だけ言葉が次々と流れるように溢れてきた。


 どうしてだろうか?

 ……って、わかってるさ。


 俺はずっと、そう思っていたんだ。

 結衣花と過ごす毎朝のあの時間が、かけがえのない大切な存在だということを理解しているんだ。 


 結衣花は俺の腕を、きゅっと掴んだ。

 そして俺の顔を見る。


 期待と感動で、彼女の瞳は潤んでいた。

 今まで抑えていた結衣花への愛おしさが溢れそうになる。


 俺は感情に流されないように、必死に言葉を探した。


「まぁ……、その……、アレだ。結衣花が卒業するのを待ってるよ。その後のことはその時に考えよう」

「じゃあ、……恋人予約ってこと?」

「恋人予約? ……なんかキープしてるみたいで嫌だな」

「私的にはいい言葉だと思ったんだけど」

「マジか? センス疑うぜ」

「センスのないお兄さんに疑われてもノーダメージかな」

「ぐうの音もでねぇ……」


 結衣花らしいといえばそうなのだが、言葉にエグみがある。

 もうちょっとこう……可愛い言葉とか選んで欲しいぜ。


 とはいえ、付き合う一歩手前で、あとは時間を待つだけということに間違いはない。


 もしここで『卒業したら結婚しよう』なんて言えればカッコいいのだろうけど、さすがにそれは言えない。


 社会的にもそうなのだが、はずかしすぎる……。


「とにかく、俺には結衣花が必要だ。これからも一緒にいてくれ」

「なんか、付き合うことを飛び越えてプロポーズみたい」

「言葉選んだらこうなったんだよ」

「結構はずかしい言葉だと思うよ」

「やっぱり?」

「うん。でも、そんなお兄さんだから……好き」


 最後の二文字を口にし、結衣花は顔を真っ赤にして再び下を見た。


 一度口にしてタガが外れたのか、今まではっきりと言わなかったことを遠慮なく使うようになっている。


 好き……。たった二文字なのに、こんなに心を訴えかけてくる言葉はないだろう。


 恥ずかしい……。だけど安心する。

 好きと言ってもらえることが、こんなに気持ちを安らげてくれるものなのか。


 だから俺は、すぐ傍にいる女子高生に言った。


「好きだよ。結衣花」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても励みになっています。


次回、これからのことを考える笹宮の前に、あの人が現れる!


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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― 新着の感想 ―
[一言] おおっと、ちょっと意外なポジティブな返事。 この章、微妙に最初から結衣花さん推し、があったと思うけれど、それでもそそちらに転ぶとは思ってなかったような。 まあ、誰にも手を出していなかったから…
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