表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/330

6月24日(水曜日)どうして見ているの?

「おはよ。お兄さん」

「よぉ。結衣花」


 翌日の朝。

 通勤電車に乗っていると、いつもの調子で結衣花が挨拶をしてきた。


 思えば結衣花と出会って三週間になる。

 もっと長い付き合いのように感じるのは、俺がこの時間を楽しんでいるからだろう。


 彼女はこちらの様子を伺うように顔を覗き込んでくる。


「どうだった? 仕事は上手くいったの?」

「まあまあだな」

「悪女さんはやっつけた?」

「どうだろな。たぶん、仲直りできたかもしれん」

「んん? なにそれ」


 月曜日のプレゼンで、楓坂は俺達の提案を推してくれたのだ。


 突然味方をしてくれたことには驚いたが、楓坂がいなかったら音水を助けられなかっただろう。

 どういう心境の変化があったのかはわからないが、次にあったら礼を言っておかないとな。


 プレゼンも勝ち取り、部長の問題も解決した。

 これで音水の教育期間を無事に終わらせてあげられる。


 いろいろなことがあったが、とりあえず一件落着と言ったところか。


 ふと隣をみると、結衣花がじーっと俺の方を見つめていた。


「なんだよ」

「……別に」


 そう言うと、結衣花は前を見る。


 また俺をからかおうとしているのか?


 もっとも、俺だってレベルアップした。

 たとえどんなふうにからかってこようと、そう簡単には動じないぜ。


 からかわれることを受け入れている俺もどうかと思うが……。


 気が付くと、また結衣花が俺の方を見ていた。

 今度は気づかれないように横目で見ていたが、俺と目が合うとすぐに視線をそらす。


 ……どうも、いつもとは違うみたいだ。


「おい、結衣花」

「なに?」

「なんでそんなふうに見るんだよ」

「見てないよ」

「めっちゃ、見てたじゃないか」

「視界に入っただけだから」

「目が合っただろ」


 結衣花は俺の腕を三回ムニって、言いづらそうに答える。


「お兄さんが、なんか変わったと思って」

「どんなふうに?」

「なんか男の人って感じになったから」

「ずっと男だが?」

「そうじゃなくて。んー。もういいや。お兄さんに言っても伝わんないだろうし」

「なんだよ、その言い方」


 結衣花からすれば、やはり俺は子供のように見えるという事か。

 ったく、こっちは結構おまえのこと信頼しているんだぜ。

 もう少し、対等に見てくれてもいいんじゃないか?


 しばらくすると電車は聖女学院駅前に到着。


「じゃあね、お兄さん」

「ああ」


 結衣花は手を振った後、電車を降りる。


「さて……と……」


 壁にもたれた俺は腕を組んで窓の方を見ようとした。


 すると、さっきまで結衣花がいた場所に別の女性が立つ。

 巨乳が印象的なメガネ美女、楓坂舞だ。


「ごきげんよう。笹宮さん」

「いたのか。楓坂」

「電車に乗っていたら、偶然見かけたので声を掛けさせていただきました」

「うそつけ。待ってたんだろ」


 相変わらず口調は柔らかいが言葉にトゲがある。

 この前のプレゼンでは助け船を出してくれたが、完全に気を許してくれたわけではないということか。


 楓坂はつまらなさそうに電車の天井を眺めている。

 いったい何を考えているのだろう。


 とりあえず、助けてくれた礼を言っておくか。


「プレゼンの時は助け船を出してくれて助かった。ありがとう」

「単純にパワハラが嫌いだっただけです。それに笹宮さん達の提案が優れていたのは明白でしたわ」


 言い方がとげとげしい。

 こっちは一昨日の一件で、できれば仲直りしたかったんだが……。


 もっとも楓坂の目的は結衣花と俺を引き離すことだから、自分が負けたと思っているのかもしれない。


 ……いや、待てよ。そうじゃないとしたら? 


「もしかして……、今のは照れ隠しというやつか。別に素直になっていいんだぞ」

「あらあら。どうして私が照れないといけないのかしら。すごくすごく滑稽な人」


 楓坂はそういうと、わざとらしくニッコリ笑って天井に視線を戻す。


 少し経つと、またこちらをチラリと見て、視線を戻す。

 さらにもう一度、こちらをチラッと見て、サッと視線を天井に戻した。


 しばらくすると、カアァっと彼女の顔は赤くなっていく。


 はっは~ん。

 やっぱりさっきのは照れ隠しか。


 俺が心の中でニヤニヤしていることに気づいたのか、楓坂は恨めし気にこちらを睨み、瞳をうっすらと潤ませた。


 さては恥ずかしいと泣きそうになるタイプだな。

 案外、かわいいところがあるじゃないか。


「なにかしら?」

「いや別に」

「見てましたよね」

「視界に入っただけだ」


 よほどお気に召さなかったのか、楓坂は唇を逆U字にして怒っている表情を表す。

 いや、拗ねているというべきなのかもしれない。


 そういえば以前ファミレスで結衣花は、楓坂は正義感が強いというニュアンスで話していた。


 たまたま俺とは対立してしまったが、元からパワハラや理不尽なことを許せない性格なのだろう。


 電車のアナウンスが次の駅に到着することを知らせた。


「も、もう次の駅だから降りるわ」

「この前降りた駅と違うけどいいのか?」


 すると楓坂はこちらをじっと見る。

 さっきまでのいじけた様子とは違い、どこかさびしそうな雰囲気だ。


「……。笹宮さんは、もう少し話がしたいの?」

「会社まで暇だから話し相手がいてくれると助かるな」

「そ……そう。なら仕方ないわね」


 一度離れようとした楓坂は再び俺の隣に立ち、今度は日常の雑談を話し始める。


 その内容は普通の女子大生が話していそうな内容だったが、初めて年相応の楓坂を見れた瞬間でもあった。


 さて、次は七夕キャンペーンの準備か。

 忙しくなりそうだ。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても励みになっています。


次回から新展開!出張編がスタート!!

よろしくお願いします。(*’▽’*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 笹宮を意識する結衣花が可愛いな。笹宮の冒頭変化を感じ取ってドキドキですね。三回の腕ムニに結衣花の不安とドキドキな心情が読めたw笹宮を意識する結衣花が可愛いな。笹宮の変化を感じ取ってドキドキで…
2021/06/06 10:38 退会済み
管理
[一言] 結衣花ちゃん、するどい! 先輩…ちょっとデレた?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ