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楓坂が旅行についてきた理由


 四季岡の元リーダー、正岡さんに会うために俺達はさらに鹿児島を南に向けて移動していた。


 俺が運転する後ろの座席で、楓坂がスマホを操作して行く先のことを調べている。


「正岡さんがいるところって旅館かしら? そばが名物って書いてあるけど……。鹿児島ってそばが有名でしたっけ?」

「昔は生産量日本二位だったらしいぞ。今も九州なら一位みたいだな」

「グルメ雑誌っていろいろ書いているんですね」

「バレたか」


 知識人っぽく振る舞おうとしたのに、ネタ元が速攻でバレてしまった。

 ちょっとだけカッコを付けたいと思ったのに……。


 まぁ、俺が知識人ではないことは二人とも知っているから、今さら背伸びをしても無駄なんだけどな。


 小一時間ほど移動した先で、ようやく目的の街に入ることができた。


 ここから正岡さんがいるという旅館に向かえばいいのだが、さすがに長時間の運転で身体がガチガチだ。


 休憩する目的もあって、とりあえず近くにあったコンビニに車を停めた。


 連休中ということもあり、かなり車が多い。

 駐車場は広かったが、ほとんどが埋まっていた。


 停車した車から降りて、コンビニに入ろうとした直前、結衣花が声を上げる。


「あれ?」

「どうした?」

「お財布、車の中に忘れたみたい。お兄さん、車の鍵を借りていい?」

「ああ」


 結衣花は少し離れたところに停めてある車に小走りで向かう。


 ちょうどいいタイミングだ。

 気になってることを楓坂に訊いてみよう。


「……で、なにかあったのか?」

「やぶから棒になんですか?」

「空港で会った時に、動画制作が上手く行っていないって言ってただろ。なにかあったんじゃないかと思ってな」


 今回の旅行は元々俺一人でいくつもりだったが、急に楓坂と結衣花もついてくると言い出した。


 そのことが少し引っ掛かっていた。


 それに楓坂が少しでも弱音を口にした時は限界に近い時のサインだ。


 絶対にそうという確信はなかったが、なんとなく楓坂が困っているように見えていた。


「いつも鈍感なのに鋭い時もあるから、たちが悪いのよね。あなたって……」


 なぜか呆れたように小さく息を吐いた楓坂は、下を向いてぽつりぽつりと話し始める。


「結衣花さんが描く絵が変わったの。それで動画がうまくまとまらないのよ」

「またスランプってことか?」

「いえ、むしろ上達しているわ。一枚のイラストとしてなら全然問題ないの。でも方向性に統一感がないから動画にすると違和感があるのよ」

「それは……楓坂がなんとかできることなのか?」

「ええ……。私にもっとスキルがあればいいんだけど……」


 楓坂は本格的に動画制作のプロを目指している。


 だからだろう。

 上を目指すようになって自分の実力にもどかしさを感じ始めているんだ。


 無理もない。

 動画制作の演出技術はあまり情報が出回っていない。


 いくらVtuberとして経験があっても、上を目指すのは大変なのだろう。


 俺にできるかどうかわからないが、励ましてやりたい。


「楓坂も結構すごいと思うけどな」

「全然まだまだよ。みんなすごいわ。YouTubeとか眺めてると心が折れそうになるもの」


 女性にしては身長が高めの楓坂だが、今は小さく見える。とても弱々しい。


 すると彼女は俺に触れるほど近づいて、小さい声でつぶやいた。


「……手、握りたい」

「ああ、いいぞ」

「……ちょっとは照れてよ」


 すっと、彼女は両手で俺の手を握る。


「楓坂って俺の指で遊ぶのが好きだよな」

「いいでしょ、別に……」

「まぁ、俺はクリエイティブなことはできないがサポート力はある方だと思う。いつでも頼ってくれ」

「あ……、ありがとう。……ありがとう」


 声に温かさが戻ってきた。

 こんなことではあったが、楓坂に元気が戻ってきたようだ。


 ちょうどその時、結衣花が戻ってきた。

 楓坂は慌てて俺の手を離して距離を取る。


「おまたせ。……って、あれ? どうかしたの?」

「いや、なにもないぞ」

「そう?」


 そして結衣花は俺に近づいて、小声で言う。


「エッチなことしてたとか? 怒らないから言ってみて」

「してねーよ」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても励みになっています。


次回、旅館で正岡さんに出会う!!


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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― 新着の感想 ―
[一言] いや、それは案外えっちなのかも。 結衣花さんがさらの伸びれば、そちらからすり合わせる事もできるのかもしれないけれど。まだまだ発展途上なんですね。
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