みんなでお花見
四月三日、土曜日。
今日はみんなでお花見をする日だ。
結衣花のスランプ、楓坂の不在、春フェアでゆかりさんチームと対決など、振り返ると三月はいろいろなことがあった。
そんな出来事を乗り越えたからなのか、今日の花見を俺は楽しみにしていた。
もちろん場所取り役は俺。
朝早くに人気のスポットへ出向いて、ブルーシートを敷いて場所を確保。
そして寝転がった俺は本を読みながら、ぼんやりと桜の花びらが舞う景色を眺めていた。
すると、淡々とした口調のいつもの彼女が声を掛けてくる。
「おはよ。お兄さん」
「よぉ、結衣花」
体を起こした俺は片膝をついて結衣花に挨拶を返す。
「場所取り、ご苦労様」
「いや、いいよ。のんびり桜を見ながらダラダラしていただけだし」
この後、音水やゆかりさん。そして紺野さんや以前特別チームで一緒になったザニー社の若手組も来る予定だ。
ふと、俺はあいつが来ていないことを疑問に思った。
「楓坂と一緒じゃなかったのか?」
「うん。家まで誘いに行ったけど寝坊しちゃったみたい。それで先に行っていて欲しいだって」
「楓坂らしいな。まぁ、まだ時差ボケが残っているだろうから、仕方ないんだろうけど」
二日前に楓坂は帰国をし、今は旺飼さんの自宅で住んでいる。
そして結衣花も昨日からゆかりさんがいる本来の自分の家に戻っていた。
というわけで、俺の隣には今誰もいない状況だ。
少し寂しい気持ちもあるが、こうしてみんなと一緒に会えるならいい。
かつて無愛想主義者だった俺がこんなことを考えるとは……。なんか笑えるな。
自分に対して、つい苦笑いをしてしまった。
すると結衣花は隣にそっと体育座りをする。
「今日はお花見日和だね」
「そうだな。桜の綺麗さはいつまでたっても変わんないよな」
「お兄さんにも人類の価値観がわかるんだ。目からうろこだよ」
「うろこの涙が出るほどいい気分ってことさ」
ちなみに雪代は来ない。
あいつ、俺とは会いたがるが基本的に一匹狼なので、大勢で騒ぐ場所は避ける傾向がある。
学生時代からずっとそうだ。
たぶん今頃は自宅で腹を出して寝ているだろう。
「そうだ、結衣花。話があるんだが……」
「なに? プロポーズ?」
「どういう発想だ」
そして俺はカバンからリングケースを取り出した。
それを見た結衣花は目を丸くして驚いている。
「……え。本当にプロポーズだったの?」
「違うって。今日は結衣花の誕生日だろ。そのプレゼントだ」
「覚えていてくれたんだ……」
「そりゃあ、まあな」
あれは十一月の下旬。
たしかクリスマスの話をしている時だった。
俺の誕生日を教えた時、結衣花の誕生日が四月三日だと知った。
その時から俺は、四月になったらなにか贈り物をしようと考えていたのだ。
「開けていい?」
「ああ」
リングケースを開いた結衣花は、かわいらしいデザインの指輪を見て瞳を輝かせた。
「わぁ……、綺麗……。でもお兄さんが指輪なんて意外かも……」
「店員さんに相談したら、女性に贈るなら絶対に指輪だって言われたんだ」
「それ、恋人と勘違いされてない?」
「いちおう説明はしたんだが……」
隣に住んでいたことや、毎日電車で話をして相談に乗ってもらうことなど、俺は店員に相手が女子高生というところを伏せて説明をした。
だが店員の言い回しは、まるで好きな想い人に告白できない純情な青年を相手にしてるようだった。
まぁ、結衣花も喜んでくれているし、別にいいか。
「指のサイズ合ってるかな?」
「うん。ちょっとゆるいけど、これなら大丈夫」
「そうか。よかったよ」
結衣花は指輪をはめた左手の指を見せながら俺にほほえみかけた。
「お兄さん。ありがとう」
「ああ」
ちょうどその時、近くで俺達を呼ぶ声がした。
「結衣花さん、笹宮さん。お待たせしました」
それは最近まで海外に行っていた楓坂だった。
しばらく会っていなかったが、彼女の女神スマイルは健在のようだ。
そして、別の方向から音水がやってくる。
「笹宮さ~ん! おはようございます!」
さらに紺野さんやゆかりさん達もやってきた。
今俺の周りには、こんなにいろんな人がいてくれるんだな。
そして結衣花は俺の腕を掴んで、二回ムニった。
「お花見、始めよっか」
「そうだな」
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次回、新章突入! いよいよ、最後の選択の時です!!
投稿は朝7時15分。
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