深夜のオフィス
泊まり込みで仕事をすることになった俺と音水は今、狭い部屋で二人きりになっていた。
「んっふふ~♪」
「機嫌良さそうだな」
「だってぇ~、もうすぐ私達が育てた子が産声を上げるんですよ」
「まぁ、今はその最中なんだけどな」
そして、レンジの方から『チン』と音が鳴った。
今俺達は給湯室で弁当を温めていた。
温めたお弁当を取り出して、俺は片方を音水に渡す。
「ほら。こってりチャーシュー丼だ」
「ありがとうございます!」
「音水って意外とガッツリしたものも食べるんだな」
「普段は控えてますけど、今日はエネルギーチャージしないとですからね」
すると音水は俺の弁当を見て言った。
「そういう笹宮さんは定番のハンバーグ弁当なんですね」
「この歳になると冒険よりも無難さを選択してしまうんだ」
「でもそれ、ブロッコリー入ってますよ」
「え?」
遅めの夕食はコンビニ弁当だ。
だが誰もいない会社で食うと、不思議と美味いような気がする。
独占欲が満たされているのかもな。
弁当を手早く済ませた俺達は再び机に向かって仕事を始めた。
数時間後、ようやく企画書をまとめ終えることができる。
普段の仕事をこなしながら、ほぼ一日で仕上げた企画書だ。
粗がないか心配なところもあるが、これでデパ地下春フェアのテコ入れ企画は完成だ。
「ふぅ……。とりあえず、形にはなったな」
「そうですね」
時刻を見ると深夜二時、丑三つ時ってやつだ。
この時間まで座りっぱなしで仕事をしていると、体がガチガチになってしまう。
その時、『ガシャン!』と大きな音がした。
「……なんだ、今の音」
さらに『ガシャガシャ!』とシャッターが揺れる音。
おそらく倉庫のシャッターだろう。
「え、もしかして泥棒ですか!? ヤバくないですか!?」
「いや、それならこんなに音を立てないだろ」
「ということは……幽霊?」
そっちの方がないと思うんだけど……。
「ちょっと見てくるか。音水はここにいろ」
「えぇ!? 嫌ですよ! 一人にしないでください!」
こうして俺達は一階にある倉庫へ向かった。
それにしても他の部屋がすべて真っ暗というのは結構怖いよな。
音水じゃないが、もしかして幽霊が出るんじゃないかという怖さがある。
そしてもう一つの懸念材料は……、
「音水……、くっつきすぎじゃないか」
「だってぇ~」
ヤバいよな、この状況。だって音水の胸に俺の腕が埋まってるんだぞ。
密着度が限界超越しているじゃないか。
わが理性よ。今こそダイヤモンドのように強靭なものとなれ!
駐車場に降りると、やはりシャッターが揺れている。
警戒しながら勝手口から外にでて、倉庫の入口に近づくと……。
「ワン!」
「……犬?」
現れたのは大型犬。
どうやらシャッターを揺らしていたのは犬だったようだ。
俺達の姿を見た犬は驚いて走っていく。
もしかして弁当の匂いにつられてきたのか?
「なんだよ。ビビッて損したぜ」
「そうですね」
幽霊の正体見たりってこれだよな。
まぁ、トラブルなんてそうそう起こるものではない。
さて、仕事も一段落したし、今日は仮眠室で少し寝るとするか。
いちおうコンビニに行った時に歯ブラシセットは買ってきたが、風呂は諦めるしかない。
だが、それは音水には酷だろう。
女性は化粧もしているし、そのままというのはよくない。
「音水。一度家に帰った方が良くないか? 会社から近いだろ」
「そんな! ここまで来たんですから、朝まで一緒にいたいです」
「だが、風呂とかも入らないと気持ち悪いだろ」
「それは……そうですけど……」
忠誠心が高い音水のことだ。
ここで帰ると裏切ったような気持ちになってしまうんだろう。
とはいえ、仮眠室は三人分あるがやはり女性が寝るには適切な場所とは言えない。
すると音水は意外な提案を持ち出してきた。
「じゃあ、笹宮さん。うちまで送ってくれますか?」
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次回、音水の部屋で……ヤバいですね!
投稿は朝7時15分。
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