音水、動きます!
月曜日。
会社に出勤した俺はさっそく音水と打ち合わせをしていた。
「ほぉわぁ! すごいですね、この資料!」
「ああ、たまたま協力者を得ることができてな。デパ地下とショッピングモールに関するマーケティング情報をもらったんだ」
四季岡ファミリーから送られてきたマーケティング情報は予想を超える内容だった。
流行の推移から、ゆかりさんチームが提案する企画予測まで。しかも勝率を上げるためのアドバイスまで書いてある。
さすがコンサル勤務の秋作さん。
やることが徹底している。
「ここからテコ入れ企画をまとめるわけだが、明日までに仕上げないと間に合わない。今日が正念場だな」
デパ地下の春フェアの準備はほとんど終わっているがこのままではゆかりさん達に勝てない。
テコ入れ企画を通すなら明日がラストチャンスだ。
もちろん普段ならこんなギリギリの仕事はしない。
だが、今回は結衣花がいる。
俺はあいつに仕事で勝つ喜びを与えてやりたい。
心の中で決意を再確認する俺に、音水が訊ねてくる。
「笹宮さん、残業するつもりなんですか?」
「ああ。紺野課長の許可も貰っているし、今日は泊まり込みでやるつもりだ」
すると音水はバンっと立ち上がって、握りこぶしを作った。
「じゃあ、私も泊まり込みします!」
「ダメだ」
「どうしてですか?」
「泊まり込みは音水が思っている以上に堪えるぞ。まだ入社一年のお前にそこまでさせるわけにはいかない」
イベント会社は仕事上どうしても泊まり込みをする機会が多い。
だが当日はまだなんとかなっても、翌日は体がガタガタで仕事に悪影響が出る。
とても許可を出すわけにはいかない。
そして音水は言う。
「あー、さては笹宮さん。私と一緒だと理性を保つ自信がないからそんなことを言ってるんですね。かっわいいなぁ~」
「ちゃうわ」
「むー。じゃあ、いいじゃないですか」
「ダメだ。だいたいうちの会社の仮眠室は臭いぞ」
「つまり笹宮さんと添い寝ってことですね。オッケーです」
「なぜ添い寝する話になる……」
むぅ、いつもの音水節が始まった。
微妙にこちらの言葉を無視して自分の都合のいいように話を持っていく悪癖はなんとかならんのか。
「あのなぁ。もし会社で添い寝なんかしたら、俺のクビが飛ぶとわかってて言ってるのか?」
「すっごくスリリング。恋のつり橋効果が期待できますね」
「お前のポジティブに俺を巻き込むな」
とはいえ、本音は彼女の言う通り、理性を保てる自信がないからだ。
実際音水の可愛さは犯罪級だ。
顔良し、スタイル良し、大きい胸もよし。
そのうえコロコロとした愛くるしい性格。
俺だって何度か傾きそうになったことがあるが、先輩としての理性をフル稼働させて堪えてきた。
なのに音水は最近さらに可愛くなったように見える。
もうこれ、チートだろ。
「でもできるかもしれないので、紺野課長に確認してみます」
「まぁ、ダメだと思うけどな」
そういって音水は俺の上司にあたる紺野課長の元へ行った。
紺野さんは竹を割ったような性格だが、仕事はきっちりする人だ。
きっと怒られるぞぉ~。
「はぁ!? 笹宮と一緒に泊まり込みで残業したいだぁ!?」
「はい! 例え間違いがあっても、いろいろ頑張りたいと思います!!」
あいつ、上司に何を言ってんだ……。
間違いを頑張るってどういう意味なんだ……。
こんなことを言ったら怒られるに違いない。
そう思ったが、紺野さんの反応は俺の予想と真逆だった。
「よし! その意気だ! やるならトコトンやれ! 責任はオレが持つ! 将来のことは笹宮に見てもらえ!」
「ありがとうございます!」
なぜそうなる!?
トコトンって仕事だよな!?
将来のことって仕事のことだよな!?
そして音水は最高の笑顔で俺のところへ戻ってきた。
「えへへ。泊まり込みの残業、許可でちゃいました」
「でちゃいましたか……」
まぁ、紺野さんが許可を出したのなら俺は受け入れるしかない。
「いちおう念を押しておくが、遊びじゃないんだぞ」
「わかってますよ。だから私も用意してきました」
すると音水は資料の束をカバンから出した。
「これは……、企画のアイデアリストか」
「はい。思いつく限りの内容を用意しておきました」
「ほぉ、すごいじゃないか。やるな、音水」
「えへへ。頭なでなですると、頑張るパワーがさらにアップしますよー」
そう言って、音水は大きな胸を突き出してきた。
んんん? 頭なでなでで、なんで胸を?
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次回、音水と残業。オフィスラブっちゃうの? そうなの?
投稿は朝7時15分。
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