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【書籍化決定】通勤電車で会う女子高生に、なぜかなつかれて困っている  作者: 甘粕冬夏
第六章 お隣さん以上恋人未満のバレンタイン
225/330

2月3日(水曜日)結衣花と帰り道

 夕方、商業施設での打ち合わせを終えた俺は外に出た。

 辺りはうっすらと暗くなり始めている。


 今日は普段に比べて人が少ない。

 そのせいか、街路樹に飾られたイルミネーションがはかなげに見えた。


 疲れを抜くように「ふーっ」と息を吐いた時、すぐ近くにいた女子高生が俺の腕を掴んだ。


「お疲れ様、お兄さん」

「ああ、お疲れ。俺のことを待っていたのか」

「うん。一緒に帰ろうと思って」

「そうか。ちょうどよかった。今日は直帰なんだ」


 打ち合わせが終わってから十数分は経っている。

 長時間というほどではないが、こうして待っていてくれたのは素直に嬉しいものだ。


「バレンタインイベントって、あんなにいろんなグッズが発売されるんだね」

「結構好評なんだぜ。特に中学生から高校生の女子から反響があるんだ」

「そっか」


 バレンタインイベントに合わせたオリジナルグッズだが、クリスマスに発売したマグカップが好評で、続けてさまざまな新商品が用意された。


 妹の愛菜はスマホケースを欲しがっている。

 今回ラインナップされた中で一番人気になっているものだ。


 横を見ると結衣花はいつものフラットテンションのまま、すこしだけ唇が緩んでいた。


「イベントの打ち合わせ、今日が最後だね。大変だったけど楽しかった」

「そうか。そう言ってもらえると嬉しいよ」


 実際、学校に行きながら仕事をするというのは大変だろう。

 帰ってからも宿題や絵の練習をするかもしれない。

 とても俺にはまねできないな。


 だが、こうして喜んでくれるところを見れるのは嬉しかった。


「これで実績もできたし、また結衣花に仕事を頼むことがあるかもしれない。その時は頼むぜ」

「またお兄さんと一緒に仕事ができるの?」

「結衣花がよければだけどな」


 すると結衣花は俺の顔を見て、瞳を輝かせた。


「私にできるなら、またやってみたい」

「そうか。頼りにしてるよ」


 今回はいきなり大きな仕事になってしまったが、調整さえすればもっと負担を軽くすることができる。

 もし機会があれば結衣花に頼んでみよう。


「ねぇ……。楓坂さんの方は大丈夫?」

「ああ。念のためイベント当日の防犯対策も強化している。安心してくれ」

「そっか。よかった」


 イベント当日と言えば、夏目君のことも言っておいた方がいいか。

 二人は知り合いだし、現場で突然となると驚くだろう。


「そういえば、夏目君がバイトとして来週の土日に来ることになったぞ」

「そうなの? ……たしかその日、夏目君の所属するCG部は作品の発表会を開くって言ってたような気がするけど」

「夏目君は午後の部だからな。たぶん午前中は発表会の方をするんだろう」

「かなりきつくない? なんでそこまで頑張るのかな?」

「さあな」


 夏目君が頑張るのは結衣花へアピールするためなんだろうけど、それを言うのは止めた。


 なぜか? うーん、なんでだろう。

 嫉妬とかではないが、漠然と面白くなかった。


 そんな気持ちを抱いた俺に気づいたのか、結衣花は訊ねてくる。


「もしかして、私と夏目君の関係を心配してる?」

「……多少はな」

「ふふっ。素直はいいね」


 ったく、嬉しそうにしやがって。

 俺が困るところがそんなに楽しいのか?


「それより今年から高三だろ? 進路とか考えてるのか?」

「うーん。正直悩んでる。美大に行ってデザイナーを目指したいけど、本当に通用するかどうか自信がなくて……」


 進路って人生で大きな選択の場面だから、そう考えてしまうのも無理はない。

 俺も正直悩んだが、結局なにも決めれず雪代と一緒の大学に行くことにしたんだよな。


 だが、結衣花の心配は他にもあったようだ。


「あと一年もしたら、お兄さんと朝会う事はなくなるんだよね」

「……そうだな。寂しいか?」

「お兄さんがかわいそうだなぁっと思って」

「俺の心配かよ」


 まぁ、正直に言って俺はさびしい。

 もちろん女子高生に恋心を持つようなことはないが、それでも俺はこの時間が気に入っている。


 一年前は一人が当たり前だったが、もしまた一人になったらどうなるんだろうか。


「バレンタインが終わったら、なにかしない?」

「なにかって?」

「まだ全然決めてないけど、受験が忙しくなる前になにかしたいなぁって」

「そうだな。でも俺はそういうことを考えるのは苦手だから結衣花に任せるよ」

「私の言いなりになってくれるってこと?」

「奴隷になるとは言ってないんだが?」


 バレンタインの後か……。

 少し考えておこう。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても励みになっています。


次回、いよいよバレンタインイベント開始! 楓坂と音水が激突!!∑(゜ω゜ノ)ノ


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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― 新着の感想 ―
[一言] それでも、一年半以上一緒にいられるって、この時期だとすごく長い時間じゃないかな、と思うのだけれど。まあ、それじゃあまだ足りないんでしょうね。 となると、進路の選択にも絡んできそうだけれど。 …
[一言] いよいよバレンタインイベントかぁ 夏目くんが巨乳さんに囲まれて暴走しなきゃいけど(笑)
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