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【書籍化決定】通勤電車で会う女子高生に、なぜかなつかれて困っている  作者: 甘粕冬夏
第六章 お隣さん以上恋人未満のバレンタイン
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1月26日(火曜日)古本屋

 カフェを出た後、ゆかりさんは俺達を古本屋に連れてきた。

 そこは街の中にあるのに不自然なほど古びた店で、入口には俺が生まれる前に発売された雑誌が山積みされていた。


 俺達が店に入ると、八十をゆうに超えるヨボヨボのお爺さんが出てきた。


「こりゃあ、どうも……。ゆかりちゃん、今日もキレイだのぉ~。蒼井君は元気かいのぉ~」

「ええ。相も変わらずよ。オジジさんも元気そうね」


 蒼井君? 話の流れからして結衣花の親父さんか?

 そういえば俺、親父さんに関しては全然知らないんだよな。

 一度結衣花の家に行ったことがあるが、親父さんの姿は見た事はないし。


 キョトンとしている俺と結衣花に、ゆかりさんは古本屋の店主のことを紹介してくれる。


「オジジさんは古本屋を営んでいるけど、趣味が情報収集なの。ネットでも探せないような情報も保管しているわ」


 オジジさんと呼ばれた店主は俺達にぺこりと頭を下げた。

 ゆかりさんが頼りにするほどなのだから、相当の情報通なのだろう。


 しかし……と、俺はある疑問が浮かんだ。

 隣にいる結衣花に小声で話し掛ける。


「なあ、結衣花……。なんでゆかりさんはこんな人と知り合いなんだ」

「専業主婦だからじゃない?」

「いや、違うだろ」


 俺の知っている専業主婦はこんなことを知らない。

 ゆかりさんの尋常じゃない人脈と、謎の多い父親……。

 結衣花の両親って、謎に包まれているよな。


 オジジさんはニコニコ笑いながら、高齢とは思えないほどのブラインドタッチでパソコンを操作する。


 ……って! あのパソコン、自作のカスタムじゃねぇか!! なんなんだ、この爺さん!!


「ゆかりちゃんが電話で言っていた記事はたぶんコレじゃのぉ」


 オジジさんが表示した画面には、聞いたことがない地方の新聞記事が映し出されていた。


「都市伝説の模倣犯が……アオリ運転で逮捕?」


 俺のつぶやきに、ゆかりさんが答える。


「地方紙の片隅でしか紹介されてないからほとんど知られてないけど、都市伝説になぞらえて事件を起こすグループがいたそうなの」


 ゆかりさんはオジジさんからパソコンを借りて記事の一文をアップにし、関連する画像を表示した。


「楓坂さんが以前遭遇した事故も、この模倣犯が仕組んだ可能性があったのよ」

「じゃあ、事故じゃなくて事件?」

「ええ。でも証拠不十分で不起訴。彼らは別の事件で逮捕されたそうね」


 ゆかりさんは俺を見て話を進めた。


「自分の人生を変えるほどの事故。模倣犯の存在。そして親しい人間も巻き込まれている。これだけ重なればまた何か起きるかもしれないって思うのは当然じゃないかしら」


 そうか……。楓坂にとって都市伝説は都市伝説じゃないってわけか。


 まだ全ての情報が揃ったわけではないが、楓坂が『週末の災い』という都市伝説を気にする理由がわかった。


 古本屋を出た後、ゆかりさんはママチャリにまたがって結衣花と話をしていた。


「私は先に帰るわ。今日の夜はお父さんの好きな唐揚げを作るけど、それでいい?」

「うん。でもお父さん、唐揚げだと食べ過ぎない?」

「私が管理しているから大丈夫よ。……笹宮君、結衣花をお願いね」


 結衣花を俺に任せて、ゆかりさんは去って行った。

 ママチャリってあんなにカッコよかったっけ……。


「先に帰るってママチャリなんだけど……」

「お母さんなら電車よりも早く自宅に着くと思うよ」

「なんでやねん」


 毎回会うたびに驚かされるが、ゆかりさんってとんでもない人だな。

 結衣花の親父さんも、きっととんでもない人なんだろう。


 しかし、週末の災いについて不自然なことがある。

 そのことに考えを巡らそうとした時、結衣花が訊ねてきた。


「……どうしたの?」

「いや、ちょっと気になることがあって……」

「なに?」

「少し、言いづらいことなんだが……」


 すると結衣花は優しい眼差しで俺を見つめて、静かに言った。


「裏山でエッチな本を拾った話? 私、そこそこ理解力はある方だから気にしないよ」

「俺のキャラ設定を間違えて把握してないか?」


 こんのぉ……。やはり結衣花か。

 だいたい今のご時世で、そんな事をする奴がいるのかよ……。


「話を戻すが、今の話だと楓坂は自分の事を好きになった人間も週末の災いに巻き込まれると思ってるんだろ? だったらなんで俺に告白したのかと思ってな……」


 楓坂の気持ちにウソはない。

 それは一緒にいる俺がよく知っている。


 だが楓坂が週末の災いという都市伝説を信じているなら、俺に告白をするという行動に矛盾が生まれるのだ。


 だが、結衣花は平然と答える。


「それ、すごく簡単なことだと思うけど」

「わかるのか?」

「まぁ、……うん。えっとさ、好きすぎると自分の気持ちが抑えられなくなって支離滅裂な行動することってあるでしょ。それじゃない?」

「……なるほど」

「お兄さん、わかってないでしょ」

「いや、わかってるけどさ……」


 結衣花が言いたいことはもちろん理解できている。

 一度だけだが、楓坂自身もそんなことを言っていた。


 でもそれってつまり、楓坂は支離滅裂になるほどメチャクチャ俺のことが好きってことだろ?

 ぶっちゃけ、照れくさい……。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても励みになっています。


次回、自宅に帰った笹宮を待っていたのは?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん。模倣犯だけなら、その犯人を恐れればよいし、伝説自体を恐れる必要はなさそう。だから、まだ何かあるのかな。 しかしまあ、楓坂さんの気持ちの一端が、これで漏れてしまったと。
[一言] 裏山でエッチな本を…w まあ、河原で拾ったことはあるが(^o^)
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