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【書籍化決定】通勤電車で会う女子高生に、なぜかなつかれて困っている  作者: 甘粕冬夏
第六章 お隣さん以上恋人未満のバレンタイン
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1月14日(木曜日)翌朝の楓坂

 今俺は楓坂の部屋にいた。

 ベッドで横になる楓坂の額に手を当てて、彼女の体調をチェックする。

 もちろん彼女の看病をするためだ。


「大丈夫か?」

「……はい。まだ頭がボーっとしますが……」


 昨日、テレビを見ていたら急に楓坂がキスをしてきた。

 普通ならこのままロマンチックなムードに突入するのだろう。ぶっちゃけ、俺も一瞬はそう考えた。


 だが彼女はこういったやり取りの経験がなかったらしく、その場でのぼせてしまったのだ。


 ふら~と人間が物体のように倒れそうになる瞬間を見た時は、生きた心地がしなかった。


 その後は楓坂を部屋に送り、ベッドに寝かせてやった。

 さすがに寝る時は自分の部屋に戻ったが、朝の様子を見るために今は楓坂の部屋に戻ってきている。


 一連の失態が恥ずかしいらしく、楓坂は布団で顔を半分隠してこちらを見ていた。


「笹宮さん……。あの……、ごめんなさい」

「あー、……アレだ。まぁ……、気にするな。誰にでもこういうことは……」

「ありますか?」

「……ないと思うが、稀にあるような気がする」

「気を使いすぎる慰め方ってどうかと思うんですけど……」


 キスした後、のぼせて倒れるなんて前代未聞だからな。

 仕事ではトラブルに強いと言われている俺でも、どう対処していいのかわからん。……わかる奴なんていないだろ。


「しかし、なんで急に……その……キスをしたんだ?」

「……私も何も考えずに気づいたらという感じでしたので……、自分で驚いてます」

「楓坂らしいな」


 本当に何の脈絡もなく、突然楓坂はキスをしてきた。

 普通ならありえないと考えるところだろうが、きっと楓坂はウソをついていない。

 照れ隠しとかそういうものではなく、無意識にしてしまったことに楓坂自身が驚いているようだ。


「今日は休みですし、家でゆっくりしてます」

「早めに切り上げて帰ってくるつもりだが、帰りに何か買ってこようか?」

「あら、優しい」

「寝込んでるやつを心配しないほど俺は冷たくねぇよ。で、なにか必要なものはあるか?」


 すると楓坂は俺の見て、真面目に答えた。


「じゃあ……、キスしたい」

「なんで寝込んだのか忘れたのか……」


 楓坂ってイマイチ自分のキャラを掴めてないんだよな。

 本当はとんでもなく純情なのに、本人はそんなことがないように振る舞う。

 たぶん初めて会った人なら、人生経験豊富なお姉さんと勘違いするだろう。


 と言いながら、実は俺もかなり心臓がバクバクしている。


 いくら二十六歳と言っても、女性とキスをして何も感じないほど俺は経験豊かではない。


 こうやっていつも通りの自分を演じるために、メチャクチャ無理をしていた。

 我ながら情けないと思う……。


 あ……、なんか楓坂がこっちを見てる。

 ヤバい、ヤバい。俺が平常心を演じているのがバレそうだ……。


「と……とりあえず、朝飯を用意したから一緒に食おう」

「はい」


 食卓に移動した俺達は食事をすることにした。

 今日のメニューは目玉焼きに厚切りベーコン、そしてすまし汁だ。


「笹宮さんの朝ごはんって久しぶりですね」

「そうだな。最近は楓坂が飯を作ってくれる時が多いもんな」


 しかし俺が作るのは雑な男料理だ。

 楓坂ならもっと上品なメニューが好みなのかもしれない。


「口に合うか? 正直、俺はあんまり料理の腕に自信がないんだが……」

「なに言ってるんですか。こっちに来てから、私は笹宮さんの味に慣れてるんですよ。高級料理よりこっちの方がいいですね」

「そ……そうか……」


 楓坂に料理を教えたのは俺だが、今では完全に立場は逆転している。

 エビグラタンを作ってきた時は、負けたと思ったものだ。


「笹宮さん……、さっき必要なものはないかって言いましたよね?」

「ああ。なにかあるのか?」

「物じゃないんですけど……お願いが……。今日は私の部屋に帰って来てくれませんか? 『おかえりなさい』って言ってみたいですし」


 恥ずかしさをごまかすように楓坂はお茶を飲む。

 そしてこちらを伺うようにチラリと見た。


「そんなことでいいのか?」

「……はい。ダメ……ですか?」

「いや、大丈夫だ。じゃあ、自分の部屋に戻る前にこっち来るってことでいいんだな?」

「はい」


 玄関前で一緒になることは何度もあるが、仕事帰りを出迎えてくれるということはなかった。

 楓坂に限らず、今までなかったかもしれない。


 そういう家庭の温かさというのは、俺も憧れている。

 ちょっと楽しみだ。


 ……が、急に楓坂は普段の強気の表情でメガネをクイッと上げた。


「もっとも……本当は過激なエロ本でもよかったんですけど、笹宮さんは買う勇気がないと思いまして。うふふ」

「欲しいなら買ってくるが?」

「……あ、いえ。……すみません。ちょっと調子に乗ってました」

「おまえさ……。エロが苦手なのに、なんでそっち方面で背伸びしようとするんだ……」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても励みになっています。


次回、楓坂のおかえりなさい。


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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― 新着の感想 ―
[一言] それで倒れてしまうとは、純情に過ぎる… しかも、自分からしていたのに… まあ、病気ではないようなので(あるいは不治の病?)、週末のお出かけには差しさわりないのかな。
[一言] 楓坂ちゃん… 恋愛ポンコツのくせに頑張るから…(´;ω;`)
[一言] 書籍化おめでとうございます~!!!応援しております( ・ω・)ノ
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