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1月10日(日曜日)イベント現場の帰り道

 日曜日。今日のイベント現場はゲームショップだ。

 新作ゲームをアピールするため、俺はクマの着ぐるみに入って奮闘していた。


 そして午後三時に仕事が終わる。


「ふぅ……。やっと終わったぜ」


 イベント会場によって終わる時間はさまざまだ。

 スマホの場合は夜の七時頃まで続けることが多いが、今日は比較的早い。こういう現場は大歓迎だ。


 控室に行って着替えをすると、香穂理さんからメールが届いていることに気づく。


『蒼井香穂理です。明日の現場ですがスタッフが急遽お休みになったので、私が入ります。よろしくお願いします』


 普通の会社なら受付がイベント現場に来ることはないのだろうが、俺達の会社は弱小だ。数合わせのため受付の人にも参加してもらう必要がある。


 実際、香穂理さんって優秀なんだよな。

 普段は無口だが現場に入ると別人のように話をすることもできるし、スタッフだけでなく俺達社員にも気配りができる。


 そう……、紺野さんだけに態度が酷いのだ……。

 なんというか、いろいろ損をする性格っぽい。


 着替えを済ませて店舗を出た時、声を掛けてくる人物がいた。


「おつかれさま。お兄さん」


 それはいつも通勤電車であう女子高生の結衣花だった。

 手に持っている紙袋にはゲームショップのロゴマークが入っている。


「よぉ、結衣花。来てくれたのか」

「うん。実は少し離れたところから、お兄さんのクマっぷりを見てたよ」

「照れるじゃないか」

「冗談っぽく言いながら、本当に照れてる辺りがお兄さんだよね」


 そういえばここは結衣花の家の近くだ。

 最近はどこに行くのか伝えることが多くなっているので、わざわざ会いに来てくれたのだろう。

 ふっ……。可愛いところがあるじゃないか。


「今日はこのゲームの発売日だったから買いに来たの。お兄さんのことは忘れてたけど、いちおう声を掛けておこうと思って」

「俺っていちおうだったんだ……」

「ウソ。本当はお兄さんに会いに来たんだよ」

「ま……、まぁ。いちおう感謝だけはしておいてやる……。別に嬉しいとかじゃないんだぜ」

「面白いなぁ」


 駅に向かって歩き出すと、結衣花は俺の隣に立って服の袖をつまんだ。

 手を繋いでいるわけではないが、なんとなくそんな気分になる。

 こういうのって、なんで安心してしまうんだろうな。


「お兄さんはこの後どうするの? 会社?」

「いや、直帰だ。なんなら結衣花に付き合うぞ」

「うーん。お兄さんも仕事で疲れてるでしょ。普通に一緒に帰るだけでいいよ」

「そうか」


 まだ日も明るいしカフェくらいなら付き合うつもりだったが、結衣花がそういうならそうしよう。


 生意気な女子高生ではあるが、なにかと俺のことを気遣ってくれるんだよな。口は……ちょっと悪いけど。


「それで、お姉ちゃんと紺野お兄ちゃんの恋人化作戦はどんな感じ?」

「あー。全然ダメだ」

「だと思った」

「両想いなのにくっつけるのが難しいってどうなんだよって感じだよな」

「あの二人は特にね……」


 これに関してはさすがの結衣花も困っているらしく、苦笑いをしている。


「お姉ちゃんは基本的に一人主義だから、家族ともあんまり一緒に居ないんだよね」

「一人主義?」

「うん。誰かと一緒だと失敗ばかりしちゃうの。言いたい事も言えなくなるし」

「それが毒舌に繋がるわけか」

「本人はジョークのつもりなんだけどね。紺野お兄ちゃんの時は特にそれがキツくなるから……」

「……はは、困った人だ」


 思い返してみれば、香穂理さんは元々仕事はできる人だ。お客様への対応だってきっちりやっている。


 たぶん状況さえ合えば、紺野さんとだってうまく行くと思うのだが……。


 状況か……。もしかしたら……。


 ふとあることが頭に浮かんだ。

 明日は現場に香穂理さんがくる。もしかすると、この状況を使えるかもしれない。


 ふわりと香りがした。

 優しい、心の奥底をくすぐる香りだ。


 気が付くと、結衣花が腕を組んでいた。


「どうした?」

「うーん。なんとなく」


 そう答える結衣花は俯き気味だった。

 声は相変わらずのフラットテンションだが、どこか熱っぽい気配がする。


「寒いのか?」

「別にそんなんじゃないけどさ。なんとなく……さ」

「あー。……まぁ、わからんではない」


 誰かの恋を応援する側って、結構ムードが生まれるんだよな。

 よく恋の相談に乗ってるうちに相手のことが好きになるという話を聞くが、似たような効果があるのかもしれん。


 今の結衣花も同じような気持ちなのだろうか……。

 俺達って付き合えないこと前提だから、こういう時はどう捉えていいのかわからない。


「ねぇ、お兄さん。駅まで腕を組んでいてもいい?」

「ああ、構わんぞ」

「警察に職務質問されたら、ちゃんとフォローしてあげるね」

「自分からムードをぶち壊すところ、嫌いじゃないぜ」

「でしょ」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても励みになっています。


次回、香穂理さんと紺野さんはくっつくのか!?


投稿は朝7時15分。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「ウソ。本当はお兄さんに会いに来たんだよ」 なんてキュンってくるセリフなんだ… まあ、フラットテンションで言ってるんだとは思うけどw そして、その後の腕…(#^.^#) [気になる点] 「…
[一言] 業務対応ならできるけれど、近しい家族とかだとうまく行かないのかあ。それは、まずその性格をなんとかしないと、たとえ一度くっついても、先々やっていけなくなるかもしれないなあ。デレる所がなくて、ツ…
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