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11月26日(木曜日)女子高生と後輩の自己紹介

「こんにちは。お兄さん」

「……よ……よぉ。結衣花」


 今、俺は最大級の窮地に立たされている。


 音水から甘く迫られていた俺は、たまらず距離を取った。

 だがその直後に現れたのは、いつも会う女子高生の結衣花だった。


「帰りの電車で会うなんて初めてだね」

「お……おう。そうだな……」


 今でこそ収まっているが、結衣花は俺と音水をくっつけようとしていた恋愛アドバイザー。


 もし音水がいつも話している後輩だとバレれば、イジリ倒してくるはず。


 様子から察するに、さっきのやり取りは見られていないようだが、後輩の正体が音水だということは隠し通さねば……。


 きっと質問攻めが来るだろうと構えていた時、先に訊ねてきたのは音水の方だった。


「えっと……、笹宮さん。その人は……」


 続けて結衣花も訊ねてくる。


「あれ? もしかして、会社の人?」


 ヤバいぞ……。

 結衣花は勘が鋭いから、普通に会話を進めると音水が後輩だということがバレてしまう。


 ここは俺の洗練されたトークで切り抜けるしかない。


「あー、こほん。俺の方から紹介しよう」

「わざとらしい咳払いは、ボケる予兆サインなの?」

「人の覚悟をボケる予兆とは何事だ」

「はいはい」


 気を取り直した俺は、まずは音水のことを紹介する。


「こちらの女性は同じ会社で働いている音水遙さんだ」


 よぉし!

 後輩という単語をかわした自然な紹介。

 完璧ではないか!


 さすがにこの内容で、音水の正体を見破ることはできまい。


 ……と、ここで結衣花は意外な反応を見せる。


「あ……、はい。よろしくお願いします」


 気弱そうにそうつぶやいた結衣花は丁寧に頭を下げたあと、俺の隣に座って隠れるように腕をつかんだ。


 そんな結衣花に俺は小声で訊ねる。


「……どうした?」

「ううん。なんでもないけど、初めての人だから」

「俺の時は初めてでもズカズカ来たじゃないか」

「それは……お兄さんだし」

「なんだよそれ」


 しかも俺にはしょっぱなからタメ口だったのに、音水には敬語ってどうなわけ。


 前向きに考えれば親しみを持ってくれているという事なんだが、この違いはなんなんだろうか?


 すると、今度は音水が話しかけてきた。


「笹宮さん、なに二人だけで話しているんですか?」

「お……おう。すまん」


 気持ちを整えて、今度は結衣花のことを紹介する。

 女子高生との仲を疑われると厄介だし、ここは形式的な紹介が望ましいだろう。


「こほん。えーっと……。こちらの女子高生は、この前ハロウィンコンテストで特別賞を受賞した蒼井結衣花さんだ」

「……よろしくお願いします」


 紹介を受けた結衣花は、少し怯えた様子で挨拶をした。


 どんな相手にもフラットテンションをつき通すと思っていたけど、相手によっては人見知りするタイプだったのか。


 音水の反応はというと、なぜか不思議そうな顔をしている。 


「……蒼井……さんですか?」

「……? どうした?」

「いえ、聞いたことのある名前だったのでつい……。あはは」

「もしかすると知っているかもしれないが、紺野さんの親戚らしい」

「あ、なるほど。納得です」


 んんん?

 なんなんだ、この反応は?


 とはいえ俺も結衣花の苗字を聞いた時、どこかで聞いたことがあるような既視感があったんだよな。


「ねぇ、お兄さん」


 わずかに浮かんだ疑問を無理やり納得しようとしていると、結衣花が小声で訊ねてきた。


「もしかして、この人が後輩さん?」

「……いや。ち……ちがうぞ」

「ふーん」


 く……、さては怪しんでいるな。

 さすが結衣花、勘が鋭い。


 だが現状ではまだ決定打はないはずだ。


 なんとか気づかれないようにしようと、小声で結衣花と話していた次の瞬間だった。


 再び音水が近づいてきた。

 肩と肩が触れ合う距離で、彼女はニコニコしながら言う。


「笹宮さんと結衣花ちゃんって仲が良さそうですね」

「ま……まぁ、……いろいろあってな」

「女子高生といろいろあったんですか?」

「言い方に気を付けてくれ」


 さっきからなぜか、音水の笑顔が不自然に三割増だ。

 なんだ……この圧力は……。


「んっふふ~♪ 大丈夫ですよ。私は笹宮さんのこと、全肯定で信じていますから」

「ありがたい」

「それに、私ともいろいろありましたしね」

「……どうして誤解を招こうとする」


 すると結衣花が小さく「むっ」と声を上げた。


 あぁ……、絶対に誤解された……。

 この後になにか言われる……。


 電車が次の駅に到着すると、音水はカバンを持って立ち上がった。


「あ、到着しました。それでは私はここで。失礼します」


 そういって、音水は電車を降りた。

 もうダメかと思ったが、ギリギリ耐え抜いたようだ。


 その直後、音水からLINEが届く。


 その内容は……、


『笹宮さんへ。私、すごぉ~くヤキモチを焼いています。だから次会った時は、いっぱい癒してくださいね』


 ……うーん。


 ギリギリアウトだったか。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても励みになっています。


次回、音水のことを訊ねてくる結衣花に笹宮がたじたじ?


投稿は毎朝7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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― 新着の感想 ―
[一言] いや、全然アウトですわw 笹宮さんは、結衣花ちゃんに隠し事はできません。 観念して、全部吐くことを推奨します。
[一言] 結衣花さんは、人見知りかあ。今まで他の人と絡む機会あまりなかったものねえ。元カノの時はどうだったかなあ。 修羅場自体は甘めで済んだけど、事後処理が大変そう。
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