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11月21日(土曜日)お泊り会の夜は楽しいよね

「うまい!」


 自宅のリビングで食事をしていた俺は、デミグラス煮込みハンバーグの美味さに舌鼓を打った。


「おぉ、美味いぞ。まるで口の中で旨みが溶け出し、ハーモニーを奏でているようだ」


 社内ベンチャーの名称を決める話し合いをしていたとき、結衣花が夕食を作ってくれた。


 左側に座っている楓坂も感激で涙を流しそうな勢いだ。

 もっとも彼女の場合は、結衣花の手料理ならなんでも感激しそうだが。


 結衣花はというと、俺のクールな評論トークを聞いてあきれ気味の様子だった。


「あのさ……。普通に作ったハンバーグでハーモニーとか言われたらドン引きなんだけど……」

「すまんな。俺達が仕掛けるイベント企画がグルメ対決だから、ついこんなノリになってしまった」

「お笑い芸人みたいになってたけどね」


 だが、自分で言っておいてなんだが、確かにハーモニーとか言うのって不自然だ。


 グルメ対決でよく派手なリアクションをしているが、動画サイトではウケないかもしれない。

 演出もテコ入れが必要だな。


 その時、俺達の話を聞いていた楓坂が社内ベンチャーの事について話を切り出してきた。


「結局、社内ベンチャーの名称は『チームPRO』になってしまいましたね。普通すぎないかしら?」

「プロモーションとプロフェッショナルの頭三文字を取っただけだからな。でもそれっぽくていいんじゃないか?」

「まぁ、無難と言えば無難ですよね」


 何度も話し合いを繰り返した結果、かつて特別チームと呼んでいたものはチームPROという名称になった。


 当面の目標は、商業施設が仕掛けた『バレンタインオーダーイベント』の公開コンペに勝つこと。

 

 体勢も整い、ここから着々をやるべきことをやるだけだ。


 食事を終えて食器を片付けた俺は、リビングでくつろいでいる女子二人に話しかけた。


「思っていたよりも早く終わったけど、二人ともどうする? 楓坂の部屋で寝るのか?」


 すると結衣花はキョトンとした表情でこっちを見た。


「え……。何言ってるの?」

「まだやることあったか?」

「お泊りといえば、夜のコンビニに買い出しをするのが楽しいんじゃない」


 んん? お泊りってそんなイベントが必須だったか?


 女子だけのルールか?

 いや、違うだろ。


 夜の買い出しとお泊りに、何一つ共通点はない。


「……それって結衣花だけだろ」

「そんなことないよ。これが楽しいんだって」


 うーん。どうなんだろうか……。

 念のため、すぐ横にいる大学生にも聞いてみるか。


「……楓坂もか?」

「もちろんです。うふふ、なにを買おうかしら」


 俺には理解できないが、お泊り中の夜の買い出しはお楽しみイベントとして設定されているようだ。


 とはいえ、女子二人で夜道を歩かせるわけにはいかない。


「わかった。じゃあ、買い出しに付き合うよ」


   ◆


 自宅からコンビニまでの距離はそれほど遠くない。

 実を言うと俺も夜のコンビニにはよくくる。


 なんだかんだ言って、便利だからついつい使ってしまうのだ。


 しかし結衣花たちにとっては楽しいらしく、俺の横で嬉しそうに笑っていた。


「ふふふ」

「そんなに楽しいかね……」

「だって夜のコンビニって普段は味わえない雰囲気があるでしょ。それって楽しくない?」

「……まぁ、そう言われると、わからなくはないが……」

「でしょ」


 コンビニに入った俺は缶コーヒーだけを買って外で待つことにした。

 結衣花と楓坂は店内で楽しそうにスイーツやドリンクを買っている。


 ……まさか、あのスイーツ。

 今から食うつもりなのか?


 いや、もしかすると朝のためかもしれない。


 買い物を終えた結衣花が出てきて、品物が入ったビニール袋を俺に差し出してきた。


「はい、お兄さん」

「お……、おう」


 はいはい、わかってるよ。

 荷物持ちってわけね。


 楓坂はまだ店内にいるようだ。

 コンビニに設置されている端末をいじっているので、チケットか何かを買っているのだろう。


「お兄さん、こんな夜なのにコーヒーを飲むの?」

「ああ。名前も決まって一段落したからな」


 すると結衣花は俺の隣に立って、静かに語り出す。


「でも楓坂さんを助けるために、おもいきったことをしたよね。お兄さんって本当にすごいよ」


 ちょうどいい頃合いだ。

 ずっと言おうと思っていたことをここで伝えよう。


「なあ、結衣花。商業施設のプロジェクトで一緒に働いて、俺の後輩になりたいって言ってただろ?」

「うん。それがどうしたの?」


 訊ねてくる結衣花に俺は答える。


「今回のコンペで勝つことができたら社内ベンチャーの話も承認が得らえると思う。そしてプロジェクトを無事に終わらせることができたら……、結衣花もチームPROに入らないか?」


 そう……。

 社内ベンチャーの提案は楓坂だけの為じゃない。


 俺は結衣花のためにも、この提案を実現したいんだ。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても励みになっています。


次回、笹宮の考えとは? そして結衣花の反応は!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ベンチャー、正式に立ちあがったら笹宮さんの会社から増員あるかな? 今、笹宮さんだけだしね… [一言] 結衣花ちゃんを後輩にしてあげるためにも、コンペは絶対勝たないとね! で、イベントを…
[一言] レスへのレスですみません。次回まで伸ばすと忘れちゃいそうでしたので。 バレンタイン後、ということは、社内ベンチャーはコンペ後も永続的に存続する、ということで、笹宮さんは行ったっきりになる、…
[一言] 別枠から後輩枠にカテゴリチェンジ? でも、コンペに勝ってからならともかく、社内立ち上げが終わった段階でキーマンを引っこ抜いちゃうのはさすがにまずくないかな。先輩の顔もなんかめいっぱい潰しそ…
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