表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
154/330

11月20日(金曜日)笹宮の本気の見せ方

「笹宮君……。本気かね?」


 提出した資料を見て、旺飼さんは驚きの表情でそう言った。


 俺は今、ザニー社の会議室にいる。

 隣には楓坂も座っていた。


「はい、私は本気です。現在の合同特別チームを『独立した新規事業部』として認めて欲しいんです。そしてその代表に俺と楓坂を指名してもらえないでしょうか」

「……いわゆる社内ベンチャーか」


 社内ベンチャーとは社内に新規事業部を設置する際、独立した企業のように扱う仕組みのことだ。

 その特長から社内起業と呼ばれることもある。


 特別チームの目的である『リアルとネットを融合させたセールスプロモーション』というコンセプトは新規事業の目標としては十分だった。


 そしてその代表に楓坂の名前を置くことで、彼女の祖父の横暴を防ぐ狙いがある。


 俺の狙いに気づいた旺飼さんは、提出した資料を読みながら何度も頷いた。


「なるほど。私とそちらの社長は顧問として就くわけか。これなら互いの会社にも説明することができる。だが……」


 旺飼さんは普段見せないギラリとした眼差しで俺を睨んだ。


「いいかい、笹宮君……。社内ベンチャーと言っても代表を名乗るんだ。もし失敗した際はそのレッテルを一生背負うことになる。……君にその覚悟があるのかね?」


 今回提案している話は単純に新しいチームを作って欲しいというものではない。

 疑似的にとはいえ、独立した組織を認めて欲しいと言っているのだ。


 もちろん大きな責任がある。


 だが、俺に迷いはなかった。


「もちろんです。それ以前に失敗はしません。大丈夫です」

「なぜ、そう言いきれる?」

「俺がなんとかしますので」


 まったく説明になっていない答えだが、それが全てだ。

 だけど、絶対の自信が俺にはあった。


 すると旺飼さんは吹き出すように笑い始める。


「はっはっは。いやぁ、本当に君は面白い。愚直さがウリかと思えば、突然大胆なことを言い始める。……しかもそこに説得力があるのだから厄介だ」

「じゃあ……」

「わかった、いいだろう。資金や他の役員との調整も必要だが、その方向で動いてくれて構わない」

「ありがとうございます」


   ◆


 翌日の土曜日。

 俺と楓坂は、大きな公園のすぐ近くにあるファミレスにいた。


 楓坂は俺を見ながら、呆れた表情でじーっと見ている。


「……あなたにはいつも驚かされます」

「それ何度目だよ。昨日も言ってたぞ」

「だって……」


 この一週間。

 俺は特別チームを社内ベンチャーにするため、いろいろな人と話合って進めてきた。


 もちろん最初に話したのは楓坂だ。

 かなり驚いていたが興味はあったらしく、自分から率先して資料をまとめるのに協力してくれた。


 俺と楓坂、二人が代表になると言うのはレアなケースだが、とにかく話がまとまって一安心だ。


 すると楓坂はおもむろに訊ねてきた。


「叔父様から聞いたんですね。年内に私がアメリカに連れ戻されそうになっていることを……。だからこんな強引なことを……」


 確かにその通りなのだが、ここで「はい」と言いづらい。

 きっとそう答えたら彼女は気をつかうだろう。


「まぁ、いいじゃないか。これからは一緒に新規事業部を盛り上げていこうぜ」


 だが楓坂は手帳で口元を隠して視線をそらす。

 顔は真っ赤になり、ぷるぷると震え、いつものように涙ぐんでいた。


「こ……こんなことまでされたら……、私……、今以上にあなたのことを……」

「喜んでくれているならなによりだ。絶対に楓坂を守ってやるよ」

「……ぅぅ。……ばかぁ。……ばかぁ」


 めっちゃバカって連呼されちゃってるよ。

 もっとも、その言葉は嬉しいという意味で使ってることを俺は知っているからな。


 ……と、ここでこちらに向かって歩いて来る女子高生がいた。


 もう歩き方だけで誰だかわかる。


 結衣花だ。


 制服を着ているので、土曜日の朝練をしていたのだろう。


「お兄さん、楓坂さん。おはよう」

「よお。結衣花」

「あれ? 楓坂さん、なんで手帳で顔を隠しているの?」

「ああ、さっきまで顔が……、うぐっ!?」


 状況を説明しようとした時、楓坂が俺の足を蹴った。

 ひどいじゃないか。


「どうしたの、お兄さん?」

「い……いや、なにも……。はは……」


 首を傾げながら席についた結衣花は、さっそくとばかりに訊ねてきた。


「それで、社内ベンチャーだっけ? どうなったの?」

「ああ。まだ確定じゃないが、うまく行ったよ。楓坂もしばらくはこっちに残るはずだ」

「そっか。よかった」


 すると結衣花がなにげないことを訊ねてきた。

 それは俺と楓坂が完全に見落としていたことだ。


「ねぇ、それって形としては新しい組織ってことになるんでしょ?」

「ああ、そうだが?」

「じゃあ、名前とかどうするの?」

「「あ……」」


 そう……。俺も楓坂も組織の名前をまったく考えていなかった。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても励みになっています。


次回、組織名を考えようとするが、センスのない笹宮にできるのか!?

結衣花と楓坂にイジラれる!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お~、楓坂ちゃんに社会的責任を持たせる作戦か! そうなると、今回のコンペは何が何でも勝たないとね! 会社名?3人の名前、組み合わせればいいんじゃない?(適当w)
[一言] なるほど。しかし、ますます楓坂さんとは近くなる。その分音水さんとは遠くなっちゃうなあ。結衣花は別枠。もう楓坂さんは選ばれなくても、笹宮さん忘れられないわな。 社内ベンチャーって、組織的には…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ