11月16日(月曜日)旺飼の自宅
大きな公園の最寄駅に到着して少し歩くと、旺飼さんの自宅がある。
てっきり豪邸だと思い込んでいた俺は、意外すぎるほど普通の一軒家だったので逆に驚いた。
むしろこじんまりしているとさえ思うくらいだ。
ちょうど玄関に俺達が到着したタイミングでドアが開き、中から高齢の女性が現れる。
「あらぁ~。舞ちゃん、お帰りなさい」
「ただいま」
楓坂のことを舞と下の名前で呼ぶのは、ほがらかな雰囲気のご婦人だった。
もしかして楓坂の祖母だろうかと思ったがそうではないらしい。
聞くと、彼女は家政婦だそうだ。
旺飼さんは独身で家にいる事も少ないため、家政婦さんを雇っているという。
しかし旺飼さんって結婚しているイメージがあったけど、まだ独身だったのか。
もう四十代くらいだし身を固めてもいいと思うけど、それを決めるのは旺飼さん本人だからな。
ふと気づくと、家政婦さんが俺を見てホクホク顔でほほえんでいた。
「あらぁ~。もしかしてあなたが笹宮さん?」
「はい。よろしくお願いします」
「あらぁあらぁ。まぁまぁまぁ。うふふ。そうなのねぇ~」
家政婦さんは俺と楓坂を交互に見て、ひとりでニコニコと笑っている。
なんだろう、この居心地の悪さは……。
俺達の知らないところで勝手にストーリーが進んでいるかのようだ。
家政婦さんに案内されてリビングに入ると、テーブルに豪華な食事が並んでいるのが目に入った。
そして少し離れた場所で旺飼さんが一人掛けのソファに座ってくつろいでいる。
俺達に気づいた旺飼さんは手に持っていた本を置き、こちらに近づいてきた。
「やあ、待っていたよ」
「今日は呼んで頂き、ありがとうございます」
「むしろ感謝するのはこちらの方だ。さぁ、好きなところへ座ってくれ」
自宅ということもあり、旺飼さんの物腰はいつもよりフランクな感じがする。
俺達が席に座ると、家政婦さんは気を利かせて飲み物を運んでくれた。
彼女に礼を言ったあと、俺は旺飼さんに訊ねる。
「家政婦さんを雇っていらっしゃるのですね」
「男一人で住んでいるとどうしても家事がおろそかになってね。彼女に手伝ってもらっているんだ」
「てっきりご結婚していると思い込んでました」
「私は女性には縁がなくてね。いちおう舞の父親役をしているが、はたしてどう思われているのやら……」
すると隣に座っていた楓坂はプイッといじけたようにそっぽ向いた。
「叔父様には感謝していますが、知り合いにそんな話をされるとテレくさいです」
続けて楓坂は席を立つ。
「笹宮さん。私、ちょっと自分の部屋に物を取りに行ってきますね」
そう言って楓坂は自分の部屋に行ってしまった。
目が泳いでいたから、本当に恥ずかしかったのだろう。
その時、インターホンの音がする。
家政婦さんは応答すると、足早に玄関へ迎えに行った。
旺飼さんは訪問者が誰なのかわかっているらしく、落ち着いた様子でグラスに入ったワインを飲んでいる。
「もう一人の客人も来たようだ」
「他にも呼ばれていたんですね」
「ああ、君達も知っている人物だよ」
そして家政婦さんに案内されてやってきたのは、いつも電車で会う女子高生・結衣花だった。
彼女は旺飼さんに挨拶をした後、俺のところへやってくる。
「こんばんは。お兄さん」
「よぉ。結衣花」
「お兄さんも来ているなんて驚きだよ」
「ヒーローは突然現れるものなのさ」
「この場合はどっちかって言うと、ぬらりひょんだと思うけどね」
妖怪ぬらりひょん。
宴会の場などにひょっこり現れて、料理を食っていつの間にかいなくなると言われている妖怪だ。
たしかに突然現れてはいるが……、むむむ……。
俺達のやり取りを見て笑った旺飼さんは説明をしてくれる。
「君達が知り合いと聞いてね。せっかくなので呼ばせてもらった」
「そうだったんですか」
ここで旺飼さんのスマホに着信が入る。
相手は仕事関連の人だったのか、急に眼が鋭くなった。
「おっと、すまない。電話が入った。少しだけ失礼するよ」
そういって、旺飼さんは部屋を出て行った。
すぐに戻るだろうし、それまで待っていよう。
隣に座った結衣花は、いつのもフラットテンションで話を振ってきた。
「仕事の方は順調?」
「ああ、おかげでな。この前ソフトクリームを食べに行っただろ? その時の経験が役に立った」
「私のおかげだね」
「多大な感謝をしている」
「気持ちは行動で示して欲しいな」
感謝を行動で?
うーん、そうは言われてもなにをしていいか。
とりあえず、思いつきを言っておこう。
「ちゅ~るしてやろうか?」
「それじゃあ、ちゃうちゅ~るだよ」
「ダジャレで返されたぜ」
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次回、ホームパーティーでなにが!?
投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。
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