11月14日(土曜日)おうちで腕マフラー
俺は今、結衣花の自宅におじゃましていた。
少し広めのリビングで結衣花と二人っきりで映画を見ているのだが、その内容というのがラブロマンスなのだ。
こういう映画は嫌いじゃないんだが、女子高生と二人っきりで見るのは気まずい。
もちろん俺は結衣花のことをそんなふうに見ていないさ。
だが、十歳年下とはいえ彼女は女性だ。
しかも派手さこそないが、間違いなく美少女である。
緊張するなという方が無理な話だ。
「ん……」
座布団に座っていた結衣花は少しだけ近づいた。
そしてチラチラとこちらを見てくる。
「ねぇねぇ」
「どうした?」
「ちょっとだけお兄さんの腕を貸して」
「腕を?」
目的はなんだろうか。
今は電車に乗っていないのだからスタンションポールになる必要はないし……。
まぁ、いい。
ここは結衣花の自宅だ。
彼女の言う通りにしよう。
俺は左側にいる結衣花に腕を差し出すようにする。
「別に構わないぞ。ほら」
「ありがとう。んしょ……んしょ……っと。うん、よし」
すると結衣花は俺の腕を首に巻くようにした。
「えーっと、……結衣花。なにをしているんだ?」
「名付けて腕マフラー」
「なんだそれ」
本来は肩を抱くという表現が適切なのだろうが、この状況は腕枕に近いかもしれない。
とはいえ寝転がっていないんで、やはり首マフラーと言うのがピンとくる。
「こうするとね、すごくリラックスするの。なんだか子供に戻れた気分になるっていうか」
「……そう……なのか?」
ほぅ……。さすが俺の腕。
スタンションポールからマフラーまでこなしてしまうとは、なんという汎用性の高さだ。
だが注意をしないと、結衣花の胸に手が触れそうになる。
しかも体も密着しているので、なかなかどうして照れくさい。
「ふふふ」
結衣花はというと、よほど腕マフラーが気持ちいいらしい。
幸せそうに笑っている。
「結衣花って自宅にいる時は、いつもより幼くなるんだな」
「だめ?」
「いや、むしろそれでいいと思うぜ」
生意気な結衣花も嫌いじゃないが、こうして無邪気のある彼女も悪くない。
こうしていると、確かにこっちもリラックスしてくる。
「お兄さんがさぁ、もし……。……うーん。なんでもない」
何かを言いかけて、途中で言うのをやめてしまった。
すごく気になる……。
「なんだよ。言いかけてやめるとか気になるだろ」
「変な誤解しない?」
「俺は常に真実だけを見ているんだぜ」
「ホントかなぁ」
疑う様子で声を上げつつも、結衣花は体を揺すって楽しんでいることをアピールしてきた。
言葉と態度がここまで違うと、むしろ可愛いとさえ思える。
いや、間違いなく彼女は可愛いのだが。
「んっとね、私の友達に大学生の人と付き合っている人がいるの」
「ほぉ」
「最初はどうなるか心配だったけど、今はすっごくラブラブなんだって。それで、お兄さんが大学生だったらこのまま付き合ったりしたのかなぁ~と思って……」
つまり、首マフラーをしていると恋人気分になってしまったというわけか。
まぁ、それはわからなくはない。
正直、俺もそんな気分に流されそうになっている。
「こうやってね。一緒にいてくれて、安心できるっていいよね」
「そうだな」
……と、その時。
ガチャ……と、玄関のドアが開く音がした。
結衣花の母、ゆかりさんが帰ってきたのだ。
「ただいま」
「おかえりなさい」
立ち上がった結衣花はさっきまで何もなかったかのように、いつものフラットテンションでゆかりさんの元へ向かう。
「荷物持とうか?」
「じゃあ、これをお願い」
リビングに入ってきたゆかりさんは俺に挨拶をした後、時計を見て時間を確認した。
買い物に出かけてからジャスト一時間三十分。
まるでAIのような正確さだ。
「笹宮君、くつろいでる?」
「はい、ゆっくりさせて頂いてます」
「そう、よかった」
スーパーで買った袋にはいろいろな食材が入っていた。
じゃがいも、にんじん、牛肉のパック……。
おそらくカレーだろうか。
「笹宮君も夕食食べて行く? いちおう材料は買ってきたのだけど」
「ご迷惑でなければぜひ」
他人の家のカレーを食う事なんてめったにない。
帰ってから自分で作るのは面倒だし、せっかくなら美味しい手作りを食べたいと思うのは俺だけではないだろう。
「そういえば笹宮君。仕事は順調なの?」
「はい。……といっても、今は企画を考えている段階なのですが」
ふぅんと、ゆかりさんは考える。
「結衣花から聞いたけど、商業施設のイベントの仕事を取ろうとしているのよね?」
「はい。近いうちにコンペが開かれる予定なんです。そろそろスケジュールなども送られてくると思うのですが」
「そう……。なら面白いことになりそうね」
ゆかりさんはスマホを取り出して、商業施設の公式ホームページを表示した。
俺はそれを見て、驚きで息を呑む。
「コンペを一般に公開して……、人気投票を行う……だって? しかもクリスマスの日に!?」
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次回、明かされるプロジェクトの概要。笹宮はどうする!?
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