11月14日(土曜日)スイーツ女子と二十六歳
本屋で偶然会った結衣花と一緒に、俺は雑誌に掲載されていたスイーツを食べに行くことになった。
車で二十分ほど移動したところにあるその店はアイスクリーム専門店だ。
しかし雑誌でイチオシされていたのはアイスクリームではなく、独創的な盛り付け方をしたソフトクリーム。
その商品を目当てに、ポップな外観の店は女子達で溢れている。
列に並んでいると、隣にいる結衣花は嬉しそうにそわそわとしていた。
「楽しそうだな」
「うん。やっぱり新スイーツは列に並んでも苦にならないよ」
そういえば結衣花ってスイーツ女子なんだよな。
流行にも詳しいみたいだし、美味しい店をたくさん知ってそうだ。
もし時間が合えば、スイーツの展示会に連れていってやろう。
試食でいろんなスイーツを体験できるから、きっと楽しんでくれるはずだ。
しばらくして、俺達はテイクアウト専用の窓口に到着した。
受付のお姉さんが丁寧にあいさつしてくれる。
「いらっしゃいませ。どれにしましょうか?」
差し出されたメニューには様々な品が並んでいる。
もし俺一人ならラムレーズンのアイスを注文するところだが、今日は結衣花に合わせよう。
「私はストロベリークリーム。お兄さんはどうする?」
「じゃあ、チョコクリームで」
間もなくして、待望のソフトクリームを受け取った。
雑誌で見た通り、このソフトクリームは変わっている。
普通はコーンにクリームを盛るところを、この店では透明の容器に入れていた。
ソフトクリームと言っても先端にツノが立っておらず、まるでバラの花が咲いたような盛り付け方をしている。
さらに真珠のようなトッピングで飾られているため、ただのソフトクリームではないというオシャレ感があった。
「それにしても盛り方が斬新だ。アートでも作るつもりだったのか?」
「最近は新しい盛り方のスイーツが注目されてるんだよね」
自慢げに語る結衣花だが、俺は率直に疑問をぶつけてみた。
「そういうのって前からなかったか?」
「以前はインパクト重視だったけど、今は派手過ぎないオシャレ感重視かな。写真を並べた時にキレイだし」
やっぱりインスタ映えなのか。
社会人の俺からすれば、そこまでインスタ映えにこだわらなくてもと思うが、女子高生の結衣花にとってはこれが面白いらしい。
こういうところで年齢差を感じてしまうな。
「おにいさん。ほら見て」
結衣花は店の壁を指さした。
ポップな印象を与えるこの店は外観にもこだわっている。
そのためなのか、壁を背にして撮影をする人達も多い。
「壁とかにイラストを入れているでしょ。ああやってお店そのものを撮影スポットにしているの」
「ほぉ、考えてるな」
こういうことに興味を持つのは女子高生らしい。
だが……、しかしなのだ。
この女子達が楽しめる楽園空間において、俺はどうしても言わせて欲しいことがあった。
「ゆ……結衣花。女子に人気なのはわかるが、俺の存在が場違いすぎないか?」
そう……。女子達が楽しそうにしている場所に男の姿はほとんどない。
彼氏連れで来ている人もいるが、男性の人数は片手で数えるほどだった。
結衣花は「だから?」と言いたげな表情で首を傾げる。
「そんなの気にしなければいいじゃない」
「無理言うなよ……」
「それよりせっかく来たんだし、一緒に撮ろうよ」
「マジかー……」
まぁ、結衣花様に逆らって俺が敵うはずもない。
ここは大人しく彼女の要求に応えるとしよう。
場所を変えて俺達はツーショット写真を撮った。
もちろんソフトクリームと一緒にだ。
撮影した画像を見て、結衣花は満足気に頷いた。
「うんうん。たくさん撮れたね」
「結衣花がよろこんでくれてなによりだ」
以前はクールなイメージを大切にしていた俺が、ソフトクリームと女子高生と一緒に撮影か……。
もしこの写真を妹の愛菜に見られたらと思うと……、うん……、ナチュラルに泣ける自信がある。
音水に見られたら……、アイツは喜びそうだな。
「しかし、こんなファンシーな場所なら女友達と来たかったんじゃないか?」
「んー。それはそれで楽しいけど、お兄さんは別腹だから」
「俺、デザート扱いされちゃってるよ」
だが結衣花は俺の目を見て言う。
「特別ってことなんだから喜んでよ」
「まぁ……、そう言ってくれると悪い気はしないでもない」
「そしてお兄さんはデレちゃいました」
「ま……待て! 俺はデレてないぞ」
俺がデレるだと!?
バカな、ありえん!
すぐに否定したのだが、彼女には通用しなかった。
「ふーん、そうなんだぁ」
「なんだ、その意味深な言い方は……」
「ふっふっふ」
棒読みで笑うフリをした結衣花は、おもむろにスマホの画面を見せてきた。
そこには照れて戸惑っている俺の写真が映されている。
「これなーんだ?」
「あ! さっきの瞬間を撮りやがったな!」
「女子高生の撮影スキルを甘く見たね。お兄さんのデレ顔は頂いたぜ」
「お……おのれ……」
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次回、結衣花のおうちにご訪問!?
投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。
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