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11月5日(木曜日)楓坂と夕食の買い物

 午後六時。

 仕事を終えた俺は最寄り駅の出口で人を待っていた。


 すると自宅の方からメガネを掛けた女子大生、楓坂が歩いて来る。


「お待たせしました」

「おう、大丈夫だ。行くぞ」

「はい」


 今日の夕食は楓坂が作ってくれるということで、一緒に食材を買いに行くことになった。


 十一月になるとこの時間でもかなり暗い。

 夜道を二人で歩きながら、俺は結衣花と話していたことを楓坂に訊ねた。


「イルミネーションですか? あの駅ビルの?」

「ああ、結衣花と愛菜も一緒にな」


 今日から開催されるイルミネーションは次のバレンタインデーまで続くらしい。

 俺も仕事で立ち寄ったことはあるが、純粋に楽しむ目的で見に行くのは初めてだった。


「でも……、私って愛菜ちゃんに嫌われてません?」


 楓坂は心配そうな顔で俺を見た。 


「いや、たぶん驚いているだけだと思うぞ」

「驚く……ですか……。私、まだあの子の前で本性を晒していないのにどうしてかしら?」


 妹の愛菜が驚いているのは楓坂の胸だろうな。


 愛菜は一度楓坂に会っているのだが、その胸の大きさにショックを受けていた。

 中一なんだから気にする必要ないと思うが、愛菜にとっては切実なのだろう。


 事情を納得した楓坂は両手の指を合わせてほほえんだ。


「うふふ。じゃあ、行こうかしら」

「ああ、きっと結衣花も喜ぶよ」


 ……と、楓坂はすねたようにプイッと横を向く。


「あなたと一緒だからっていうのもあるのよ」

「本当かよ」

「三割くらいわね」

「少なっ」


 一瞬だけ喜ばせて、すぐに落とす。

 どうやら楓坂も笑いのコツというのを掴めてきたらしい。


 それからしばらくして、俺達はスーパーに到着した。


 カゴを持つ俺に、楓坂はおもむろに訊ねてくる。


「それより夕食どうします?」

「そうだな……」


 うーん。楓坂が作れるものを考えないといけない。


 ロールキャベツは論外だ。

 ハンバーグ……はちょっと難しそうだし、カレーはこの前食べたからパス。


 となると……アレか。


「……焼きそば……とか、どうだ?」

「……一気に最高難易度を攻めてきたわね」

「……屋台のおっちゃんも驚きの評価だ」


 野菜を炒めてソバと絡めるだけなんだが、初挑戦なら難しいと思うのかもしれない。

 実際のところ、俺の作る焼きそばもたいした出来ではないし、楓坂の気持ちがわからないわけでもない。


「やっぱり焼きそばはやめて他のものにしよう」


 だが楓坂は手の平をかざしてストップをかける。


「お待ちください。挑戦する前に諦めてはいけませんよ」

「被害者一号は俺になるんだが?」

「その時は二号として後に続きます」

「俺が一号というところは変わらんわけか」


   ◆


 食材を買って自宅に帰った俺は、玄関のドアのカギを開けた。


「ほら、開いたぞ」

「ありがとうございます」


 こういう時はレディーファーストというやつだ。

 彼女を先に部屋に入れ、俺はドアを閉めた。


 靴を脱ぐために食材を棚の上に置いたその時、卵のパックが入った袋を持った楓坂が声を掛けてくる。


「笹宮さん、ちょっと」

「ん?」

「ほら……、ん……。ね?」


 楓坂はなぜか背中を向けて、なにかをアピールするように体を揺すっていた。

 これは……うわさに聞くモールス信号というやつだろうか。


 俺、CIAには入ったことないんだよなぁ。


「すまんがわからん」

「もうっ……。昨日一緒に見たドラマで、玄関で彼女を後ろから抱きしめるシーンがあったじゃないですか」

「俺にしろと?」

「そうですよ。ほらほら、はやく」


 後ろからか。

 楓坂って恥ずかしがり屋だから、後ろからのシチュエーションに憧れているのだろうか。


 まぁ、これなら俺もそんなに恥ずかしくないし、やってみよう。


 彼女の後ろに立った俺はドラマと同じように、触れる程度の力加減で彼女を抱きしめた。


「こうか?」


 ――と、その時だった。


「きゃあ!」

「ぐはッ!?」


 抱きしめた瞬間、楓坂は驚いて頭を上げた。

 それは俺のアゴに直撃。

 会心の一撃をくらってしまった。


「な……なんで頭突きなんだよ……」

「だって、いきなり抱きついてくるから!」

「抱きつけっていったの、おまえじゃん」

「あなた、いつもはヘタレるでしょ!」

「後ろから抱きつけって言ったのは初めてだろ」


 ててて……。

 まぁ、楓坂の性格から考えて、抱きついてくれとかいう時は俺をおちょくる時だからな。


 俺も合わせてネタのひとつでも披露するべきだったか。 


「つーか、楓坂の方は痛くないのか? 結構な勢いで当たったぞ」

「えっと……はい。大丈夫ですね。笹宮さん……ごめんなさい」

「いいよ。……ん?」


 ふと見ると、楓坂が持っていた卵が入った袋が落ちていた。


「あ……。卵……割れちゃいました……」

「焼きそばからオムそばに変更だな」

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても励みになっています。


次回、四人でイルミネーション。はてさて、どうなるのでしょう!


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヘタレを見越しての煽りだったかw 楓坂ちゃん、何気に純情ちゃんだからな~ [気になる点] オムそば… 難易度上がっちゃったw
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