11月5日(木曜日)からかい上手な女子高生
十一月五日の木曜日。
いつもの通勤電車に乗っていると、スマホにLINEが届いた。
送り主は隣に住む大学生、楓坂だ。
『笹宮さん、今日の夕食は私が作りましょうか?』
『ありがたい。必要な材料があるなら買って帰るぞ』
『ん~。せっかくですし、駅で待ち合わせをして一緒に買い物をしません?』
『わかった。じゃあ、できるだけ早く帰るよ』
料理が苦手な楓坂だが、こうして積極的に夕食を作ってくれる。
俺が代って作ればいいのかもしれないが、正直誰かに食事を作ってもらえるというのは嬉しいので、その好意に甘えているというわけだ。
スマホをカバンに入れたちょうどその頃、フラットテンションの女子高生が俺の前に現れた。
彼女は淡々とした調子で挨拶をする。
「おはよ。お兄さん」
「よぉ。結衣花」
彼女は横に立つと、俺の腕を二回ムニった。
ここまではいつも通りだが、今日は少しだけ距離が近い。
寒いので、俺で暖を取ろうとしているのだろうか。
「さすがに寒くなってきたな」
「うん。なんでこの時期って急に寒くなるんだろうね。お布団が恋しいよ」
「激しく同意だ」
まだコートを着るには早いが、十一月に入って急に寒さが堪えるようになった。
朝は暖房を入れないと起きるのがつらい。
ふと結衣花は顔を上げて、電車のパネル広告に目をやる。
そこには煌びやかなイルミネーションと二人のカップルが描かれていた。
「そういえば今日からだね。駅ビルのイルミネーション」
「ああ……、もうそんな季節か」
駅ビルというのは結衣花と一緒に見たゆるキャラ展が開かれた場所だ。
その一階には楓坂が紹介してくれたカフェもある。
そういえば、楓坂に告白をされたのもその駅ビルだ。
しかし……、イルミネーションか。
「結衣花は行きたいのか?」
「連れて行ってくれる?」
「やぶさかではない」
「じゃあ、よきにはからってもらおうかな」
せっかく誘ったのにやっぱり上から目線だ。
もうちょっと女子高生らしくきゃぴきゃぴと喜んで……って結衣花がそんなことしたらキャラ崩壊してるよな。
「しかし俺と二人っきりだと問題になるか。誰か他に誘わないと……」
「楓坂さんなら来てくれるかも。あと愛菜ちゃん?」
我が妹、愛菜か……。
まだ中学一年生だが俺がいれば大丈夫だろう。
俺と結衣花をくっつけようといろいろ画策するので、おかしなことをしないか心配だが……。
「愛菜なら喜ぶだろうが、あいつはしゃぎ過ぎるからな……」
「お兄さんと会えて嬉しいんだよ。そこがかわいいんじゃない」
「そうかぁ~?」
ふと俺は以前から疑問に思っていたことを訊ねてみた。
「前から気になっていたんだが、なんで結衣花は愛菜のことを可愛がってるんだ?」
結衣花はきょとんとした顔で俺を見た後、その理由を考え始める。
「う~ん。私と似ているからかな?」
「どんなふうに?」
「私にも歳の離れた親戚のお兄ちゃんがいて、仲はいいんだけど滅多に会えないんだよね。だから愛菜ちゃんの気持ちがなんとなくわかるの」
仲がいいと聞いて、俺は少しだけモヤッとした感情が湧いた。
「へぇ……、親戚のお兄ちゃんねぇ……」
すると結衣花は嬉しそうに体を揺らす。
「あ、もしかして妬いた?」
「……なんで俺が親戚さんに妬くんだよ」
「お兄さんポジションを奪われたと思ったんじゃないの?」
「んなわけあるか」
おのれぇ……。
そりゃちょっとは気になったさ。
そこは認めてやる。
だけど、こんなふうに聞かれて「はい、その通りです」と答えられるはずがない。
意地でも気になったことは言わないもんね!
「ほらほら、正直になっちゃいなよ。楽になるよ」
「カツ丼を出されても黙秘権を行使させていただく」
結衣花は体をくっつけて質問の連続攻撃だ。
からかい上手もここまで来るとタチが悪い。
もともとそういうところはあったが、今日は特に調子が良さそうだ。
ん? まさか……。
「……っていうか、わざと気になるように言ったな?」
「ふっふっふ。戦略的トークなんだよ」
「小賢しいやつめ」
女子高生が社会人をからかうのもどうかと思うが、そのために親戚さんをダシに使うか?
とんでもない結衣花だ。
そうこうしているうちに電車は聖女学院前駅に到着した。
「じゃあ、楓坂と愛菜に声を掛けてみるよ」
「うん、よろしくね」
腕を離した結衣花は俺に向かって楽しそうに手を振る。
「じゃあね、お兄さん。報告待ってるよ」
「わかった。LINEするよ」
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次回、楓坂と夕食のお買い物。
……ラブコメしちゃう?
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