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9月21日(月曜日)渓谷の散策

 連休三日目の午後。

 俺と結衣花を乗せたミニバンは、渓谷に沿う道路を走行していた。


 窓を開けると森林の香りと、川が流れる音が聞こえてくる。


「気持ちいい。こっちにきて正解だったね」

「ああ。この先に休憩所があるからそこまで行こう」


 しばらく走ると広い駐車場に到着した。


 俺達は車から降り、すぐ先にある遊歩道へと向かう。

 そこから渓谷の景色を見ることができた。


「せせらぎの音って気持ちが休まるよな」

「うん」


 ここは渓谷と言ってもそこまで険しい場所ではなく、気軽に訪れることができる散歩コースと言ったところだ。

 少し移動すればキャンプ場や温泉施設などもある。


 本格的なアウトドア派の人にとっては物足りないかもしれないが、少し立ち寄るにはちょうどいい場所だった。


「お兄さん、疲れてない?」

「年がら年中、車の運転をしているんだぜ? 一時間程度、むしろウォーミングアップさ」

「バトル漫画のセリフみたい」

「この後、変身して髪の色が変わるんだぜ」

「さらにドレス姿になるんでしょ?」

「ドラゴンボールがいつの間にかプリキュアになっちまったぜ」


 軽いジョークのつもりが、いつのまにか俺のダメージになって返ってきた。

 もし男の俺がプリキュアの恰好をしたら、メンタルブレイクが激しすぎて立ち直れないと思う。


 ここで結衣花は落ち着いた様子で訊ねてきた。


「そういえば、昨日はどうしてベンチで寝ちゃうほど疲れていたの?」

「……実は、以前元カノが仕事の妨害をしてきた話をしただろ」

「うん」

「それで邪魔をしない代わりに、どっちのイベントが上か勝負することになったんだ」

「えー。子供みたい」


 結衣花の言う事はごもっともだ。

 だが元カノの雪代は勝負事が好きなので、潰し合いを回避する方法がこれ以外に思いつかなかった。


「そういうことで、負けないためにテコ入れ案を試行錯誤して根を詰めてしまったというわけさ」

「……そうなんだ。でも無理は禁止だよ。いいね」

「わかったよ」


 結局のところ、結衣花は俺のことを心配してくれているのだ。

 生意気なところもあるが、なんだかんだでいい奴だよな。


 結衣花は言う。


「子供みたいなお兄さんに着せるプリキュアのコス、どこで売ってるかなぁ」

「なぁ、結衣花。これ以上需要のないことにリソースを割くのはやめないか?」


 結衣花はいい奴だ。きっとそうだ。

 だからプリキュアのコスを俺に着せるなんてしないよな?

 信じてるぜ。


 しばらく歩くと、木とロープで作られた吊り橋があった。


「ねぇ、吊り橋あるよ。行こうよ」

「ああ」


 見た目こそ手作り感のある作りだが、太いワイヤーでしっかりと補強がされているので安全面に不安はない。


 もちろん、歩いたとしても揺れることはなかった。


 しかし隣を歩いていた結衣花はしがみつくような恰好で俺の腕をつかんでくる。


「怖いのか?」

「怖くはないけど、掴まりたい気分なの」

「今日もスタンションポールというわけか」

「ううん。ぬいぐるみ」

「俺はいつ人間に昇格できるのだろうか」


 口は減らないが、やっぱり結衣花も女の子というわけか。


 おそらく結衣花はここに来るのは初めてなので、本当にこの吊り橋が大丈夫なのか心配なのだろう。


 吊り橋を渡りきると、今度はスマホを取り出した。  


「お兄さん。ここで写真撮ろうよ」

「……俺も一緒にか?」

「当たり前でしょ。ここまできて二人で撮らないとか意味ないじゃん」


 女子高生ってなんでこんなに写真を撮りたがるんだろうか。


 でもここは撮影スポットらしく、俺達以外の人も写真を撮っていた。

 すぐ近くでは、カップルが肩を抱くようにして自撮りをしている。


 ふと気づくと、結衣花がそのカップルを見ていた。


 ……あ、なんか嫌な予感がする。


「ねえ、お兄さん」

「あのカップルみたいなことはしないからな」

「まだ何も言ってないよ」

「肩を抱いて写真を撮ろうとか言うつもりだったんじゃないのか?」

「まさか」

 

 なんだ、俺の思い過ごしか。


 そうだよな。

 いくら仲が良くなったとはいえ、女子高生が俺みたいなオッサン予備軍とそんなことをしたがるはずがない。


「私が肩を抱くから、お兄さんはうやうやしくしゃがんでよ」


 さらに上を行くオーダーが入りやがった。


「待て。なんで俺がカップルの女役なんだ」

「普通だと面白くないじゃない」

「そうだけど、そうじゃなくて」

「三秒待ってあげる」

「しゃがみました」


 あとで怒られると怖いから、とりあえず言われる通りにしてみた。


 結衣花は嬉しそうに俺の肩に手を回す。


 っていうか、結衣花さん。

 お胸がこう……当たってるんですけど……。

 気づいてますよね? あとでやっぱりイジってくるんですよね?


「お兄さんの肩って、触り甲斐があるよね」

「そんなこと、初めて言われたぜ」

「結構、私は好きだよ」

「そりゃどうも」


 まぁ、でも。

 今日の結衣花はドライブに出かけたからということもあって、いつもより楽しそうにしている。


 これはこれで良しとするか。

いつも読んで頂き、ありがとうございます。

☆評価・ブクマ、とても励みになっています。


次回、結衣花と夕食のお買い物!?


投稿は、朝・夜の7時15分ごろ。

よろしくお願いします。(*’ワ’*)

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― 新着の感想 ―
[一言] イチャついてる… うらやましくなんて…あるな(笑)
[一言] つり橋効果はそこまでなかったかな。 しかし、これは紛れもないデート。買い物デートよりデートっぽい気がする。
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