菌(ウイルス)が産み出した産物
時は遡り、丁度十年前、全世界の人々に快挙の歓声と恐怖の悲鳴を与えた。
国際日米共同最先端技術研究所では、ある大規模なプロジェクトが施行されていた。それは人間という生物を超短期間で事実上の進化を可能にさせるという内容であった。
寿命を数十年引き延ばすことや、「がん」といった難病を患わない丈夫な体を手にすることを可能にし、極めつけには地球外の惑星にほぼ生身の状態で生活できる尋常ならざる適応力を身に付ける、人類の可能性を広げていったモノだった。
誰もが成功を望んでいたせいなのか、
ある一つの成功の可能性が持ち上がったというニュースは、僅か十時間という短い間に世界人口84億人のおよそ90%にしれ渡った。
その、ある一つの可能性というのは、新たなウイルスを作り上げ、人に感染させるというモノだった。全人類はウイルスに対して酷く嫌悪感を持ったいたためか、その研究に興味を持っていた人々もウイルスは全人類の最も忌むべき敵だとして大規模なデモを次々に起こした。
しかし研究者達の探求心は、何かに取りつかれたように止まることを知らず、利益の範疇を越えた。
研究者の無駄な努力があったからだろうか、研究はその年内中におわってしまった。そして秘密裏に実験が行われた。
感染対象をマウスから大型動物にそして最終地点で人間と倫理を無視した実験は、全て同じ結果に行き着いた。結果は、被験体の全てが恐ろしく狂暴になり、理性を失い激しい殺戮衝動を伴ったのだ。
しかし研究は、ある意味では成功していた。そのウイルスに感染した被験体の三分の一に、ある副作用が現れた。主作用は主に感染対象の狂暴化、及び殺戮衝動の劇的なまでの向上であったが副作用は、殺戮衝動故の感染対象の生物の範疇を越えた殺傷能力向上であった。
この研究はすぐさま打ち切りとなり人類の産み出した妄想の産物として永久に門外不出となる……予定だった。
2084年9月28日午後3時30分。全ての感染した被験体は、ウイルスごと焼き払う「焼却処分」によって事態を片付けられるようとなったが被験体NO.135と179が研究所を破壊し行方を眩ました。
世界は未知のウイルスによる大混乱を引き起こした。一瞬にして広がるウイルスは、感染者を劇的に増やし世界人口は84億から4年も経たずして70億へと減少させた。
人々は、ウイルスが人間を虐殺していく様を見て口を揃えて言い始めた。
『殲滅細菌 アサルトウイルス』
と。現在ではアサルトウイルスは、抑制出来ているが人間が抱く他者への不信感、差別的な姿勢は変わらない。そして世界は現在、再びのウイルス蔓延を見越し法律を変えた。それは「過剰防衛正当法」である。砕いて説明をすると「自分の命は自分で何とかしろ」という意味合いである。
そのせいで、各教育機関は対人用の護身術、武器の実戦練習など
「我が身を守るために相手を討つ」を信条にカリキュラムを展開している。世界は「自分を守るためには相手の命をも厭わない」という思考に変わってしまった。そう、この世界は荒廃しきったのだ。
「どうだったかな。私の話には興味をもったかな?」
「先生!話が長いです。」
教室で男子生徒が手を挙げて言う。
「しょうがないでしょ。私は現社の教師だからね。折角近年の大騒動に興味を持っている生徒がいたんだ。話さずにはいられないでしょ?」
「キーン、コーン カーン コーン」
チャイムが丁度いいタイミングで鳴った。
「今日の授業はここまで!明日は今日、話で潰れた分詰め込んで貰うから覚悟しなさい。」
「は~い」
間延びした返事が響く。
「はぁー、高峯先生、熱弁し過ぎだろ。すっげぇ眠かったぁ!」
「深谷君!あのぅ……今朝はごめんね。私があんなヤツに手間取っていたばっかりに、学校に遅れちゃって。」
篠崎が急に改まってきた。
「何いってんだよ篠崎。お前のおかげで命が助かったんだ。感謝してもしきれねぇよ。何か後でお礼をさせてくれ。」
「じゃあ……帰りも……一緒に帰ってくれる?」
「別に構わないけど」
このやり取りは他の人から見たらどうなっているのだろうか。
「おうおう。お二人さん二学期初日から仲いいですなぁ。まぁオレは高峯先生一筋だけどな。」
「桐原。少し声のボリュームをさげろ。周りに聞こえるだろ。」
「いいだろ別に。皆お前らがお似合いだってのをし
ってんだから。」
「オレと篠崎はそんな関係じゃない。ただ一緒に登下校して、たまに料理を作りに家によってきてくれるだけだからな。なぁ篠崎!」
振り返り篠崎に視線をやると顔が赤くなっていた。怒り?羞恥心?それとも羞恥心からくるオレへの怒り?わからないが、まずい状況だってのはわかった。
「深谷君のアンポンタンのアンキロザウルスぅー」
意味不明の言葉を言い残し、篠崎は教室を出ていってしまった。
「篠崎ぃー!!どういう意味だよぉー!」教室のドアのところで叫ぶ。
「重。そうゆうのを世間一般で、そういう関係っていうんだ。また一つ常識を学んだな。」
とりあえず。篠崎が意味不な言葉を言ったということは、恥ずかしかったのであろう。
「で?どうなんだお前は?」
「何が?」
「高峯先生のことだよ。どう思っているんだ?」
「えっ?ただの教師やってる隣人?」
「なるほど……はぁっ!?ふざけんなよこの野郎!全国の高峯ファンに謝れ。そして死ね!」
ポケットに入れてあったカッターナイフをチキチキと音を立てて取り出す。
「全国って。そこまで有名じゃねぇだろ!」
「オレの頭ん中の日本では全国ツアーするほど有名だっつうの!」
「とにかくそれをしまえ!……で?どこがストライクゾーンなんだ?」
「そりぁもう全てよ!容姿、声、才能、好きな花、や血液型。全てが完璧だね!」
「うわっ気持ち悪!そんなことまでしってんの?」
「おう!ファンクラブ会員ナンバー、一桁をなめんな!」
このお調子者の「桐原 九条」が愛して止まない女教師「高峯 千弦」は日本国第37区高等学校で現代社会を担当すると共に対人戦闘を教えるプロでもある。しかし数ヶ月間時間を共有した末1つ疑問が生まれた。何故戦闘のプロであるのに、生徒に教えないのか。高峯 千弦は一方的に戦闘の教授を拒絶し続けたのである。オレはどうも深い訳があるのではないかと推測している。深く考えていると
「深谷 重。お前随分と篠崎と仲がいいじゃねぇか。何か篠崎の弱み1つや2つ持ってるだろう?教えてくれよ。まぁ勿論ただとは言わねぇよ。お前にも回してやっからよう。どうだ?いい話じゃねぇか?」
同じクラスの江藤が話掛けてきた。
学校中では「殺しの江藤」と言わている正真正銘の世界が作った塵だ。クラス内でも1つ2つと机に追悼の花瓶を置かせた。
「断じて断る。オレにメリットがない。よって教える義務がない。他をあたれ。」
「このオレに随分と大口を叩くな深谷。いいだろう。教えねぇってんなら、吐きださせるまでだ。」
江藤は躊躇いもなく刃渡り20センチのナイフを取り出した。
「激痛の中で吐いてもらおうかぁぁ」
何故自分が『学校一の命知らず』と呼ばれているのが分かりかけてきた。