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憂鬱な空を仰ぐ

「気持ち悪ぃ」

清々しいほどの快晴が逆に心をズタズタに引き裂いていく。

何度、起きる度こんな感情を抱いたのか数え切れない程である。

暫くベッドの上で天井を仰ぐが残念ながら体はいつも通りよく動く。

このまま天井を死ぬまで見ていてもいいが、そんな暇はないのがこの世界。

億劫になりながらもベッドから出て学校の支度を済ませる。


「おい 兄貴。飯食わずに学校行くなって。途中で体力尽きるよ」


「わーってる。味噌汁だけ啜って行くわ」


この生意気な男は、オレの弟の「深谷 颯介」如何にも女子が蜘蛛の子を散らして逃げるような目をしているが、顔立ちもよくそんな風貌とは裏腹に家事をこなしたり、炊事もできる中学二年生だ。


オレがそのようなことに疎い分、文句も言わずにしてくれる、いい弟であることは間違いないのだがオレに対しては卑下するように見てくる。まぁオレが文句を言えるわけがないのだが。


「まぁ学校、行ってくるわ」


「そう。いってらっしゃい」


いつも通りの会話をして玄関のドアを開ける。

冬の空は雲一つ無く、燦々と照りつける日光は容赦なく網膜に突き刺さる。まぁ言いたいことは、日の光があまり好きでは無いってことだ。

右へと方向を変え、歩きだした次の瞬間、絶対不可避の一撃が顔目掛け飛んできた。


「あっ!ごめんなさい深谷君。大丈夫!?顔!?私ってたら何回ドアぶつけちゃった?」


「今月で計6回だ。今日の15日の段階でな。」


顔を押さえながら言う。


「本当にごめんなさい!」


彼女が深々と頭を下げる。長い髪の毛はあと少しのところで地面に着きそうである。


「いいよ。朝の恒例行事みたいになってるし。腑抜けた朝に一発かましてくれて有難いと思ったこともあったから。」


「本当に大丈夫?この際お礼というのも何だけど……一緒に登校しない?」


彼女はモジモジしながら言う。何に対して羞恥心を抱いているのかは男には解らなかったが応えはただ一つであった。


「好きにして。」


これがこの場での適正解である。オレはこの女……「篠崎 麗華」という人間をよく知っている。


「いいよ。一緒に登校してやる」と応えるのは、論外として

「嫌だね。一人で行く。」等と応えたらどうだ。この女は、そんなことでは早々に諦めることはない。結局質問責めされてこの展開に行き着くのがオチだ。こんな寒い早朝に不快な気分にはなりたくないのが本音である。


「じゃあ、一緒に行こ。」


返事もせずに彼女の前に歩く。二人の鉄階段を降りる音は、閑散としたアパート付近にくぐもりながら響く。実にリズムよく。


「深谷君。いつも通り普通の学生服だね。たまには、冒険してみたら?学校生活も大分変わると思うけど?」


見慣れた通学路の中ハンドバックを肩に掛けて歩く。


「いいんだ。オレはこれで。軽いし通気性もあって学校って感じがするだろう?。

篠崎の着ているみたいな最先端技術で作られた繊維の服なんて買えたもんじゃない!」


「自分の命に関わるならこのぐらいの出費。どおってことないと思うけど?」


篠崎と歩くときはいつもこんなことを話している。たしかに学生服姿は周りより遅れている。数年前から学校の服も自由になって周りの人間は、より自分らしい服を選ぶようになった。中には何十万もする衣服を着ているヤツもいた。

オレは元来普通の高校生だったが数年前の一件のせいで

『学校内で一番の命知らず』と呼ばれている。そう呼ばれているのは周知の上だが納得は出来ない。


「何、真剣な顔して考え込んでるの?そろそろ駅に着くよ。」


駅の前はやはり多くの人混みで溢れかえっている。一時期は、駅前でも人影は少なく、状況を把握しきれていない愚者共と犯罪者あたりしか見えなかった。しかし今では車の通りも良くなり、電車も運転を再開し365日運休なしで通っている。


「早く!乗り遅れるよ!」


篠崎が急かす。慌てて早足で歩いた瞬間。


「きゃああああ!!」


女性の叫び声が聞こえた。

声の方を振り返ると、返り血が目立つホッケーマスクを被り、黒いフードを深々と羽織った男が、血まみれのナイフを片手に女性の腹部を刺していた。


女性は力無くその場に倒れ、そのまま動くことはなかった。

このような情景を見た後は普通、戦慄を覚えるのだろうが。周りの人間の反応は異なるものであった。その一部始終を見た者は皆、瞬間的に距離を取った。


本来であればそのような状況下であれば、発狂して逃げ出すか、身動きが取れずその場に留まるので精一杯であっただろう。そして驚くことに誰一人として警察に通報しないのだ。


皆、その状況に触れないように対応している。そう、これが変貌を遂げた新たな腐った世界である。


「ふぅう、ふぅう!」


殺人鬼の荒々しい息が事の重大さ、残虐さを色濃いものにしていく。殺人鬼が一人、人を殺したら何をする?言うまでもなく、近くの人間をまた殺す。吹っ切れた人間は悪行に手を染めた瞬間止まらなくなる。ただそれだけである。


男は、普通の高校生に向かい両手で刃物を持ち、ものすごい殺意を向けて走ってくる。残念ながらオレは護身術など一つも知らない。対抗手段も持ち合わせていない。これがまさに絶体絶命である。


死を覚悟した瞬間、二発の銃声が聞こえた。一発目はホッケーマスクの上半分を破壊し、二発は男の額に穴を開けた。額から吹き出る血はことの酷さを吐き気を催すほど表していた。


男は暫く立っていたが、呆気なく後ろに倒れた。


「大丈夫?深谷君。怪我はない?」


篠崎は片手に銃口に煙が上った拳銃を持ちこちらを覗いてきた。


「あぁ寿命が縮まったな。5年ぐらい」


人が二人も死んだ駅前は、驚く程に平常運動をしている。一人として悲鳴を上げず。流れる血に濡れまいとその場を離れて歩くばかりである。


そう、この日本。いやこの世界は数年前のある一件によって野良犬も喰わぬほど腐りきったのである。


気になることがございましたら質問をしてくださると幸いです。今後の改善点として、組み込ませていただきます。ご要望も可能な限り対応していきたいと思っておりますので、是非気兼ねなく送ってください。

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