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18 小さい人の家



 ひと月後。新しい自室の準備が完了し、引越し作業が始まっていた。


 侍女や侍従達が先程からせわしなくフィリアの前を行き来しているが何処にそんな量の荷物があったのか疑問で仕方ない。その上高価なものも少なくは無いようで丁寧に運び出されている。その様子から中々に時間がかかりそうで本日中に終わるのか心配になる。


 そして当の部屋の主はというと優雅にお茶をしてそれを見ているだけだ。


 本当は手伝おうとしたのだが「重いから」「危ないから」と断られた。しかし笑顔で魔法を使うから大丈夫と告げたら皆が苦い顔をして、遂にはミミから「邪魔になるので」とバッサリ告げられ窓際に促され今の状態になっている。


 ジトーっと皆を見つめるフィリアは視線を動かさずに傍らにて給仕するミミへ声をかけた。



 「ねぇミミ?やっぱりわたしがまほうでフワーっとはこんだほうがはやいとおもうの」


 「いえ。駄目です。邪魔なので」


 「・・ひとことおおいよね」



 ちなみにこのやりとりは四回目である。

 もうすでにミミは微動だにすらしない。


 確かに魔法を使えば早い。しかしそれは皆一丸で拒否だった。もちろん家人としての仕事を主人にやらせる訳にもいかないし、家人としての仕事を取られるのも問題だ。


 だが、皆そんなことより切実な考え。

 ただただ純粋にフィリアを信用していないのだ。


 何よりも由々しき問題だが仕方ない。もうすでに魔法のヤラカシは数え切れない程。その上死んだようになったフィリアを見たものも少なくはない。まさに自業自得だ。


 もちろん主従としての忠誠心はあるのだが。如何せん行動への信用は地に落ちていた。



 「ねぇミミ?」


 「駄目です」


 「・・こんどはくいぎみね」



 そんなやり取りをしながら引越しの様子を眺めているとマリアが部屋に帰ってきた。

 マリアは新しい部屋の最終チェックと運ばれるものの監修をしていたのだが大体は終わったのだろう。


 部屋に入ったマリアは真っ直ぐフィリアのもとに来た。



 「姫様。お部屋の方にご案内致します」



 フィリアは未だ部屋の荷物を運び出す家人を端目にマリアに抱き抱えられて新たな自室へと向かった。







 フィリアは入った瞬間言葉を飲んだ。


 扉を開けた先には今までの部屋のいったい何倍なのだと思うほどの広い一室。

 正直一般家庭の五、六人ならば不平不満も生れずに暮らせるのではと思える広さ。それも家具が入った状態でだ。

 前世の記憶の観光地などにあった貴族屋敷でもこんな広さは見たことがなかった。

 


 部屋の内装はフィリアにも要望を聞いてくれてはいた。もちろん采配はマリアが主導ではあったが、それでもフィリアの要望を十二分に叶えてくれていた。


 壁は白の土塗りだし所々の柱や壁の一部は黒い木目調。むき出しの柱木はないものの、何とも古民家風。しかしそこはマリアの采配もあったためだろう何とも品がよく庶民感は全くない。


 そして家具は壁一面を利用した本棚。其のそばには執務机やソファー、テーブルと大抵の物は整っていてそれら全てが木を基調としたデザインで統一されている。部屋にも大いにマッチしているし、みるからに豪華でありながら慎ましい。


 所々に緑も置いてくれたようだし、窓も多くて斜光が優しく部屋を照らしてくれている。




 フィリアにとっても部屋の大きさは予想外だったがそれ以外は期待以上で大満足の自室になったはずなのだが。


 その目は一点に怪訝な表情で注がれていた。


 部屋にある他の家具とは全く違う意象。金細工の骨組みは豪奢で優美。

 シーツは柔らかなシルクとレースで四辺はフリル。枕やクッションは同じくフリルだが色合いは色鮮やか。

 とどめは天上より吊るされた幾重もの透けたレースそれは所々フリルとなっている。


 キングサイズのベット。

 それもファンシーなベット。


 花や蝶を刺繍されたそのベットには妖精やお姫様がよく似合う。


 そして、それは当然の事ながら、完全にフィリアの趣味ではない。



 フィリアはツイッとマリアを見上げるがその表情はいかにも申し訳なさそう。抱き上げられた腕が優しく力を込めたのがさらなる証拠だ。


 マリアではない。


 ではだれが・・。というあたりでミミがベットと廊下で意識を行き来させている。

 部屋に入った瞬間は「素敵な部屋です」とウットリしていたのにベットを見てからこの様子。


 フィリアはそんなミミの意識の先を伺った。

 そこには三つの気配。


 似たような色の頭が三つ、廊下の影から覗いている。


 アーク、リーシャ、アラン。ピョコっと顔を見せた三人にため息が漏れた。

 アークとアランはともかくリーシャのセンスには問題があると思う。



 「ちぇんじ!!」


 「「はい!畏まりました!」」



 なんの異論もなく自身の主に従ったマリアとミミの即決に、きっと逆らえなかったんだろうなぁ、とフィリアは憐憫の思いを抱いてしまった。


 ちなみにその瞬間。自信に満ちていた三人の顔は絶望に歪み、三人並んで地に伏したがフィリアは完全無視を果たした。


 後に行われた言い訳では「女の子はお姫様に憧れるものだから」という弁明だった。そこでフィリアはリーシャの考えを理解しセンスを疑ったことは取り敢えず修正したが、アークとアランに関してはセンスを信用しないことにした。




 とにかく部屋はベットを除けば文句の付けようもない大満足の出来だ。そのベットも直ぐさま撤去され代わりに来たのは何とも部屋に誂えたような意象のベット。天蓋付きではあったが同じ天蓋でも先ほどのメルヘン仕様とは全く異なり何ともフィリア好みだ。


 それにしてもこの代えの迅速さ。やはりマリアはただ逆らえなかっただけであったのだろう。


 フィリアはそっと心の中でしばらくアークを無視することを決めたのだった。







 「まずは姫様。こちらに魔力をお流しください」



 そう言ってマリアに連れられたのは部屋の奥隅。そこには小さなテント。

 小さいと言っても、前世でも見慣れた一般的なテントサイズ。


 そしてマリアが指し示したのは、その入口。

 そこには、帳に貼り付けたられた鍵があった。



 「これ?」



 地面に下ろされたフィリアが触れたのはその鍵。

 マリアに聞いたつもりだったが帰ってきたのはミミの元気な返答だった。


 その鍵は黒曜石のようなもので出来ていたが、その鍵に対応する鍵穴はない。これでは鍵の役目を果たせない。

 不思議に思い、背後の侍女二人を見上げると笑みで促すだけで説明はない。不思議に首をかしげながらもフィリアは言われる通りに魔力を流した。


 すると紫色に発光し始めた鍵は、少しずつ端から金の砂状となってフィリアの右腕に伸びてきた。

 驚きにおののくよりも見惚れて、その光景を眺めるフィリア。


 その腕に細くなぞるように細い線が描かれていく。その線が手首を一周したあたりでその現象は収まり。残されたのはフィリアの手首に細い線だけ。


 フィリアはもう一度背後を見上げた。



 「これはラースモアに入る為の鍵です」



 マリアは屈んでフィリアの手首をなぞるとそう教えてくれた。



 「らーすもあ?かぎ?」


 「はい。高貴な方々はあまり本心を見せられないものです。なのでそういったものを吐き出せる心の部屋として隠し部屋を持ちます。そしてその部屋はたとえ側近や家族でも無断で入る事が許されません。そのため多くの貴族は魔石を用いた契約の術式でその部屋を施錠します。その魔術ならば登録された魔力以外では鍵があけられませんから。本来幼い女の子なら母親がその子の魔力の補助をするために母親も合鍵を持つのですが。姫様はもうすでに魔力を扱えるので鍵は姫様しか持ちません。合鍵もありません。なのでくれぐれも悪いことに使ってはだめですよ。そのときは覚悟してください」



 説明が最終的には説教に似た脅しとなったがフィリアはその不思議部屋に興奮していた。まるで自分専用の秘密基地みたいだと楽しくて仕方ない。



 「最近じゃぁ貴族のお家だけじゃなく一般の家庭でも心の部屋が広がってるんですよ。流石にひと部屋はアレなので、部屋の片隅に小さなテントを作って秘密基地みたいにするんです。それが『ラースモア』です。あまり広さもないので、小さい時分だけの物ですが。今では高貴な身分の方々にもそれが広まって、幼い子息子女には部屋よりもそちらのほうが人気なんですよ」



 フィリアはミミの情報に大きく共感した。

 それどころか部屋を一室与えられるよりもそっちのほうがロマンがあると多いに共感できる。



 「とにかくそちらのお部屋には今後、姫様の許可がないと私共も入れませんので何かを運び入れたり逆に出したり。掃除なども姫様立会いでお願い致します。とりあえず最低限の家具などは運び込んでありますが入用なものはお教えください。・・私とミミも姫様が望まぬ限りそのお部屋に入ることはありません。望まれたとしても躊躇するでしょう・・その部屋は姫様の特別な場所となります。大事になさってください」



 フィリアの興奮は収まっていた。なんだか見当違いに思えたのだ。そこはなんだかもっと特別で神聖なものなのだろうと感じたからだ。

 そしてふと思った。今回のような引越しなどそれこそ婚姻などで部屋を離れる場合や主が死んだ場合はどうするのだろうと。しかし返ってきたのは何とも言えない答え。



 「鍵を壊して外します」



 何とも豪快な答えだったが、そういう手段を取るしかないというのが防犯面においては大きな信用をおける。




 そしてフィリアはお茶を支度して待つというミミとマリアを後にテントに入った。


 そこは、二十畳はあろうかという程に広い一室。


 フィリアは口を開けて呆けた。

 思考停止。それも当然だろう。


 フィリアは意識を無理やり引き上げると、慌てて外に飛び出し、テントを再度視認した。

 そこにあるのはやはり小さなテント。疊み四畳もあれば事足りる大きさ。間違いない。


 それをしっかり確認してからフィリアは再度テントに足を踏み入れる。今度は慎重に。


 だがそこにあるのは先程とは何も変わらない。広い一室。


 明らかに物理法則を無視している現象。

 フィリアの混乱は当然の筈。だが、そこはフィリアだ。



 ―――ま、いっか



 早々に思考を投げ捨てた。




 フィリアは先ほどの部屋と比べてこれでも十分過ぎるくらいなんだが、としみじみ感じて自室の広さを思い出すが、取り敢えずその思いは置いておいた。


 テントの中は明るく。雰囲気や内装は先程迄の部屋と同じようにまとめられている。さすがはマリア。


 家具も雰囲気は同じだがさきほど見たものよりは少しだけ質素でフィリアには落ち着くもの。

 しかし家具などは必要最低限しかない。これはこれから自身で埋めていく為でフィリアには楽しみしかない。


 一室には大きな出窓がひとつ有り、そこは布張りのソファーと一体になっている。本を読むには最上の場所だろう。

 それ以外に窓はないが薄暗くもない。むしろ間接照明なのか木漏れ日のように光が部屋に満たされている。つくづくマリアのセンスには脱帽だ。



 それでもやはり物の少ない部屋。本棚はあるがそこには数冊しかないし、机はあってもペンや紙だけで必要最低限。

 マリアのことだから言われればすぐに準備できる支度は整っているのだろう。しかしそれを事前に置かないあたり、この部屋は些細であってもフィリアの意思が必ず反映される事が想像できる。本当にフィリアだけの特別な部屋となるのだろう。



 フィリアは欲しいもの必要なものの目算を始めた。大抵の物はマリアがもう準備してくれているだろう。一声かければすぐにでも揃うはずだ。


 しかし問題はフィリアという非常識の思考その権化。



 「まりあー」



 意気揚々。楽しげに弾みながら駆け寄るフィリアにマリアは表情を優しく綻ばした。一見天使なお姫様。普段からこの外見に皆騙されるが免疫はできない。



 「姫様。いかがでしたかお部屋は」


 「すてきでした。まりあありがとう」


 「勿体無きお言葉です」



 そう言ってマリアは微笑んだ。その瞳には愛らしいフィリアが楽しげなのが誇らしく嬉しく映った。

 そのフィリアは子供がその日あった事を語るように喜々として微笑ましい。

 何が必要かも含めて話すフィリアの言葉に静かに耳を傾けていた。

 だが、急転直下。フィリアという天使は非常識の塊であることを知らしめた。



 「あとね!あとね!きっちんがほしいの!!ちいさくてもいいの。ながしとこんろがちゃんとついてるやつ」


 「・・キッチン、ですか?」


 「うん!!」



 思わず聞き手になっていたのに疑問が溢れた。しかし当の本人は未だに弾むような天真爛漫さを笑顔で示しているが、もはやマリアには天使などには見えない。それでも愛らしさは勝ってフィリアに言葉を継げない。



 「あ、もちろん。ふらいぱんとかほうちょうとか、だいどころようひんもほしいわ!」



 そこではない。そこではないのだ。

 頭を抱える思いのマリア。ミミに至っては不憫な子を見る目だ。


 貴族令嬢の中には確かに料理やお菓子づくりを趣味にする者も少なくはない。

 しかし基本、貴族には専属の料理人がいてあくまで趣味でしかない。心の部屋とも呼ばれる場所にまでキッチンを作るような酔狂は聞いたことがない。

 それも齢1歳の幼女がなど意味がわからない。


 天才は非常識。

 フィリアもまた天才だの麒麟児だの言われてはいるが、それにしても意味がわからなかった。



 「・・姫様流石に・・それは・・」



 追いつかない思考に言葉も言いよどんだ形になってしまった。


 すると、



 「・・じゃぁじぶんでつくろうかな・・」



 不穏な呟きが愛らしい声でつぶやかれた。

 それにギョッとしたのはマリアとミミだけではない。引越しの作業を続けていた面々、皆だ。



 「ひ、姫さま!?だ、ダメです!!早まっちゃ」



 ミミの悲痛に「失礼な!」とむくれながらもなぜそんなに否定されているのかはわからないフィリア。

 諦めたように震えるため息をこぼしたマリア。



 「・・わかりました。お作り致しますので魔法を使うのはお辞めください」



 マリアの進言にも解せぬ思い満々のフィリアは頬を膨らませ腕を組んで納得いかないアピールをしているが可愛らしい姿にしか見えない。

 もちろんその場にその姿のフィリアを可愛いと思えるものはいなかったが・・。





 フィリアは魔法によって様々な物を作っていた。もちろん皆の知っていること。むしろマリアやミミを筆頭に実験台兼被害者としてだが。


 長い滑り台を雪で作ったら全長数十メートルの巨大絶叫遊具と化し、阿鼻叫喚の嵐。

 扇風機を作ったら暴風のあまり庭木が根っこから引き抜かれ飛ばされ、全家人での改修。

 トランポリンを作ったらミミが凍えて成層圏の美しさを語り、魂が抜けた。


 つまりはフィリアの魔法製造には全くの信用がない。むしろ危険度に関しての確信は間違いがないのである。


 しかも毎回フィリアには悪意がない。

 それどころか、いい事を思いつき実行したと思っている節がある。


 雪の日の娯楽。暑さを和らげたい。楽しそうだから。


 はたはた迷惑。その上最後のは理由も腹が立つ。


 とにかく家族と家人は満場一致でフィリアに魔法製造はさせないと決めていた。

 しかし本人には直接は伝えず、それとなーく気づかせようとしているが。鈍感さ此処に極まれりである。最近では結構ダイレクトにしているが本人には全く伝わっていなかった。



 「取り敢えず。姫様。お茶に致しましょう」



 もはや諦めたマリアはさらっと意識を切り替えた。

 しかしフィリアの可愛い仏頂面は変わらない。



 「本日は新作のデザートです」


 「わーい!」



 ちょろい。

 この姫様は非常にちょろかった。


 マリアの簡単な餌に一瞬でニパッと満面の笑みだ。


 そして案内される先は部屋の中じゃない。



 「ん?」



 両開きの白い二枚扉。そこを開くと眩しい程に陽の光が溢れていた。


 フィリアの自室から続いていたそこは広いテラス。

 しかしテラスと呼ぶにはあまりに広く、植物に溢れていた。



 「閣下からのもうひとつのプレゼントです。『空中庭園』だそうですよ」


 「わぁ」



 感慨の声が漏れるほどに素晴らしかった。


 この場所が城の何階に位置するのか、フィリアにはわからない。だが明らかに高層に部類される位置だろう。それなのにそこには『テラス』ではなく『ガーデン』が広がっているのだ。

 それも簡単なプランターに植えられたものとは違う。


 木漏れ日に視線を上げれば青々とした木々がさざめき。下を見れば青い芝生の中に道なりに石が埋められている。


 そしてなにより眼前に広がるは様々な色彩を放つ花畑だ。その中でもとりわけ目を引くのは他の種に比べて明らかに多く植えられた向日葵の群衆だ。



 「向日葵は姫様の花紋ですからね。この庭園ではメインで植えられていますよ。その上ここは温室となっていますので一年中向日葵が咲いているでしょう」



 その光景に見とれていたフィリアもマリアの説明にハッとなった。確かに今は冬。真冬だ。その証拠に視線を動かせばちらほらと白い雪が庭園の外を舞っている。


 フィリアは更に観察すると庭園を覆うように柱が通っているのに気づいた。そしてその全面に反射は少ないがガラスがはめ込まれている。

 


 「・・あったかい」


 「基本的には城内と同じで地下水をパイプに流してるそうです。ですが今の時期ですと地下から温泉を引いてるみたいです」



 この城は北国特有の寒さに対抗した技術がいくつかある。その内の一つがこれである。

 建物全体の壁や床の中には幾数ものパイプが張り巡らされそこに地下から組み上げた地下水や温水を流す。地下水は通年温度が一定のため凍結防止や室内温度の一定化に丁度いい。更に冬はそこに温水を流すと暖房器具へと変わる。


 そしてこの土地には少なくない数の地下水脈がありその中には温泉もあった。


 湯船に浸かる文化はあるがあくまで娯楽の一つで日常的ではなかった。もちろんフィリアのような上流階級と言われる人の中には毎日の入浴も珍しくない。

 しかしそんな人々の中にも温泉に日常的に浸かるものはいない。理由の大半は匂いやぬめりなどの日本人ならば気にしないものだったが、この地の人々には気にかかることだった。そのためこの地の人々にとって温泉に入るのは海に入るのと同じ娯楽の範疇。


 それでも温泉が重宝されるのはこの土地の厳しい冬故だった。要は暖房資源としての需要だ。もちろん先のように暖房としては当たり前だがその他にも農作物や工業。道の下にさえパイプを通して凍結防止策に利用されている。




 そんな事をマリアが説明するが、マリアの説明は本来フィリアぐらいの子供には意味のわからないものだ。フィリアを知るものの中にそれを不思議に思うものはいない。むしろ理解しているのが当たり前だとさえ思っている


 事実フィリアはなるほど、と唸るような仕草を見せている。

 本当にわかっているのか、などと不躾な疑念を抱くものは皆無だ。



 それどころか、温泉という言葉に若干浮かれたように口角を上げたフィリアに何やら嫌な予感しかしない・・。



 フィリアは天井を見上げガラスを挟むあの柱にも細いパイプが通っているのか、と観察を続けていた。


 そこで、ふと視線を落とすと樹木の近くに人影を見つけた。




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