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194 紙飛行機に送る花



 「ティー!シェリル!いきますよっ!!」


 「はい!!」


 「ひぇっ!?」


 「姫様!?」



 ルリア達を乗せた馬車を見えなくなるまで見送ると、フィリアは文字通り、飛び出した。


 爆発的な速度で飛び出したフィリアは、一瞬のうちにその場を去ると共にティーファとシェリルを連れ去った。

 意気揚々としたティーファはまだしも、シェリルに至っては誘拐に等しい。


 何の前触れもない突発的なフィリアの行動に、マリアやミミだけでなく、訓練された近衛の面々でさえも反応できなかった。


 だが、唐突なその一瞬の出来事に目を丸くさせ動けぬ他の家人に対して、フィリアの側近たちの動き出しは早かった。


 リーシャやフリードさえキョトンとしているのに、無言で頷き合い素早く駆け出す。



 「・・・・・・・フリード、お茶にしましょうか」


 「・・・・・そう、ですね」


 「んーんー」






 飛空艇から生み出される不規則な風が吹き荒ぶ。

 だが、そんな煩い程の風の音の中でも、船員たちの活気ある声は騒がしくも賑やかにこだましていた。


 出航間際。

 慣れた船員たちでさえ自然と、緊張と胸の高鳴りに、声も気持ちも高揚する。



 「エラルド様」



 そんな高鳴りの中に聞こえたのは、反して凪ぐような静かで穏やかな声。

 その呼び声に飛空挺に乗り込もうとしていたエラルドは振り向いた。


 そこにいたのはアンリ。

 大公家を見送る為、正装ではあるが、喪に服すアンリは煌びやかなものではなく、喪服にも似た暗いもの。


 だからこそ、その頭に飾られた華やかな髪飾りが、似つかわしくなく浮いている。



 アンリが飛空挺へとかけられた桟橋の前に立ち、エラルドと向かい合った。

 レオンハートの面々は少し離れた場所からその様子を眺めている。


 振り向いたエラルドに対しアンリは、淑女の礼とは違う、腰から曲げ、頭を深く下げた。



 「うちの人の旅立ちを助けていただき、心より・・感謝致しております」


 「・・・バレーヌフェザー当主としての役目だ。感謝されるような事は何もしていない」


 「存じております。・・しかし、うちの人にとって、エラルド様はもう一人の兄でもありました。・・・だからこそ、貴方に送って頂けたことは、格別の餞だったと思います」



 アンリの下げた頭を見つめる視界が滲んだ。



 その頭に飾られた髪飾り。それはエラルドがかつて、学生時代にゼウロスと彫金した物。

 若気の至りというにはあまりに凶悪で、当時、大人たちにこっぴどく叱られた、苦くも懐かしい思い出。


 ・・しかも、そのきっかけは、実にレオンハートらしいもので、弟の初恋を応援するためというものだった。


 そんな想いは、ちゃんと、アンリにとって初めての贈り物として届いていた。



 二人を見つめる者は離れていて、エラルドの細められた目に光るものに気づくことはない。


 ただ一人。

 アンリだけが静かにそのまま、顔を上げることなく、待っていた。











 騒がしくも、賑やかな船員たちの慌ただしさの中、少しの揺れと共に訪れる一瞬の浮遊感。

 飛空挺の甲板に立つルリアは、それを感じながらも気に止める様子もなく、欄干に寄りかかるようにして視線を投げていた。


 魔術障壁の効果はあるが、それでも撫でる程度の風は入り込みルリアの頬を撫で、髪を弄ぶ。


 ルリアが見つめる先には蒼く美しい城があった。

 先程まで自身がいたその城は、その外観だけでなく内装も・・そして、何よりそこに住まう人と雰囲気が、とても美しかったと感慨を思い出させた。


 見つめ続けるルリアの視線は徐々に下がり、見下ろすようになっても飽くことなく、動かぬ視線は眼下の蒼い城を見つめ続けていた。



 「ルリィ」



 後ろから聴き慣れたエラルドの声がルリアを呼んだ。

 しかし、ルリアは、意識こそ向けはするが、視線はそのまま、城を見つめていた。



 「楽しかったか?」



 その言葉に返すよりも先に、自然と笑みが溢れた。



 「はい。とても素敵な時間をいただきました」


 「それは、良かった」



 ルリアの返答と、その正直な表情に満足気に頷くエラルドは、そのままルリアと並ぶようにして欄干に手を置き、ルリアの視線の先、蒼の城を見つめた。


 チラリとだけ伺いみたエラルドの横顔。

 一見何も変わらぬ祖父の横顔だが、ルリアの紅玉の瞳にはエラルドの目元に残る魔力の残滓がしっかりと見て取れた。


 いつもならば、安易に治癒魔法を使えば自己治癒能力が下がるから使うなと、厳しく叱責するのがエラルドなのだが、その理由をあえて聞かず、ルリアは見て見ぬふりをした。


 祖父もこの地で何か大切な感慨を抱いたのだと、再びエラルドと同じ先に視線を戻し、遠ざかるその景色を見つめた。



 「地上より強大な魔力反応ありっ!!」



 その時、焦りの声が叫ばれ、船内が騒然とした。


 慌てふためくような騒がしさが生まれ、船員が剣呑な雰囲気で動き出す。

 流石はバレーヌフェザー大公家の船というところか、剣呑な様子で即座に臨戦態勢を整えていく。


 しかし、荒れたような騒がしさはどうあってもあり、ルリアは少し怯えたようにエラルドに縋り、その光景に戦々恐々とした。


 そんな中、エラルドだけは、平静な表情でその様子を眺めた後、再び地上へと視線を落とした。


 船長はいるが、この場で指揮を執るべきはエラルド。

 だが、そのエラルドは、眺めただけで、特に動く様子も見せない。



 「ルリィ」



 再び同じような穏やかな声の呼びかけにルリアは視線を向けた。

 するとエラルドは船外の先に指をさしていた。ルリアはその指の先を追うように視線を向けた。



 「閣下っ!!臨戦態勢をとりますっ、指揮を・・・あれはなんだ」



 緊急事態にエラルドを呼びに来たのだろう船員の一人だが、エラルドとルリアの視線を追って思わず、言葉を漏らした。



 「・・フィル」



 空を飛ぶ、白い紙片。


 それは、フィリアが見せてくれた『紙飛行機』。


 漂うように空を流れ、迷うことなくこちらに向かって飛んでくる。

 そしてそのままルリアの横を抜けると旋回するように方向を変え、船上を自由に舞う。


 そんな紙飛行機を眺めながらエラルドはルリアの頭に手を置いた。



 「・・ルリィ。お前の友人は、随分と『レオンハート』らしいお嬢さんだな」











 ワクワクを全面に、空を見上げるフィリア。

 憧憬に瞳を輝かせ見つめる先には、ゆっくりと高度を上げていく飛空艇があった。



 「・・姫様は何をなさっているんでしょう?」


 「さぁ・・」



 リュースを筆頭に庭師たちは、庭園の一角で何やら始めたフィリアを不安そうに見つめていた。



 「マリア様たちは何処にいらっしゃるのでしょう?」


 「・・・撒いてきたんだろ」


 「またですか・・」


 「またですね・・」



 フィリアは遠く空に浮かぶ飛空挺を見上げ、手に持った紙飛行機を掲げると、手首だけで放るように送り出す。

 軽い動きから空へと放たれた紙飛行機は、誘われるように風に乗り飛んでいく。


 それを見送り、フィリアは高らかに声を上げた。



 「まりょくじゅうてん!!」



 フィリアの声と共に振られた杖に答えるように、庭園に並んだ数十の大砲が魔力を呼応させるように光を纏った。

 その周りをせっせと動き回るティーファとシェリル。



 「何ですかっこの魔力は!?・・・って、姫様!発見!!」



 周囲にむせ返る程の魔力が生まれると、人とは思えぬ動きを見せその場に現れたアンネ。


 手分けをして城中を捜索中だったアンネは異常な魔力の発生にすぐさま駆けつけたのだろうが、そこには目的の逃亡犯もいた。



 「おい。ティーファ」


 「ん?なに?とと」



 目の前を通った我が娘にリュースは声をかけた。

 そんなリュースの声にもキョトンと首を傾げたティーファ。



 「姫様は何をしようとしてんだ?」


 「うちあげだよ?」



 当然の事を聞かれたかのように答えたティーファだが、リュースには伝わらない。それはそこに集まった庭師達も同様で首を傾げた。

 だが唯一人。その会話を耳に掠めたアンネだけは一瞬で顔を青褪めさせた。



 「姫さ――――」


 「はなてぇぇぇぇぇえっぇぇぇぇ!!」



 あまりの魔力の高まりに庭園には人が集まって来た。

 フィリアを捜索していた面々も、虫の知らせから迷いなくやって来た。


 しかし、そんな彼らが庭園に足を踏み入れようとした瞬間。

 彼らを迎えたのは鼓膜を破るような爆裂音と一瞬の閃光と火花。










 激しい閃光と爆音、そして身体に響く衝撃。



 「攻撃っ!!攻撃あ、り・・?・・・・・花火?」



 色鮮やかな光の雨が、飛行船を飲み込んでいた。


 急な衝撃に慌てふためき、焦りを見せた船員たちだが、目の前の光景にぽかんと口を開けて思考が停止した。



 衝撃は一度ではなく断続的に響き、空気を震わせる。

 その度に、飛空挺を包む込む火花が咲き誇る。


 その火花は、星星の煌きのように儚くも眩く。

 まるで、星空の中心にいるような錯覚を覚えさせる。



 「フィル・・・これは『プラネタリウム』じゃないと思いますよ」



 眩しい上に煩い。

 しかし、それ以上に花火をその中心で見れるのは、滅多にない幻想的な光景でもあった。


 呆れと共に苦笑を漏らしながらも、ルリアはこの煌びやかな光景をその紅玉の瞳にしっかりと焼き付けていた。



 「ルリィ、この世界はどうだ?美しいか?」



 轟音の中、その間をくぐり抜け呟かれたエラルドの問いはルリアの耳に届いた。



 「はい。・・涙が出そうなほどに」



 生まれて初めてといってもいいほどに、見た世界は美しいものばかりだった。


 そしてそれは、フィリアがくれたものばかり。

 だからこそ、この先フィリアが見せてくれるものが楽しみで仕方ない。


 この先、数えられないほどの美しい景色を、世界を目にするだろう。

 だが、きっとあの小さな友人は、そのどれよりも美しい光景を見せてくれるだろう。


 その証拠に、この短い期間でフィリアが見せてくれたものは、一生忘れられぬ、絶景としてその心に焼き付いているのだから。


 しかし、だからこそ、思う。



 「フィル。貴女の目にはどんな風に見えているのでしょうか」



 自分とは違う。だが自分と同じように、特別な目を持つ彼女の見る景色。


 ルリアの『診眼』にも特異に映ったフィリアの眼・・・そこに映るのはどんな景色なのだろう。



 「出航だ!!」



 エラルドの号令に飛空挺は進み出す。


 満開の花火の中を進む飛空艇。

 彼らの航行を祝福するような煌きは絶えることなく飛空挺を見送る。


 先程まで怯えるように緊張を滲ませていた船員たちも意気揚々と活気を増していた。






 その頃、地上では新作の拘束具に問題児が捕らえられていた。




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