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167 三人寄れば・・天災



 夜空を流れる・・・どころか、夜空が見えぬほど視界を覆い妨げる巨大な青白い星。


 尾を引いているのにその動きは緩徐で、ぱっと見には動いていないようにさえ見える。

 ただ圧力は確かで、耳鳴りのような音と重く地響きのような音が身体に響く。



 「何・・あれ」


 「・・何だろな」



 ゼウスの能天気な返答に、少女はキッと睨んだ。

 だが、そこにあったゼウスの表情は少女を鹹かったものではなく、少女の思い同様、理解できず唖然としたもの。

 明らかに、ゼウスでさえ、想定外だった様子。



 「いやいや、お前が指示したんだろ」


 「・・あぁ。・・確かに、したのは私だ。・・伝承では、彗星が特に印象的に描かれていて、その話をしたら、フィーが出来ると言っていたから、頼みはした。・・だが、これ程とは想像もできないだろ」



 煌々と唸る巨星。そのまま降れば街一つ圧潰すような大きさ。

 青白い光を炎のように揺らめかせ纏い、幻想的でさあある。



 「印象的だったと言っても、精々夜空の一点に煌くものだと思うじゃないか・・」



 一点どころか、寧ろ、その空が見えないほどに視界を覆う岩塊・・と言うより山、もしくは小島。



 「ギィ!?」


 「げほっ、げほっ」



 少女は腕の中に抱いたギィの異変に悲鳴を上げた。


 物理的な肉体を持たない精霊。当然、体液や血液もない。

 しかし、水面に赤色が滲んで広がっていた。



 「確証があったわけではないが・・上手くいったみたいだな」


 「こんだけ大掛かりに準備しといて、確証もないとは・・お前らしいというか、レオンハートらしいというか」


 「・・・とは言っても、完全ではないか」



 滲んだ赤色は湖の水に完全に溶ける前に光の粒子となって霧散していく。

 


 「如何せん、フィーは『錯覚させればいい』なんて言ってたが、そもそも精霊は催眠や幻惑の類の耐性が強いからな」



 だからこそ、その耐性を極限まで削ぐため、弱らせる策を練っていたゼウス。

 だが、そんな策を弄する前に満身創痍となっているギィ。


 ゼウスは再度、空を見つめた。

 視界を妨げる巨星を超え、その先にある空を。


 正直、策といっても少なくないリスクがあるものばかり。

 その上、これほどまでに、追い込めるような確証もなかった。


 それ故これは、千載一遇の好機ではある。

 しかし、同時に得体の知れない何かの存在を感じることになった。



 「獅子紋(クリティ)が三つ上がっていたが・・」


 「あぁ。三人がかりの魔術だろうな」


 「・・ちなみに、その三人って」



 リュースの問いにゼウスは敢えて答えず笑みを返した。

 それだけで十分に伝わる。


 自身の娘が一歩一歩着実に何かを踏み外しつつある。



 「・・友達は選べと教えるべきだったな」


 「おい、それは誰のことだ」


 「実体験だよ!」



 ゴッ



 その時、二人の目の前に炎が迫った。

 とは言え、その炎が届くことはない。


 二人を守るは碧の茨で作られた氷の壁・・だが、それにさえ届かず、燻るように炎は勢いを失くし消えた。



 「なっ!?」



 二人に向け、ギィを抱える腕とは逆の腕を掲げる少女は、何が起きたのかも分からず驚きの声を上げた。


 そんな少女を冷静に見やるゼウス。

 それは、自信を守る氷の壁がある故の余裕、というだけではなかった。



 「一体何っ――――がっ!?」



 少女が再度、腕を赤く滾らせ、二人に向け掌を向けた――――が、その腕は破裂するように弾けた。


 少女は再び視線を空に向けた。

 そこにある、それこそが答え。



 「フィーからは、ちょっと息苦しくなるかもしれないから気をつけろ、と言われてはいたが・・」


 「・・おい。・・全然ちょっとに見えないぞ」



 少女の腕に抱かれたギィは青筋を立てて声にならない声を唸るように叫んでいる。

 何であれば、満身創痍の傷よりもよっぽど苦悶に歪んだ表情をしている。



 「リーシャ。大丈夫か?」


 「はい!・・ですが、長くは・・もたないかも・・」


 「ちょっと!?魔力が安定しないんだけど!?」



 リーシャを始め、レオンハートが誇る魔術師たちが顔を歪め、額に汗をかき、歯を食いしばっている。

 叫ぶジョディも同様。声を荒らげてもその繊細な魔力操作を手放す余裕はない。



 「・・きばれ。聞いていたより、この毒は厄介だぞ」


 「毒!?」



 『・・こっちなら・・まそにもえいきょうあるかなぁ・・・』



 ゼウスはリュースの狼狽を無視して、誰にも聞かれていないと思って呟いていたその元凶の不穏な言葉を思い出し、遠い目をした。



 「・・魔障の魔術なんて聞いてないぞ・・フィー」











 「・・・妨害や阻害(ジャミング)でも、解除や破棄(キャンセル)でもなく、魔障ですか」



 マリアの唖然とした呟きが無情に響く。


 そんなマリアに対して、フィリアはキャッキャと空の巨大な星を『写真』に修める。

 アングルを変え、ポーズを変え・・・って、え?周囲を回るその球体にも撮影機能あんの?



 魔障――――フィリアの前世にはなかった『魔素』と呼ばれる、『力』もしくは『エネルギー』、文字通り、その『障り』。


 人のみならず、命あるこの世界の生物にとって、空気同様、生命を維持するのに必須な『魔素』。

 『魔障』とはつまりはそのまま、その元素に影響するもの。


 魔術や魔力操作はもちろん、体調にも影響を与えるもの。

 それも『障り』というだけあって、その影響は決して良いものではない。

 乱し、妨げ、・・蝕む。まるで病のような、まさに『障り』。



 「これからは、()()()の術式も検閲しなけダメね・・」


 「・・申し訳ございません。お手数をおかけいたします」



 マーリンの言う『あの娘』が誰なのかを素早く察し、マリアは頭を下げた。

 いつもならば、そんな事恐れ多いと全力で遠慮するマリアだが、こんなものを目にしては縋る他ない。



 「それと・・フィー。貴女まだメアリィに会ったことないのよね?」


 「はい、まだ・・・はやくあいたいです」



 撮影会に触れることは一切なく、マーリンはフィリアに問う。

 フィリアはどんな態勢で撮影していたのか・・、翻りながら振り向きマーリンに答えると、同時に少し俯いた。



 「手紙とか電話もした事ないのよね?」


 「はっ!!そのてがありました!!」


 「いや・・ダメよ?」


 「はい、ダメです」



 マーリンの問いに、不穏な閃きを見せたフィリアだが、即座にマーリンのみならずマリアからも釘をさされ、更には、その場の面々の深い頷きに、頬を膨らませ口を尖らせた。



 「・・となると、フィーの魔法を正確に伝えた者が居るわ」


 「・・ティーファ、ですか」


 「やっぱりそうよね・・」



 フィリアとメアリィ、その間に立ち、並ぶとしたら唯一人。

 マーリンとマリアは視線を交わすとどちらともなく溜息を零した。



 「ティーのでんごんはせいかくなんですよ!」


 「えぇ・・そのようね・・困ったことに・・」



 周りの気持ちがこれっぽっちも伝わっていないフィリアは、胸を張るように、自慢げに、親友を誇った。



 「フィーの規格外の魔法。それを正確に、先入観や常識に囚われず伝えられるティーファ。そして、そんな規格外で非常識な事象を術式として再現出来てしまうメアリィ。・・偏った奇跡が、奇しくも噛み合ってしまった結果、災厄を生み出してしまったのね」



 何処か遠くを見つめ、遂には『災厄』と言い切ったマーリン。


 三者三様の才能あふれる幼女たち。

 優秀であると同時に、『混ぜるな危険』の問題児ども。


 マリアはよく知っているが故に、自身の娘もその中に含まれる事に、意識が遠のくようだった。



 「ところでフィー。その球体からただならぬ魔力を感じるのだけれど・・・」


 「ふふん」


 「・・まさか・・月盃(マナグレイル)じゃ、ないわよね?」


 「せいかいです!!」


 「フィー・・・増幅装置の意味わかってる?」



 月盃(マナグレイル)。それは魔力の外部バッテリーや予備電池。

 そして、増幅装置とは、名の通り、魔力を増幅させる装置。


 魔導王(レオンハート)が誇る『(ティア)』の外部バッテリー。

 あくまで予備であり、本体よりは少なくはあるが、『(ティア)』の魔力を補えるだけの魔力量。

 それが増幅装置の中にある。それもゼウス監修フィリア制作の。


 浮かぶブリキの天体は六つ。

 その中、全てに月盃(マナグレイル)があるとしたら・・・一つ増えてやがる。


 素直に喜べない成長が垣間見える。



 「それに、その背中のは何?」


 「・・・」



 急に黙秘権を行使しだしたフィリア。


 その背には白い小さな飾り・・・というか羽。

 デフォルメされた、小さな『天使の羽』。


 おもちゃか、飾りのようだが、フィリアの感情に反応して、揺れ動く。


 そして、それはフィリアの様子から意図したものでないのが確かだった。



 「前のものは荘厳でしたが、これはこれでよく似合っておりおりますよ」


 「姫さまは、可愛い天使ですから」


 「だって」


 「やめてぇーーーーー!!」



 宙に浮いた状態で蹲るフィリアだが、その丸まった背には可愛らしい羽がぴょこぴょこと動き、その悲愴はどうにも伝わらない。



 「もうっ!!いくよ!!」


 「え?・・行くって?」



 自棄になったように、話題を逸らしたように、フィリアは起き上がり、振り返ると力強く宣言した。



 「もちろん。コンサートに」


 「は?」



 不敵に笑ったフィリアに、不穏なものを感じ、表情が引きつる。



 「シェリル!!」


 「は、はいぃー!!」



 フィリアの声にシェリルは再び即座に反応する。

 まさか二度もシェリルがフィリアの命を受けているなどと思わず、またしても反応が遅れた。


 シェリルはテラスにまで続く絨毯を引き剥がした。

 打たれていた釘はその余波で弾けるように抜け、余波が絨毯全部に伝わる。


 当然、テラスにいた面々はその絨毯の上に居た為、態勢を崩した。

 だが、倒れるよりも前に絨毯の方からバランスを崩した身体を迎えに行く。


 まるで生き物のように波打ち動く絨毯。


 少しずつ地面を離れ、浮き上がる。


 その理由など考えるまでもない。



 「じゃぁいきます!!」


 「ちょ、まっ――――」



 フィリアが絨毯に降り立つと同時に、嬉々としたフィリアの声が響く。


 これから何が起こるかなど想像に容易い。

 皆一斉に絨毯にしがみつき、流石のマーリンでさえ顔を青ざめさせて声をかける。



 だが、その声と身体は、ソニックムーブと共に連れ去られた。


 ぱっと見、ゼウスの暴走さえ超える速度。

 悲鳴さえ遠く、気のせいかと思える。・・・複数聞こえるから多分気のせいではなかろうが。





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