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13 確かな血筋



 歯を震わせ、白い息が漏れる貴族や魔術師たちは、パキパキという音と共に肌や服に霜が広がっていく。



 十人ほどが円陣を組むようにして杖をその中央へと向けている。

 杖の先からは青い魔力が放たれ、円形の小さなドームが形成されている。


 ドームの中はまるで別世界。


 氷樹が乱立し吹雪が嵐雪する。青いドームはなんとかそれを押し留る結界のようだが、影響は少しずつ現れている。

 冷気が溢れ漏れ、結界とそれを作っている十人ほどの者達を確実に侵食するように凍らせ始めている。


 その原因。十人がかりでさえ抑えきれない元凶はドームの中。


 凍える様子とは正反対に燃え盛る怒りを瞳に宿し、体中から陽炎を溢れさせる少女。


 清廉で美しい深窓の令嬢。

 本来ならば、そんな表現が似合うはずの少女。

 


 「リ、リーシャ様、ぉ、お怒りを、お沈め、くだ、さい」






 重厚で威厳溢れる大砲。

 時代遅れではあるがその装飾は煌びやかで調度品としては申し分ない。貴重な調度品であるため手入れも行き届いており未だに使用可能である。


 しかし骨董品な事に変わりはない前時代のこの兵器は魔力を多分に消費する。

 並みの魔術師であれば数人がかりでしか扱えない非効率な骨董品。『並みの』であれば・・。


 だが、魔術師の頂点と言われるレオンハートの者であればお釣りが来る。

 しかも威力はお墨付き。


 使い回し良くはないが、一発打つくらいならばなんの問題もない。


 そんな危険物の銃口が、何故か赤紫の光を蓄え装填完了している。


 家人も来客も関係なしに、その大砲と、その元凶を必死の形相で取り押さえている。

 しかしそれも身分から抵抗を許してしまう程度のもの。


 それでも優しくはないが、僅かな隙でその災厄は大きな咆哮を轟かす事だろう。


 自身の愛を無碍にされたと大の大人たちが苦戦するほどに抗う少年。

 甘いマスクとスイーツのような甘言。優しくて物腰も柔らかい上に聡明。

 理想の紳士とさえも云われる少年。


 

 「ちょっ!?フリード様!!何しようとしてるんですか!?」






 幾人もの騎士たちが一歩も動けずのどを鳴らす剣撃と魔術の応酬。

 ハイロンドが額に汗を滲ませるが明らかに先日のフィリアとの試合よりも動きが一段と上である。

 あの時のようなハンデはない。目の前の相手は正直それを必要としない強者だ。

 それでも本来は余裕があり実力ではまだまだ負けるつもりはない。


 そのはずなのだがハイロンドに余裕はない。先日の件とは違い愛剣を構え魔術まで行使している。少し指向を変えれば難なく終わるはず。


 だが、それができない。


 速くはあるが唸るほどではない。しかしながらしなるような動きから繰り出される剣撃は重く剣閃もしなやか。そこに織り交ぜられる魔術も的確な実用をしている。まだ幼い少年には過多な技量。


 隙を突くのは難しく並みの騎士ではむしろハイロンドの邪魔になる。

 普段以上。いやその数倍以上の実力を発揮している少年。


 少年は覚めた眼差しをハイロンドの先へと定めたまま、その上で冷静に最善で実直な攻撃を紡いでいた。


 社交デビューはまだだがその快活で分け隔てのない愛嬌から友人も多い少年。



 「・・アラン様すげぇ。あ、俺もアラン様に一口賭ける!」






 ・・・子供たちでこれである。


 才能に恵まれているのはよくわかるが、与える先を神様は見誤ったのではないかと本気で疑いたくなってしまう。






 そしてレオンハートには、当然、更にこじらせた者たちがいる。

 それは子供たちの暴走に輪をかけた迷惑連中。



 「ゼウス元帥閣下!なに殲滅魔術式を構築し始めてるんですか!!国が滅びますよ!?即刻やめてください!・・聞いてます!?ねっお願いだから!やめて!お願い!!」



 「ひ、ひ、怯むな!ま、まだ30人程度だ!!マーリン師は戦闘は専門外だ!!このまま攻撃を緩めるな!!・・・てか、そうだよ、専門外なのに・・・うぅ」



 「ま、待て。アーク。話し合おう。なっ?お願いだから。なっ?と、とりあえずこの首元の剣を外してくれたら嬉しいなーって。ね?・・・痛っ!?少し切れてる!ねっ!?切れてるから!?」



 「我が命を捧げ此処に天上の灯をッ!?がっ!?・・・」


 「はーい。おじいちゃーん戦術級の魔術なんて危ないですよー」




 ・・・・・。

 本当にむちゃくちゃなレオンハートの大人衆。

 子供達の暴走が何故か可愛く思える程だ。


 ちなみに殲滅魔術や戦術級とは主に国家間の戦争に用いられる大規模魔術。

 その行使には魔術師が百人規模で行う程の魔術。それを単体で行うとすれば膨大な魔力を有した者でさえ命を対価にする程の対価が必要である。


 それを悩むことなく行使しようとしたのはゼウスと白髪の老爺。


 白髪の老爺。彼こそが先代レオンハート大公爵。

 ジキルド・ディーニ・レオンハート。


 アークの父。つまりはフィリアの祖父。

 そしてまごう事なきレオンハート。つまりは家族ラブ。



 そんなジキルドの暴走はアンリによる首筋への手刀一撃であっけなく阻止された。

 アンリ自身はいつもと変わらない温厚な雰囲気のままそれを行っている。



 そしてアンリの対処に学びを得たのはリリア。


 アンリもまたと嫁いできた身。家族愛は深いが常識の範疇。

 だからこそリリアは公私共にアンリを自身の規範としている。


 リリアは自身の諌めるべき相手を見た。

 そこには男児の父親に剣を突き立てる愚夫の姿があった。


 ため息が漏れる。






 冷え冷えとした冷気を纏ったアーク。

 例えなどではなく本当の冷気。実際アークの周りは空気が冷やされ僅かな雪が舞っている。


 しかもそれとは反対に目は溶岩のごとく熱を放っている。

 そのさまはリーシャによく似ているが静けさを装ったように暴発させていない事が練度を感じさせる。


 そんな男に剣を突きつけられている立場とは、どれほどの恐怖か・・。



 「ま、ま、待って!?本当に!本当に待って!!怖いから!マジで怖いから!血!血出てるから!!」


 「・・・」


 「ねぇ!?せめて無言はやめて!?怖いよ!?」


 「うるさい。逝ね」


 「怖っ!」



 そのままアークは剣に力を込めた。



 ゴッ



 が、その瞬間アークの体が横に吹っ飛び大きな音と共に壁へと突っ込んだ。



 「ふぅ・・ありがとうリリー。ホント死ぬかと思った・・」



 滲んでいた冷や汗を拭い大仰に息を吐く男はリリアに向け顔を歪めて、心からの感謝を述べた。


 視線の先。リリアは片手を男の方へと向けていた。

 その掌からは硝煙のように霞が上がっており。その手を軽く払うようにして下げると膝の上の愛娘をなでた。


 しかしアンリを手本にしたとは・・果たして、正しかったのだろうか。

 




 「・・あ、あの出来れば。あれらもどうにかしてほしんだけど・・・」



 腰を低くリリアに縋る表情をみせる男は震えるような声で指をさした。

 その訴えにリリアはその方向を一瞥すると直ぐに視線をフィリアへと戻した。



 「あの人たちはお兄様でもなんとかできますでしょ?寧ろ幼馴染な上に今ではお義兄様の腹心なのですからちゃんと諌めてください。陛下」



 そこには意識を失った多くの人間が山のように積まれ、それを囲む者たちも満身創痍で戦闘態勢。

 死屍累々の頂上でマーリンは腕を組み、メガネを押し上げながら仁王立ちしている。


 その傍らでは幾人もの男たちが腕に腰にと纏わり付くゼウスがいる。

 当のゼウスはそんな男たちをまるで障害とはせず、複雑な魔術式を構築している。

 男たちの必死の形相と悲鳴に近い嘆願をみるに全力ではあるのだろうがまるで無力でしかない。



 この二人もアークと同じく子供たちとは違い力の暴走は一見して見えないのが怖い。ただその状況の末だけが恐ろしい。


 一貫して同じなのは思考の暴走。

 本当に迷惑極まりない。



 「そうなんだけどさぁ・・・」



 肩を落として悲壮感を漂わす男。

 腰が低く頼りない男。

 リリアからの驚きの事実。


 この男こそが、この国の最高権力者。

 ルネージュ国王陛下。ローレン・ルミ・キヌートス


 そしてリリアの兄でもある。



 つまりはリリアもまた、『元』がつくが一国の姫であるということ。

 確かに威厳のような風格のようなものはあった。


 しかしそれに比べ、この王は大丈夫だろうか?






 それにしても彼が国王ということは、フィリアが殺気全開で臨戦態勢を向けるこの男児。

 そしてその男児を膝に抱えるローズブロンドの美しい髪を編み込み結い上げている女性。


 云うもがなお妃様と王子様であろう。



 美しく穏やかな国母アリス。

 困ったように笑うアリスの膝の上で本を抱く第二王子クラーワ。



 「ほらクラーワ?女の子を泣かしては駄目ですよ。ちゃんとごめんなさいをして返しなさい?」



 優しく問いかけるアリスだがその顔には困惑にも似た焦りが浮かんでいる。


 それもその筈。

 周りのレオンハートの暴走こそリリアの気に止めない様子から恐れる必要はないが、目の前で目いっぱいに涙を溜めている幼女は別。


 落ち着いた様子に見えるリリアがフィリアを宥める事だけにおいては、気を張り続けている。


 その上目の前で繰り広げられている大人から子供まで例外のない化物レオンハート一族。


 その末姫。確かな血の繋がり。

 


 そして、何よりも目の前の事象。


 異常な魔力が溢れ、息苦しいほどに空気が重い。

 魔力暴走の確かな兆候として目の色が変わっている上に、その変化は見たこともない。


 フィリアの瞳は虹色に変色して輪郭がぼやけるほどに揺らめいている。


 その様子は異常。


 ひと目で分かるほどに怒髪天の表情からも、いつ爆発してもおかしくない。

 それも先から暴れるレオンハートの面々から被害を軽視などできない。

 しかもそれはきっと想定に違わぬ、要らない期待を易易と叶えてしまうだろう。




 そもそもこうなったのは何故だっただろうか。




 大体の来客からの挨拶は済み。各々思い思いに過ごし始めた頃。


 フィリアには家族たちから、ウザイくらいの絡みとプレゼント攻勢が行われたがフリードから送られた本に没頭するフィリアはなんの反応も示さずホクホクと本を読み続けていた。


 そこに国王陛下一行が到着した。


 先程までとは違いレオンハートの者たちが伺う形での祝辞と挨拶。先頃フィリアより一足先に1歳になったクラーワへの祝いの言葉や返礼もあった。


 本当に和やかに恙無く進んでいた筈だった。


 アークはその時、まだ威厳のあったローエンと親しげに談笑し更には激励までされアークの方が恐縮していたし、リリアもまた兄と義姉、そして甥に会えた嬉しさを持って楽しげに談笑していた。


 兄弟たちも顔見知りの来客たちと談笑していたり、フリードとリーシャはそれぞれ異性の同年代から逃げ回っていたりした。


 祖父祖母叔父叔母も同様に和やか。

 若干マーリンに対しての騎士たちの態度は過剰な上官敬意にも見えたが、それは置いておこう。



 そんな恙無さに影が指したのはフィリアの責任もあると思う。


 本に夢中のフィリアは挨拶も王族来客も完全無視だった。


 リリアは諌めようとしたがアリスが容認してしまった為、その手からは本が奪われることはなかった。

 故にそのまま膝に抱く形でフィリアはリリアの膝で本を読み続けていた。


 アリスもまたリリアの隣で同じようにクラーワを膝の上に載せ座っていた。時たまアリスはフィリアの頭を撫でたがそれにさえ無反応。


 そんなフィリアをジーッと見つめていたのがクラーワだった。


 何が気にかかったのか。

 抱き上げられても撫でられても声をかけられても反応を示さない様子にか。

 そんなさまなのに嬉々とした様子で読みふけっていたからか。

 はたまた楽しげに読まれる本そのものにか。


 とにかくクラーワはフィリアに気を向けていた。


 その時、リリアが再びフィリアの頭を撫でるのに近づいた時だった。


 「あっ」という幼い声が小さく漏れた。

 フィリアの腕から本が抜き取られのはその瞬間だった。



 フィリアは愚か誰もその原因はわからない。

 なにしろクラーワはフィリアをジッと無表情で見つめてはいても、腕に抱えられた本には一瞥もくれていない。



 ―――ホント子供は何を考えているのかわからない!!



 などとこの場で一番の幼齢な女児は思ったが、今では思考放棄の癇癪寸前だ。


 つまりは目の前の幼い王子に宝物が奪われたのだ。



 そしてこの親子の得意技なのか。アークとリーシャがそうであるようにフィリアもまた全身から冷気を発していた。



 アリスとリリアの茶器がカチャカチャと音を立てながらテーブルから浮かび上がりその中身は小さな水泡となってカップを離れ始めた。


 その様子を端目に捉えたリリアは嘆息をこぼした。アリスもそんなリリアに気づいたようで雰囲気をガラリと変え厳しい母の眼差しに変えた。


 そして問答無用の流れでクラーワの手から本を取り上げた。


 クラーワは不意をつかれた様子で目を丸くするが、直ぐにその先を目で追ってアリスの。母の厳しい視線とかち合った。


 フィリアも目の前の出来事にキョトンとした。途端に浮き上がっていた茶器は音を立て着陸して僅かに中身を零した。

 放たれていた冷気も霧散し目の色も元の蒼眼へと戻っている。


 そしてそれと同時に目の前のアリス以上に自身にとっての不穏な空気を感じ視線を上げた。


 そこには「お説教しますよ」と物語るリリアの目が自身に向いていた。


 背筋を冷気が撫でた。



 「クラーワ。人の物を勝手に取り上げるなんてダメなことです。そのうえ女の子を泣かせるなんて最低のことです」


 「フィー。大事なものなのはわかります。ですがだからといって手を挙げたり相手を傷つけようとするのはいけないことでしょう?あなたならわかりますね?」



 幼い二人は互いの母親から懇懇と窘められている。

 俯き肩を落とす二人。


 ・・だがフィリアは自称なりにもアラサーだったはずなのにクラーワと同じ様子なのはどうなのだろう。



 「フィリアちゃん。ごめんなさいね。大事なものだったのよね」



 アリスは優しい表情に戻ってフィリアに微笑むと本を差し出した。フィリアはそれをうつむき気味に恐る恐る受け取った。



 「あいあとお、ごじゃいましゅ」



 小さく会釈を返し。そして手元に戻ってきた宝物に安堵が漏れ、堪えていた涙が溢れた。

 それでも笑みが溢れ慈しむように胸に抱きしめた。


 そんなフィリアに困ったように苦笑しながらもリリアは優しく頭を撫でた。

 それに反応したフィリアは、無言でリリアの首に腕を回し、肩口に顔を埋めてグリグリとした。


 

 「ほら。クラーワもちゃんとフィリアちゃんにごめんなさいしなさい」


 「・・・ごめんなしゃい・・・」

 


 いかにも不服な謝罪にアリスも困った様子だ。



 「ほら。フィーも」


 「・・・・・」



 リリアの肩に顔を埋めたまま無視を決め込んだ様子のフィリアにリリアも同じ様に困った様子だ。

 そんな幼児たちの様子に二人の母は目での返礼と謝罪を示しあったが、リリアの耳元にはボソリとした小さな呟きが聞こえた。



 「・・ごめんなしゃい」



 その謝罪はなんだかクラーワに向けたものに聞こえず、リリアとアリスへの労いの色合いを持っていた。そのことに気づかぬ母ではない。


 呆れたような表情をしながら、それでもフィリアを優しく抱き上げ背をさすってくれた。

 フィリアはその返答替わりに更に腕に力を込めた。


 困った子だ、と溜め息を零したリリアはアリスに一言断り、フィリアを抱えたまま席を立った。



 ゆっくりと優雅に、しかし迷いなく、真っ直ぐに向かうのは会場からつながるバルコニー。






 「フィー見てごらん。きれいな夜空よ」

 


 フィリアは肩口から僅かに視線を上げた。


 そこには満天の星空。

 余計な明かりのない夜空には煌々とした星星が鮮明に煌めいていた。


 空が近く広い。


 極彩色の煌きは手を伸ばせば届きそうで、でも小さな手には収まりきらない。



 「フィーのその本の大半は、この土地で描かれたのよ。この土地の星の美しさは世界に誇るものなのよ。しかも・・・あれを見てごらん」



 そう言ってリリアは少し体を傾けた。それはフィリアの見やすいように。

 おかげでフィリアの目には真っ直ぐ飛び込んできた。

 

 美しい天蓋。


 それは、上だけではなく下にも広がっている。


 360度、満天の星空。

 いつか見たプラネタリウムの完全なる上位互換。



 まるでこの都市まるごと宇宙の中に浮かんでいるような光景。



 「美しいでしょ?その本も綺麗だけどそれ以上に。・・機嫌治ってくれたかしら?」



 瞳を大きく見開いて輝かせるフィリアはいつの間にか完全に体を起こして見入っていた。




 クスリと笑ったリリアはフィリアの様子に満足げだったが、不意に身をなでた空気に身を震わせた。

 夏を過ぎたばかりとはいえ夜の空気はパーティードレスの軽装、それも肩が露出した格好では心許ない。


 フィリアは頬を上気させ景色に見入っていたが幼子の体温調節は万全にはいかない。

 リリアはそのことを気にかけ、幼い身を先程よりも深く包み込むと一言戻る事を伝えた。


 もちろんフィリアは一瞬で不機嫌な表情をみせ抗議を訴えたが、やんわりとリリアに流されてしまった。

 その時のフィリアは先ほどの不機嫌とは違って、我侭に似たものでしかなく、リリアにとっては可愛ものだったのだろう。


 満足気に微笑むリリアにフィリアは言葉を継げず、拗ねたように唇を尖らすしかできなかった。





 ―――父さん。元気かな・・



 戻る途中。フィリアが思い出したのはかつての父親。前世の思い出だった。


 幼い時分より父は伸之を天体観測に連れ出してくれた。頻度はそれほどではなかった。

 だがそのおかげで、余計に伸之にとっては特別な思い出へと昇華してくれていた。


 星が好きな父。好きすぎて、その職に就いてしまったほど。

 そんな父がこの星空を見たらどんな反応をするだろうか。



 フィリアは遠ざかるバルコニーの先に郷愁を抱いた。






 席に戻る道中多少の寄り道をするリリア。もちろん抱かれるフィリアも同伴。


 それぞれの目的地。

 リーシャは満面の笑みでフィリアを撫で愛で、その周りは顔半分ほど凍傷や霜がのこる者ばかり。

 フリードは何食わぬ様子で家人に大砲の撤去を指示してフィリアの頭にキスを落とし。

 アランはフィリアを撫でながらもクラーワへ鋭い視線を飛ばし続け、その間に入るように騎士団の者たちが立った。


 アークのもとについた際はフィリアを心底心配してみせたが明らかに額から血を流すアークの方が大丈夫ではない。

 ジキルドはアンリの小脇に抱えられていて、朗らかな笑みを浮かべるアンリに畏怖を抱かずにはいられない。

 一体その老いた体躯のどこにその力が・・。


 アークの下についた際にゼウスとマーリンもリリアの元にやってきて、フィリアを愛で始めたが徐々に二人で争い始めた。

 しかしそんなフィリアを奪い合う微笑ましくも鬱陶しい愛よりも気を引くのはふたりのやってきた方向である。


 山をなして死屍累々の如く倒れる騎士たち。その横では騒がしく声を交わし必死な形相で光る魔法陣を少しずつ削っている男たち。


 

 一族の収束のためリリアは動いたのだがフィリアはそれら全てに開いた口が塞がらない。



 ―――・・一体何が・・・



 お前が原因だよ。


 当の元凶は自身の心情に直情的らしく、周りの惨事に気づいていなかったらしい。

 それどころか自身が戦犯だとすら思い至ってすらいない。


 至極迷惑極まりない。



 ―――まぁいっか



 おい・・。

 


 やはりフィリアもレオンハートの人間である。


 確かな血のつながりを感じる・・。



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