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123 願いの叶うブレスレット











 「みみは、どうおもいますか?」


 「可愛らしい子ではないですかぁ」


 「可愛らしいって・・歳は貴女と大して変わりませんよ」



 手元に集中するフィリアの傍で、リリアに渡された履歴書を見つめるミミとマリア。



 「みみは、きいかんとか、ないんですね」


 「今時、獣人(ランカンスロープ)だからと差別する者は少ないですよ。それに、私の学生時代の親友は獣人(ランカンスロープ)でしたからねぇ」


 「そうなの!?」


 「はい。それも先祖返りの真祖で、ほとんど獣の姿の女性でした」



 フィリアが思わずミミに振り返ると、ミミは懐かしむように愉しげな笑みを漏らしていた。



 「純白の毛並みで、背も高く、姿勢も美しい上に、次席でした」


 「わぁ。あってみたいです」


 「・・今は確か、王城勤めの女官ですので、姫さまが王城に出向かれた際、機会があればご紹介致しますよ」



 ミミの言葉に楽しみが出来たと、期待に表情を綻ばせ、フィリアは再び手元に集中を戻した。



 「問題はそこじゃありません。・・いえ、獣人(ランカンスロープ)が何の裏もなくレオンハートへの出仕など不穏に感じはしますが・・・。ですが、そんな事よりも、この調査書の内容です。これで姫様のお世話など不安しかありません」



 不穏さえ、そんな事扱いとは、マリアが疲れている。

 しかも、それに追い打ちをかけるかのように、その調書を見ていたミミが首を傾げた。



 「え?どこがですか?」


 「どこがって貴女っ・・・」



 そこで言葉を失くした。

 目の前に居るのはミミ。・・そう。ミミなのだ。



 「・・・ミミ。・・貴女、同じ経験が?」


 「心外です!流石に洗濯物を乾かそうと燃やした事はありませんよ!!」


 「・・・・・」



 つまりは、他の内容には覚えがあるという事だろうか。



 「え!?無いんですか!?ミミでも・・・、私でも三回はあるのに・・」



 そして、護衛に控えているアンネ。

 彼女もまた、残念仕様だった。



 「・・まりあ。たぶん、だいじょうぶですよ」


 「・・はい。そうですね・・・、ですが、今後の指導を一層徹底いたしましょう」


 「申し訳ありません!!近衛の指導も徹底いたします!!」



 泣きそうな顔で必死に頭を下げるミリスが痛ましい。

 頭を下げる先が、主人であるフィリアではなく、マリアだが、そこには敢えて突っ込まない。


 フィリアもようやく分を弁えることを覚え始めた。



 「それに、おかあさまは、あってみて、だめなら、ことわってもいいって、いってたし」


 「・・ですが、姫様のお心は決まっているのではないですか?」


 「もちろん。まりあのいけんをきくつもりです。・・でも、とくにもんだいがないようなら、わたしは・・・うちに、きてほしいです」



 マリアはその言葉に反対もせず、笑みで了承した。

 先に、リリアより指摘されたことを反省し、フィリアの意思を尊重することに決めたマリア。

 確かに最近、フィリアを叱るあまり、その意向に口を挟むことが増えていたと、自身を戒めたのだが、それは、果たして正解なのか・・。


 寧ろ足りないくらいではないのかと、感じるのだが・・。

 今後の不安が増すのみだ・・。



 「ヒメ!できました!」



 フィリアの対面で、フィリア同様に手元に集中していたティーファがやり遂げた顔で、声を上げた。



 「てぃーはきようだね。すごくきれいに、あめてます」


 「・・・姫様。出来上がったら教えていただけるという事でしたが・・もうそろそろお教えいただけますか。・・・それは何ですか?」



 フィリアの意思を尊重する。そんな覚悟を改めたが、それでフィリアへの不安が拭えるわけがない。

 況してや、フィリアが何か新しく始めようとしていれば、嫌な予感以外何もわかない。



 「もう少し待ってください・・・あと少しです・・」



 一層集中を高めたフィリアの手元とは別に、傍には、鮮やかな色彩で編まれた紐が二組、並べられていた。


 細かな宝石も共に編みこまれ、煌く紐。

 フィリアの指ほどの横幅と、長くも短くもない長さ。


 そして、フィリアの手元には三本目が編み上がり、フィリアが最後に余った紐を切って、大きく息を吐いた。



 「できたぁー・・・」



 達成感の篭った声を漏らしたフィリア。

 その声にティーファはフィリアの手元を見て目を輝かせた。



 「ヒメ。きれいです」


 「ありがとう。つぎは、てぃーにもつくるね」


 「はい!」



 フィリアとティーファが微笑み合う。

 それは、一見、非常に美しい絵だが、マリアには不穏にしか見えない。



 「まりあ。これはおじさまと、ぐれーすさまに、おくります。けっこんいわいです」



 フィリアが差し出した、先に出来ていた二組の紐をマリアは、大切に受け取った。

 だが、その表情に、疑心は残ったまま。



 「それで・・これは?」



 マリアの不安な声にフィリアは笑みを見せると、ミミを手招きした。

 ミミはマリアに視線のみで伺い問うが、マリアはとりあえず頷き、ミミを送る。



 「そんなかお、しなくても、だいじょうぶですよ。あぶないものじゃないから。たんなる、おまもりですよ」


 「・・お守り、ですか」



 恐る恐る、傍に来たミミの腕を取ったフィリアはその腕に、今編み上げた紐を巻き始めた。



 「これは、みみに」


 「姫さま!?恐れ多いです!」


 「・・いいの。・・うけとって・・。もう、みみにきけんなめにあってほしくないの」


 「姫さま・・・」



 ミミは、フィリアの為に幾度も被害に遭ってきた。

 それは、侍女として当然であり、至らない証でもあるのかもしれない。


 だが、フィリアにとってそれは、何事にも代え難い、恐怖と不安でしかなかった。


 ミミもまた、普段はどうあれ、まだ幼い主の心に、腕を引っ込められなかった。



 「これは、『みさんが』といって、ねがいがかなうの」


 「願いが、叶うですか・・」


 「『てるてるぼうず』とちがって、ふわっとして、こうかはうすいとおもうけど」



 確かに明確な指向性が無い、漠然とした効果ならば、てるてる坊主のような規格外はないだろう。・・たぶん。


 マリアのみならず、それを受け取るミミの不安は大きいが、その言葉に多少は不安も薄らいだ。


 ミミの腕に二重に巻きつけるフィリアは、小さな手の不自由さを感じながら、先を結ぼうと悪戦苦闘していた。



 「この『みさんが』は、こいびとやかぞく、したしいゆうじんと、たがいにむすびあい。そして、『みさんが』が、きれるとき、ねがいがかなうのです」


 「・・だからゼウス様たちへの結婚祝いなのですね」


 「はい!じゃぁ、わたしのはヒメにおくります!」



 フィリアから笑みと感謝を受けたティーファは、はにかむ様にニヨニヨとしたが、直様ハッと思い出し、「メアリィにも・・」と再び糸を編み出した。


 そんなティーファを見てマリアは嬉しいやら何やらで、複雑な心情だった。



 「・・だから、むすぶときに、ねがいをこめるのです。・・あいてをおもい、あいをこめて」


 「姫さま・・」



 ミミが見つめる幼子は不器用な指を必死に動かし、必死に固く結ぼうとしている。

 作ってる最中もあまりにも真剣に集中していた。


 その理由を知り、込み上げるものがあった。


 そして結び上がった瞬間、弾けるような満開の笑みが向けられ、ミミの目には涙が滲んだ。



 「あ」



 だが、そんな感傷の間さえ許さず、実にフィリアらしく、その空気を壊した。


 紐を結び終えた瞬間、フィリアの身体中から全てを根こそぎ奪われるような感覚。

 思わず溢れた声を残し、フィリアの意識は飛んだ。



 「ヒメーーーー!?」



 先日、習ったばかり。

 細かなイメージは、逆に効率が悪くなるが、それでも明瞭なイメージが大切。

 それが魔法だと。


 指向性が漠然としているから効果が薄い?


 逆だ。

 漠然としているからこそ、フィリアの魔力を根こそぎ持っていくほどの、多様性を持ってしまっている。


 文字通り。『願いの叶うブレスレット』。

 胡散臭さも何もない、本物を作り上げた。規格外女児。



 「・・・マリア、どうしましょう」



 倒れるフィリアを支えたミミだが、その言葉の意味は、意識のない主に向いたものではなく、その腕に贈られたミサンガに向けたもの。


 マリアはそっと目を閉じ、この先、フィリアの意思に任せて本当に良いのだろうかと、世界を背負うような使命感を抱き始めていた。




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