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1章-5

 怪我が完全に治ったノワールはある日、忽然こつぜんと姿を消した。


 おそらく飼い主の元に帰ったのだろうと誰もが思った。毛並みのいい猫だったので飼い主がいることは明らかだ。


 カテリアーナを始め離宮の人々の癒しだったノワールがいなくなったことで、始めのうちは皆寂しがった。


 ところが、寂しさが薄れた頃、再びノワールが姿を現したのだ。


「ノワール!」


 庭のしげみから姿を現したノワールに駆け寄り、カテリアーナは抱き上げる。


「飼い主のところには帰れたの? 傷口は……ほとんど目立たないわね。良かった」


 ひっかき傷があった部分には黒い毛が生え始めている。


 久しぶりにノワールの毛並みを堪能しているカテリアーナの胸元へノワールがにゃと前足を置く。


 カテリアーナが首からかけている鍵のペンダントに気づいたようだ。


「ノワールはこれ(、、)が見えるの?」


「見えるよ」と返事をするようにノワールがにゃあと鳴く。


「そのなのね。でもこれはわたくし以外の人には見えないみたいなの」


 夜空のような濃青色の石がはまったペンダントはカテリアーナ以外の人間には見えていないのだ。


 祖母は幼い頃「きれいね」と言ってくれたが、本当は見えていないことをカテリアーナは気づいている。


 離宮の侍女や騎士たちにも見せてみたが、誰の目にもペンダントは見えていないようだった。


 ノワールはペンダントを前足で抱えて、じっと見ている。そしてカテリアーナに向かってうにゃんと鳴いた。


「きれいって言ってくれているのかしら? ありがとう、ノワール」


 それからノワールは時々離宮を訪れてはカテリアーナと遊び、日が暮れたら帰っていった。


「ノワールがずっといてくれればいいのに……」

「飼い主がおるのじゃ。度々は来れぬだろうよ」


 ここのところクローディアは床に臥せりがちだ。医師の話によると風邪が長引いているらしい。


「それよりもおばあさま。お体を治すためにも安静になさってください。このような時までわたくしの勉強を見てくれなくてもいいのですよ」


「一日寝ているのは暇なのじゃ。こうしておるほうが気がまぎれる」


 カテリアーナは自習をすると言っているのだが、祖母は頑としてきかない。


 今日も祖母の部屋で歴史を学んでいる。人間と妖精の長きに渡る戦いについてだ。


「おばあさま、人間は妖精の国へ行けないのですか?」

「両国間で不可侵条約が結ばれておるからの。現在、人間で入国が許可されておるのは隣国のカルヴァン商会のみと聞いておる」


 遥か昔、まだ人間と妖精が共存していた頃、妖精が人間の子供を攫い、代わりに自らの子供を置いていくという『取り替え子』が行われていた。


 些細ないさかいは度々行われていたが、ついに種族間で戦争がおこる。


 魔法が使える妖精族と武力で勝る人間族は互いにひくことがなく、長い間争いが絶えなかった。


 三百年前、当時のエルファーレン国王とラストリア国王の話し合いによって、ようやく停戦したとされる。停戦とともに種族ごとで国を分け、不可侵条約が結ばれた。


「……おばあさま。わたくしは『妖精の取り替え子』なのですか?」

「何をいう!? そなたはわたくしの可愛い孫じゃ!」


 離宮にはカテリアーナが『取り替え姫』と呼ばれていることに対して、箝口令かんこうれいが敷いてある。だが、人の口には戸が立てられない。カテリアーナの耳にも自然とそのことが耳に入ったのだ。


「親に似ない子はいくらでもおる。それに瞳の色はわたくしと同じであろう?」

「そうね。おばあさま似なのね、わたくし」


 カテリアーナは三歳で祖母に引き取られてから、王宮へ行ったことはなかった。当然、それ以降、両親と兄姉にも会ったことはない。


 おぼろげではあるが、王宮にいた頃のことをカテリアーナは覚えていた。周りの人々の冷たい視線、『取り替え姫』と虐げれていたことは忘れられない。


 離宮に来てからは祖母や侍女、騎士たちに愛されて育った。


 カテリアーナは成人するまで王宮に行くことはないと思っていた。


 だが、その日は突然にやってくる。

ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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[一言] ノワール…可愛いぜ(笑)
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