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1章-4

 カテリアーナが近づくと黒猫は「シャー!」と威嚇いかくしてきた。


 よく見ると足に怪我を負っている。左の後ろ足が何かでひっかいたのか、えぐれていて痛々しい。


「ひっかき傷ですね。森の獣にやられたのかもしれませんね」


 追ってきた護衛騎士の声がカテリアーナの頭上から降ってくる。


「傷の手当てをしてあげましょう。離宮に連れていくわ」

「え? 連れて帰るのですか?」

「このまま放っておけないわ。また獣に狙われるかもしれないし」


 黒猫を抱き上げようとカテリアーナが手を伸ばすと、黒猫は毛を逆立てる。


「大丈夫よ。怪我の手当てをするだけ」


 にっこりとカテリアーナが笑顔を向けると、黒猫は紫の瞳を見開く。カテリアーナを観察しているようだ。


「あら。あなたきれいな瞳をしているのね。まるでアメジストみたい」


 黒猫は再び差し出したカテリアーナの手に鼻を寄せるとふんふんと鳴らす。そして手のひらをぺろっと舐めた。警戒心が解けたようだ。


「ふふ。あなた運がいいわよ。今日採取した薬草の中に止血の効能があるオオヨモギがあるの」


 護衛騎士からかごを受け取ると薬草を取り出し、汁をハンカチに絞り出す。汁で染まったハンカチを黒猫の足に巻き付けると、黒猫はびくっと体を震わせた。


「痛い? でも今は我慢してね。離宮に戻ったらしっかり手当てするからね」


 カテリアーナは黒猫を抱きあげる。


「カテリアーナ姫。猫は私が連れてまいります」


 護衛騎士は慌てて手を差し出す。王女に獣を触らせて万が一のことがないようにとの配慮からだ。


「いいの。わたくしが連れていきたいの」

「ですが……」

「だってこの子もふもふしているもの」


 護衛騎士は苦笑する。離宮に仕える者はカテリアーナが動物好きなのを知っているからだ。


 それに黒猫は大人しくカテリアーナに抱かれているので、危険はないだろうと判断し王女に任せることにした。


◇◇◇


「なるほど。それでこの猫を連れてきたのか?」


 離宮に帰ってきたカテリアーナはクローディアに猫を連れてきた経緯を説明した。


 しっかり手当てされた黒猫は今はクッションに丸まって眠っている。


「しかし、この猫は飼い主がおるのではないか?」

「おばあさまもそう思う? だって毛並みがいいもの。きっと大切にされているのね」

「貴族が飼っている猫かもしれぬな。それにしても……」


 じっとクローディアは眠っている黒猫を見下ろすと、自然と口元が緩む。


「もふもふだのう」

「ね! もふもふよね」


 クローディアも動物好きなのだ。カテリアーナの動物好きは祖母譲りなのかもしれない。



 黒猫は怪我が治るまで離宮で預かることになったのだが、いつしか「ノワール」と呼ばれるようになった。「ノワール」は黒という意味を持つ。毛が黒いのが名前の所以だ。


「ノワール、遊ぼう」


 ねこじゃらしに似たエノコログサという草を持って、ノワールの前に差し出す。


 傷口がふさがったノワールはにゃあと鳴くと、エノコログサを前足でちょいちょいとする。


「かわいい」


 緩みきった顔でノワールと戯れるカテリアーナを使用人たちは遠巻きで見ている。


「愛らしい姫様とかわいい猫……」

「尊い……」


 そんな使用人たちの呟きはカテリアーナには聞こえていない。だが、ノワールの耳はぴくりと動いた。

注:薬草や雑草の名前は本当に存在するものと造語があります。


ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)

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[一言] やっぱもふもふはいいねぇー(笑)
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