1章-6
久しぶりの更新です。
宴の翌日、フィンラスとカテリアーナはレイナードが運んできた品物を見に大広間へと向かった。
人間側の国から持ち込まれた品物は妖精側の国の人々には珍しいものばかりだ。
大広間には品物が所狭しと並べられていて、すでに人だかりができていた。
「賑わっているな」
「ええ。レイナードは忙しそうね」
レイナードは品物を求める人々に囲まれて忙しそうにしている。今日はカリュオン王宮に仕える者たち限定のはずだが、噂を聞きつけた貴族もこっそりと来ているようだ。昨日の宴で見た者がちらほらといる。
「カティ、何か気になるものはあるか?」
「そうね。あら。あれは何かしら?」
カテリアーナの目を惹いたものはガラスの小瓶だった。様々な小瓶があり、中には赤や黄の粉状のもの、黒や緑の粒状のものが入っている。
黒の粒が入っている小瓶を手に取ると、カテリアーナは蓋を開けて鼻を近づける。刺激的な香りがしたかと思うと、鼻がむずむずとしてくしゃみが出た。
「クシュン! これは……クシュ! 何? クシュン!」
くしゃみが止まらないカテリアーナの手からフィンラスが小瓶を取り上げる。
「これは胡椒だな。そうか。カティは肉や魚を食わないからな。知らなくとも無理はない」
胡椒は肉料理や魚料理に合う香辛料だ。しかし、カテリアーナの主食は豆類や野菜だ。しかも素材そのものの味を好むカテリアーナは、ほとんど食事に味つけをしない。
「薬草としての胡椒なら知っているわよ。下痢や腹痛に効くの。でも胡椒の実は赤のはず。黒いのは初めて見たわ」
やや鼻声のカテリアーナはドレスのポケットからハンカチを出す。くしゃみをしたせいで鼻水が出そうなのだ。鼻水を垂らすなど淑女としてはしたない。
「それは黒胡椒という香辛料です。実が熟す前に収穫して長時間乾燥させると黒く変色するのですよ。主に食用でピリッと辛いですが、肉料理や魚料理に合います」
いつの間にかフィンラスとカテリアーナのそばに来ていたレイナードが説明をしてくれる。
「まあ、ではこちらの赤い粉は何というのかしら?」
「そちらは唐辛子といいまして、同じく香辛料です」
「ではこちらの黄色の粉は?」
「それは……」
矢継ぎ早に質問するカテリアーナにレイナードは丁寧に答えてくれる。
「いろいろな種類の香辛料があるのね。どれも初めて見たわ」
「カテリアーナ姫は王女でいらっしゃいます。香辛料は主に料理に使われるものですから、ご存じないのも無理はございません」
料理は王族には縁がないものというのは誰しもが思うことだろう。レイナードはカテリアーナの境遇を知らない。まさかカテリアーナが料理をするとは夢にも思っていないだろう。
「香辛料は妖精の国では人気があるのかしら?」
「ええ。エルファーレンやカリュオンのように人間側の大陸に近い国では人気があります。反対に遠い国ではあまり人気がありません。特にハイエルフは肉や魚を食べない種族と聞きますので、きっと売れないでしょうね。まだ商いの交渉ができておりませんが……」
ハイエルフは肉や魚を食べない。その言葉を聞いたカテリアーナの心臓がドクンと脈打つ。
「まさか……」
「カティ?」
「カテリアーナ姫?」
一瞬、動きを止めたカテリアーナをフィンラスとレイナードが心配そうに見ていた。カテリアーナは手を振ると微笑みを浮かべる。
「いいえ。何でもないの。レイナード、この香辛料を全種類いただけるかしら?」
「香辛料を……ですか? ありがたいことですが、姫君には絹織物やレースをおすすめしたいところです」
「それも後で見せていただくけれど、まずは香辛料が欲しいの」
苦笑しながらレイナードは香辛料を包んでくれた。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)




