2章-5
エルファーレン王宮への帰路でカテリアーナはあの場所での余韻に浸る。思い出し笑いをしていると、上からフィンラスの声が降ってきた。
「楽しかったか?」
「ええ、とても楽しかったわ。フィル、今日はありがとう。それといろいろとごめんなさい」
「なぜ、謝る? カティが謝る必要などない」
ふとフィンラスとの口づけを思い出し、カテリアーナは顔が熱くなる。空中の爽やかな風が顔に当たり熱を冷ましてくれるが、なぜか熱さが消えない。今頃、恥ずかしくなってきたのだ。
「それはその……泣いてフィルを困らせたわ」
「困ってはいない。カティが涙を流すのは俺の前だけだ。それだけ俺を信用してくれているのだろう?」
カテリアーナは暖かさを感じる。フィンラスが自分の胸にカテリアーナを引き寄せたのだ。カテリアーナはフィンラスに身を預ける。規則正しい心音が響いて心地よい。
「そうね。わたくしが泣いている姿を見たのはフィルだけだわ」
フィンラスのそばにいると落ち着く。彼の前でだけは本当の姿を見せられる。
祖母が亡くなってから、常に気を抜くことができなかった。ラストリア王国でカテリアーナが心を許せる相手は誰一人としていなかったからだ。
久しぶりに訪れた安心感にカテリアーナは心が温かくなる。
◇◇◇
エルファーレン王宮にフィンラスのドラゴンが降り立つ。
先触れがあったので、カルスとエルシーが竜舎の前で二人を出向かえる。
ドラゴンから降りたフィンラスはカテリアーナを横抱きにしていた。
「陛下、おかえりなさいませ。カテリアーナ様!」
フィンラスに横抱きされたカテリアーナを見て、エルシーが駆け寄る。
「カテリアーナ様はどこか具合が悪いのですか?」
「大事ない。疲れて眠っているだけだ。エルシー、寝支度を頼む」
帰路の途中、カテリアーナはフィンラスに身を預けたまま、眠ってしまったのだ。フィンラスも敢えて起こそうとはしなかった。
「畏まりました。お部屋までお運びいたしますか?」
妖精は人間よりも戦闘力が劣ると言われているが、実は人間より力が強い種族もいるのだ。
ケットシーがまさにそうなのだ。エルシーも例に漏れず、力が強い。眠っているカテリアーナを運ぶくらい朝飯前なのだ。
「いや。カテリアーナは俺が部屋に連れていく。エルシーは先に行って、支度をしてほしい」
「承知いたしました」
一礼すると、エルシーは早足でカテリアーナの部屋に向かう。
「初デートはいかがでしたか?」
カルスがによによとしている。フィンラスはカルスをじろりと睨む。
「デートと言えるかは分からぬが、カテリアーナが楽しかったと言っていた。俺はそれで十分だ」
「それは陛下も満足したということですね。何よりです」
「お前はもう仕事に戻れ、カル」
フィンラスは後をついてくるカルスを追いやろうとする。
「私の仕事は陛下の補佐ですよ。陛下が無事執務室に戻るのを見届けるのが、今の仕事です」
あくまでついてくるカルスに内心舌打ちをしながら、フィンラスはカテリアーナの部屋へと向かった。
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