2章-2
フィンラスが軽々とカテリアーナを抱きかかえ、ドラゴンの背に乗せると自らの前に座らせる。カテリアーナを後ろから抱える形だ。
フィンラスに守られているようで、カテリアーナは安心する。しかし、同時に胸が高鳴った。この気持ちの表し方が分からないカテリアーナはドラゴンの乗ることができて興奮しているのだと錯覚する。
「振り落とされないように、しっかり掴まっていろ」
カテリアーナは咄嗟にドラゴンの鞍に掴まる。
フィンラスが手綱を握るとドラゴンが翼を広げ、ゆっくりと浮上していく。ある程度の高度に達すると、ドラゴンは翼をはためかせ、スピードをあげていく。
みるみるうちにエルファーレン王宮が遠ざかっていった。
「ドラゴンはこんなに早く飛べるのですね。エルファーレン王宮がもうあんな遠くに見えます」
怖がるどころか、遥か下を眺めながらカテリアーナははしゃぐ。楽しそうなカテリアーナにフィンラスはふっと微笑む。
「カティ、二人きりの時は敬語を使わなくても良い」
「え! でも護衛の方たちが後からついてくるのでは?」
「今日は離れてついてくるように言ってある」
フィンラスは護衛たちに今日は思い切り距離をとれと言いくるめた。ちなみに護衛たちは二人きりになりたいという意味だと勘違いしている。
「どこに連れていってくれるの?」
「それは着いてからのお楽しみだ」
ドラゴンが降り立った場所は見覚えのある風景だった。
ラストリアの北の塔とつながっていたあの場所だ。虐げられ孤独だったカテリアーナの唯一の憩いの場所だった。
「フィル。約束を覚えていてくれたのね?」
「当たり前だ」
エルファーレン王宮に来たら、必ず案内するとノワールが約束してくれた懐かしい場所。
最後に目にした時と変わらない佇まいだ。いや。カテリアーナがノワールと過ごした家から少し離れた場所にあらたな建物が建っている。
建物から見慣れた顔が姿を現す。ルゥナの森のリーダー、イアンとソゥレの森のリーダー、ロイと仲間たちだった。
「イアン! ロイ!」
「カティ……いや。カテリアーナ様」
フィンラスにぎろりと睨まれて、イアンはカテリアーナの名を呼びなおす。
「姐さん、久しぶりです」
ロイからはなぜか「姐さん」と呼ばれてカテリアーナは首を傾げる。
「二人とも久しぶりね。元気そうで何よりだわ。それよりどうしてここに?」
「国王陛下からここでの労役を命じられまして」
知らなかったこととはいえ、『悪しきマタタビ』を市場に流してしまった罰だという。
「それは罰と言えるのかしら?」
「国王陛下の恩情には感謝してるんだ。カテリアーナ様の大切な場所を守れるんだからな」
見渡すと、カテリアーナが育てていた野菜や薬草はしっかり手入れがされている。
「ありがとう、皆。わたくしの大切な場所を守ってくれて」
イアンやロイたちの行方が気になっていたカテリアーナは、ほっとすると同時に彼らに感謝する。
「じゃあ、仕事があるから俺は行くわ。またな、カテリアーナ様」
「陛下と姐さんには後ほどお茶を持っていかせますんで」
イアンとロイは頭を下げると、畑に駆けていく。
「ありがとう、フィル。彼らを保護してくれたのでしょう?」
「あやつらを元の場所に帰して死なれては寝覚めが悪いからな」
ルゥナの森とソゥレの森の猫たちは命を狙われる危険があるのだ。『悪しきマタタビ』ことマタタビモドキを彼らに売った人物がいる。
しかし、イアンたちに接触してきた人物は常にフードを被っていたので、顔は見ていないという。ただ、耳障りな声で、道化のような物言いだったという。それくらいしか特徴がなかったとイアンたちは語った。
「この場所が知られることはない?」
「ここは王族と俺が許可した者以外は立ち入れないようにしてある」
「王家の直轄地なの?」
「まあ、そのようなものだ」
フィンラスはなぜ王家の直轄地などという重要な場所を自分に与えてくれたのかカテリアーナは気になる。しかし、その理由を聞くのは怖かった。
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