1章-2
離宮で暮らし始めた当初、カテリアーナは人に怯えていた。無理もない。これまで周りの人間に虐げられて育ったのだ。
「何故、このような状態になるまで幼子を放っておいたのか?」
クローディアは息子に対して、あらためて怒りを露にした。
カテリアーナが「『妖精の取り替え子』ではないか?」という噂は離宮にいるクローディアにも届いている。だが、クローディアはたとえ『妖精の取り替え子』だとしても、カテリアーナを実の孫として愛そうと決めていた。
実際、人に馴染み始めたカテリアーナは愛らしく、クローディアは心から孫を愛おしいと思った。
ただ、カテリアーナは時々不思議な仕草をすることがあった。自分の胸元をじっと見つめているのである。虫でもとまっているのだろうかと覗き込むが、何もないのだ。
「カティ、何を熱心にじっと見ておるのじゃ?」
カティとはカテリアーナの愛称のことだ。
「鍵の形をしたペンダントよ。きれいな青い石がはまっているの」
さりげなく孫に尋ねると意外な答えが返ってきた。カテリアーナは自分の胸元から何かを持ち上げると、手のひらに乗った何かをクローディアに見せる。
しかし、クローディアには何も見えない。
子供の遊びだろうと思い「そう。きれいね」と微笑むと、カテリアーナは満面の笑顔になる。
「おばあさまもそう思う? きれいでしょう」
そのおかしな仕草以外は活発で賢い子供だったので、気にも留めなかった。
◇◇◇
早朝、中庭で歓声があがる。クローディアは何事かと思い、中庭へと赴く。
中庭では護衛騎士たちがカテリアーナを囲んで、何やら楽しそうに話している。
「何事じゃ?」
「これは……王太后陛下。おはようございます」
クローディアが問いかけると、騎士たちは跪き、挨拶をする。
「おばあさま! ごきげんよう!」
カテリアーナは祖母の元に駆け寄ると、ワンピースの裾をつまみカーテシーをする。クローディアが教えたとおり優雅なカーテシーだ。
「ごきげんよう、カティ。何やら楽しそうだが、良いことでもあったか?」
「あのね。弓を教えてもらっていたの」
ラストリア王国では女性も狩りを嗜むため、弓を学ぶ貴族令嬢も多い。
カテリアーナも弓に興味を持ったようで、先日子供用の弓を与えたばかりだった。
「陛下。王女殿下はすごいですよ」
「そうです。弓の才能がありますよ」
騎士たちが口々にカテリアーナを褒め称える。
「カティの弓の腕はそんなにすごいのか?」
「おばあさまにも見せてあげる」
カテリアーナは騎士に預けてあった自分の弓と矢筒を受け取ると、弓に矢をつがえ構える。
「ここから打つのか? 的まで遠くはないか?」
「大丈夫ですよ、陛下。見ていてください」
木にぶら下げてる的の位置は、大人が練習する時の距離くらいある。
騎士たちは全く動じた様子がない。その様を見てもクローディアは内心ハラハラしていた。
風を切った音がしたかと思うと、的の真ん中に矢が刺さっていた。
「お見事!」
騎士たちが再び歓声をあげる。
カテリアーナは祖母のほうへ振り替えると、得意気に笑う。
「……すごいのう」
「そうでしょう。百発百中ですよ」
騎士たちの話によると、カテリアーナは今まで一発も外したことがないという。
クローディアは唖然とした。
ここまでお読みいただきありがとうございました(*^▽^*)