1章-1
胸糞表現がありますので、苦手な方は引き返してください。
――あの頃は一生、塔の中で暮らしていくのだと思っていた。
カテリアーナの朝は小さな訪問者によって始まる。小さな訪問者はカテリアーナに「朝だよ」というようににゃあと鳴く。
目を覚ましたカテリアーナは身を起こし、伸びをすると、小さな訪問者に挨拶をする。
「おはよう。フクロウさんじゃなくて! ノワール!? まあ、久しぶりね」
いつもカテリアーナを起こしにくるのは小さなフクロウなのだが、今日は黒猫が開け放たれた明り取りの窓に座っていた。
ノワールと呼ばれた黒猫は窓からカテリアーナのベッドに飛び移る。きれいなアメジストの瞳はカテリアーナの頬へと向けられていた。その瞳はカテリアーナを心配しているように揺れている。
「これ? これは昨日……そのお姉様に打たれたの。大丈夫よ。少し腫れているけれど、今日は湿布薬の材料を集めにいくから」
赤く腫れている頬をさすりながら、もう片方の手でノワールを撫でる。
「ノワールは相変わらずもふもふね」
ノワールは嬉しそうにごろごろと喉を鳴らす。
ラストリア王国の第二王女であるカテリアーナは家族に嫌われ虐げられている。それは彼女の容姿のせいだ。陽の光をうつしたような金髪と美しいエメラルドグリーンの瞳。白磁の肌と造詣が整った人形のような顔立ちは人間離れして美しい。
この国の人間の髪は金色か茶色が多いので珍しいものではない。瞳の色も祖母と同じだ。
カテリアーナが生まれた頃は両親は喜び、兄姉も妹を可愛がっていた。
だが、カテリアーナが成長するにつれて、家族の誰とも似ていないことに気づいた母は次第に娘を突き放すようになった。彼女が三歳の時だ。
「この子はわたくしの娘ではないわ! きっと妖精が取り替えたのよ!」
人間族の果ての国であるラストリア王国には「親に似ていない子供は『妖精の取り替え子』」という言い伝えがある。
カテリアーナは幼いながらも人間離れした美しい容姿をしており、お伽話に出てくる妖精のようだった。
母がカテリアーナを嫌うことによって、兄姉もカテリアーナをいじめるようになったのだ。突き飛ばされたり、叩かれたりとカテリアーナは常に傷だらけだった。父は見て見ぬふりだ。
「この子、どうして泣かないのかしら? 気味が悪い」
「妖精の子だから感情がないんじゃないか?」
どれだけいじめられても傷だらけになっても、カテリアーナは泣かない。兄姉はさらに調子に乗って、妹を虐げる。
王宮に仕える人々もカテリアーナのことを『取り替え姫』と呼び、嘲笑った。家族と食事をすることがないカテリアーナに差し入れられるのは、野菜と肉の切れ端が浮いたスープと固いパンだけだ。
「妖精の子だから魔法が使えるでしょう?」そう言って侍女たちはカテリアーナの世話を怠けていた。
おかげでカテリアーナはいつも同じワンピースを着て、梳かされることのない髪はぼさぼさだった。
ある日、離宮に住む王太后クローディアが王宮に孫たちの様子を見にやってきた。クローディアは現国王の母でカテリアーナにとっては祖母にあたる。
クローディアは庭でうずくまっていたカテリアーナを見つけて驚愕した。三歳の孫は傷だらけでやせ細っていたからだ。クローディアは息子である国王の下に向かうと叱責する。
「其方たちは我が子を虐げておるのか!」
「そのようなことはありません、母上」
「ではなぜカテリアーナは傷だらけなのじゃ! それにやせ細っておる」
「小さな子供が怪我をするのはよくあることです。それにカテリアーナは食べ物の好き嫌いが激しくて……」
国王の目は宙を泳いでいる。息子が嘘をつくときの癖を知っているクローディアはカテリアーナが虐げられていることを悟った。
「カテリアーナは今日からわたくしが育てる」
息子に軽蔑の眼差しを向けると、クローディアはカテリアーナを離宮へと連れて行った。
これ以降、王太后クローディアが王宮へ訪れることはなかった。
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