第九話 アプリとゲイル
突然の俺の行動と言葉、これを受け今まで俺の事を単なる臆病者のヌルと見下していた探索者は暫し呆然ととした表情で固まっていた。
同様にフェリスを慰めながら状況を観察していた受付嬢のアルエも突然の行動に驚き、嘘でしょと小さく言葉を漏らすのが聞こえる。
「不意打ちとは言え相手は中級の探索者。それをあんな簡単に倒すなんて……」
「――ふふ、そうなんです! たとえ魔力を持ってなくてもカイさんは凄く強いんです! オークの群れを一瞬で壊滅させるくらい強いんです!」
俺の行動と言葉、それとアルエの呟きを聞きフェリスは元気を取り戻したのか、涙で濡れた目を袖で拭い普段通り元気に喋り出す。
(フェリスも元気を取り戻したようだな)
「あ˝~、元に戻ったら戻ったら騒がしいな。だがまあ、あれでこそフェリスか。ケケ、俺も毒されちまってるかもしれねえな~」
(うむ、やはりフェリスには笑顔が似合う)
そうして呑気にデシウスと話していると、目の前の探索者達はやっと状況を理解したのか、顔を怒りで染め上げ腰の杖を抜き俺に向けた。
「貴様! 【青の騎士団】所属の俺達に手を出してタダで済むと思ってるのか!?」
「あ˝~、青の騎士団だァ~? そんなもん探索者登録もしてねえ俺が知ってるわけねえだろ。てかお前ら、よくあんな真似して騎士団なんて名乗れるな? 俺だったら恥ずかしくて名乗れねえわ~」
「――き、貴様ァ!!」
目の前の探索者達は俺の言動を受け更に怒りを増幅させ、今にも戦いが始まりそうな程に場は緊張した雰囲気に包まれるが……。
「あはは~、君は面白い人だね~!」
そう言い俺と探索者の間に割り込んできたのは、男とも女とも取れるような中性的な見た目で帽子を被った人物。
「いや~、このままだと組合が大変な事になっちゃうと思ってつい助けに入っちゃったよ~。それにしても君は凄いね。これだけの探索者に囲まれて少しの焦りもない。本当に魔力なしなのか怪しいな~?」
「あ˝、助けに入っただと?」
「そそ~。あ、忘れてた。僕の名前はアプリ。一応中級探索者で君の先輩にあたるかな~。これから宜しくねカイ君」
「……ああ、まあ宜しく頼む」
聞きたい事は色々あるがまずは挨拶を返しておく。
そして俺達のやり取りを見ていた探索者はアプリに対し叫んだ。
「おいアプリ、助けに来たとかふざけた事を言ってんじゃねえぞ! 俺達はそいつを逃がすつもりはねえ! 分かったらそこを退け!」
探索者の言葉にアプリはニヤリと笑い答えた。
「あれれ~。もしかして君達、勘違いしてる? 僕が助けたのはカイ君じゃなくて、君達を助けたつもりだったんだけどな~?」
アプリの言葉に探索者は自分たちが舐められていると思ったのか、更に怒りを増幅させ俺に向けていたはずの杖をアプリに向ける。
「アプリ、それは一体どういう意味だ!?」
「そのままの意味だけど? だってこのまま君達がカイ君に喧嘩を仕掛けたら組合が血の海になるじゃないか~。勿論、君たちの血でさ~」
おいおい、流石に俺も血の海を作るつもりはねえ。
どんだけ危ねえ奴だと思われてんだ。
「ねえ、カイ君もこの辺で勘弁してやってくれないかな? 彼ら【青の騎士団】も迷宮攻略に失敗したばかりで、今日は気が立ってたんだよ~」
「あ˝? つまり俺達を中傷したのは憂さ晴らしだったって事か?」
「そう言う事だよ~」
「何だそれ、くだらねえなァ」
「あはは、ほんとくだらないよね~」
どうでもいい理由に俺は完全にやる気をなくし踵を返そうとするが、これに待ったをかける人物が現れた。
「待ちたまえ。我々【青の騎士団】の団長として、これだけ馬鹿にされタダで帰るわけにはいかない。どうだろう、君と私で決闘を行うというのは?」
そう言い現れたのは長めの杖を槍のように持ち運ぶ騎士服を着た男性。
へえ、あんな変則的な杖もあるんだな。
「――で、あれは誰なんだ?」
「え~と、彼は【青の騎士団】の団長で、上級探索者のゲイル君だね。上級なだけあって周りの探索者よりは圧倒的に強いと思うよ~」
「へえ、お前とはどっちが強いんだ?」
「……え~、僕は中級で彼は上級なんだよ? そんなの彼の方が強いに決まってるじゃないか。カイ君は変な事を聞くな~」
「ケケ、そーかい」
(……ふ、実力を隠すのが上手いのだな)
ああ、油断ならねえ奴だぜこいつは。
そいう俺とデシウスが呑気にアプリの事について考えていると、痺れを切らしたのか長い杖でドンと地面を叩く音が聞こえてきた。
「決闘を行うか行わないのかはっきりしたまえ。それとも、負けた時の言い訳でも考えているのかね? だとしたら、非常に滑稽な話だ」
ゲイルの言葉に周りの探索者達は俺の事を指さし笑う。
あ˝~、決闘なんざ欠片も興味ねえが、このまま引き下がると後々また面倒な事が起きる予感がするぜ。仕方ねえな~。
「いいぜ、やろうじゃねえか」
俺の返答にゲイルはニヤリと笑う。
お~お~、濁った眼をしてやがる。
大方、俺を公の場で痛めつけるのが楽しみなんだろうな。
ケケ、腐ってんねぇ~。
「では修練場を使うとしよう。付いてきたまえ」
そうして歩き出したゲイルに付いて行こうとしたところ、後ろから肩を叩かれ、振り向くとアプリが自分の口元に指を立て俺に注意事を。
「組合の中での殺しは禁止だからね~?」
言われなくても別に殺す気はねえよ。
まあ、ゲイルの出方次第ではそれなりの事はするかもだがな……。
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