第八話 到着と怒り
「到着ですカイさん。こちらが迷宮都市クレイクになります~!」
村を出発して五日。
俺とデシウス、新たに旅に加わったフェリスを加えて歩き続けた俺達は、ようやく目的地のクレイクに到着した。
「あんま騒ぐな――で、あれがお前の言ってた迷宮か?」
「その通りです~。よく分かりましたね?」
「ケケ、こんなもん、誰が見ても分かるわな~」
なんせ、街の入り口のここからでも全貌が把握しきれない程の巨大さだ。横の太さもそうだが高さが半端じゃねえ、天まで届いてるんじゃねえか?
確かフェリスの説明に神が作ったという説があると言ったが、これは確かに神以外に作れねえ、そう思わせる程のもんだ。
(これ程のものとは、圧巻だ)
「ああ、流石に迷宮都市として有名なだけはある」
俺達は少しの間、街の入り口で巨大な迷宮に目を奪われていた。
その後、フェリスのそろそろ行きましょうの一言で街の中へ入っていき、そのままの足で迷宮に入る為に探索者組合という場所へ向かう。
「カイさん、普通最初に街に来たら宿とか探すもんじゃないですか?」
「あ˝~、普通はそうかもしれねえな。だがな、俺達は現状、一文無しだ。仮に宿を見つける事が出来たとしても、宿に泊まるだけの金がねえんだよ」
「――あ、そう言えばそうでした」
そう、俺は元より金など持っていないし、フェリスも魔物の襲撃で金が行方不明らしく、一文無しの状態で俺達は旅をしてきた。
「てわけで、俺達はまず最低限宿に泊まるだけの金を迷宮で稼がねえといけねえわけだ。尤も、俺は別に野宿でもいいんだがな~」
まあ俺としては問題なくとも、女性のフェリスが嫌がるだろうがな。
この俺の予想は見事に的中し、フェリスは嫌々と首を振り、暴れた。
「の、野宿!? そんなの嫌ですよ! カイさん、早く迷宮に行ってお金を稼ぎましょう! そして高級宿に泊まりましょう!!」
さりげなく高級宿を要求するフェリスに俺はため息を付く。
だがまあ、安い宿に泊まる気もねえ。
長旅の後だ、ゆっくり休みたいからな。
「まあ、とりあえずは金稼ぎ。とっとと探索者組合とやらに案内してくれ」
「分かりました~。あれ、でも大丈夫ですかね? 迷宮は魔物が沢山いますけど、回復薬とかないですよね。もし怪我とかしたら……」
「あ˝~、その点は心配いらねえ。俺は下層程度で怪我を負うつもりもねえし、お前にも負わせるつもりはねえ。それに、俺にはこれもある」
そうして俺はフェリスに聖光剣ユミルの効果を説明していく。
フェリスはその余りの効果に段々と顔が真顔になり……。
「何でそんな馬鹿げた性能の武器を持ってるんですか。国宝級の代物ですよそれ」
「へえ、良かったなデシウス。お前の愛剣は国宝級だってよ~」
(ふふ、少し照れてしまうな)
「いやいや、そんな呑気に話してる場合じゃないですよ。カイさん、探索者の人達の前とかであんまり剣の能力を見せないでくださいね。確実に狙われますから」
フェリスの話によると迷宮とは無法地帯に近いらしく、高価な武器やお宝を下手に持っていると、それを狙って探索者などが襲撃を仕掛けてくる場合もあるとか。
「ケケ、物騒な話だ。組合とやらは略奪を禁止してねえのか?」
「勿論、略奪は禁止されていますが、それでもやる人はやるというだけの話です。特に迷宮は証拠も残りにくいですからね~」
成程、俺一人なら襲撃を受けても全て返り討ちにするだけなので恐れる必要はないが、フェリスもいるとそうはいかない可能性もある。言う通りにするか。
それから俺達はフェリスの案内の元、迷宮の入り口に居を構える探索者組合へやってきて、無駄に大きな扉を開け中へ入っていく。
組合の中は建物の中というよりは、大きな広場と言った感じで、中央におそらく迷宮と繋がっているのだろう、大きな魔法陣のような模様がある。
「それじゃ最初にカイさんの探索者登録をしますか」
「そうだな。お前に任せる」
どうやらフェリスはここに来た事があるようだからな。
そして俺に頼られたのが嬉しいのかフェリスは鼻歌を口ずさみながら、私に付いてきてくださいね~と歩き出したので後を付いていく。
「あらフェリスちゃん、クレイクに戻ってきたの?」
「アルエさんこんにちは。まあ本当はクレイクに戻って来る気はなかったんですが、実は色々と厄介な事になってしまいまして~……」
フェリスは自分の村がオークに襲われて自分以外が全滅した事、オークの群れに襲われていた最中俺に助けられた事、そして俺と一緒に迷宮に潜る事を話していく。
「成程、大変だったのねフェリスちゃん……」
受付のアルエと呼ばれる女性はよしよしとフェリスの頭を撫でてあげ、フェリスも気持ちよさそうにもっと撫でてください~と口にしている。
俺は最初その光景を仲が良いんだなと思いながら呑気に見ていたのだが、それが五分も続くといい加減うんざりして、フェリスに言った。
「おい、そろそろ俺の話をしてもいいか?」
「――あ、すいませんカイさんのこと忘れてました」
「お前、殴ってもいいか?」
(カイ、それは駄目だ。お前が殴ったらフェリスの顔が潰れる)
「あ˝~分かってるよ。冗談だ冗談~」
そうデシウスに返答し俺は受付嬢、アルエと呼ばれる女性に声を掛ける。
「俺の名前はカイ。探索者登録をしたいんだが、いいか?」
「はい、勿論です。ではこちらの用紙に名前と年齢と職業、それが終わったらあちらで魔力を測定してもらいます」
「あ˝~、魔力測定はしなくていいぜ。俺、魔力持ってねえから」
「――――え?」
俺の魔力を持ってない発現に受付嬢のアルエは驚きで固まり、俺達を遠目で見ていた他の探索者達は一斉に俺の事を指さし、大笑いを始めた。
「おいおい、あいつヌルなのに迷宮に潜ろうとしてんのかよ!!」
「クク、馬鹿じゃねえのかあいつ!?」
「いや、自殺願望者かもしれねえぜ!? どっちにしろ傑作だがな~!」
「あ~面白れえ、あんな馬鹿久しぶりに見たぜ!」
俺は探索者達の中傷を無視して、初めて聞いた言葉、ヌルの意味をフェリスに問う。これにフェリスは言い辛そうにしながらも答えた。
「あ~、ヌルは魔力なしの人間を蔑む俗称みたいなもんです」
「そんな俗称があるのか。色々考えやがるな~」
まあ俺にはどうでもいい事なので、そのまま探索者登録の為に用紙に必要事項を記入していく。これにフェリスは悔しそうな表情で呟く。
「あんな酷い事を言われてカイさんは平気なんですか?」
「あ˝~? あんなもん気にしても仕方ねえだろ。俺が魔力なしなのは事実だからな。それよりも、俺は早く迷宮に入って金を稼ぎてえんだよ」
「……カイさんが、それで良いならいいですけど」
俺の言葉にフェリスは渋々ながらも納得した様子だ。
だが、この時の俺の判断は間違いだった。
俺をヌルと馬鹿にした探索者達は、無反応な俺にその後も様々な中傷を浴びせる。そしてこれ以上は無駄だと悟ったのか、言い返す度胸もねえのかヌルはと捨て台詞を吐き俺への中傷は終わった。
しかし、探索者達は余程ストレスが溜まっていたのか、今度は何と俺ではなく隣のフェリスをターゲットに中傷を始めた。
「おいおい、あれ荷物持ちのフェリスだろ、何でクレイクに帰って来てんだ?」
「詳しくは知らねえがあいつの村、オークの群れに襲われて全滅したらしいぜ~。んでオークの群れから助けてくれたあのヌルと迷宮に行くんだとよ」
「は? オークの群れをヌルが全滅させたとか、もう少しまともな嘘つけよ。んなこと出来るわけねえだろうに、頭でもおかしくなったんじゃねえのか?」
「クク、ちげえねえ~」
探索者達の言葉は容赦なくフェリスの心を抉った。
俺と話している時は強気なフェリスもまだ十五歳の少女、探索者達の言葉で事件の事を思い出してしまったのか体を震わせ涙を落とす。
「ちょっと、いい加減にしなさいよ!!」
余りに酷い現状に受付嬢のアルエが怒りの言葉を掛けるが、探索者達はアルエちゃんが怒った~などとふざけてまともに取り合う様子はない。
アルエは自分の無力さに拳を握り悔しそうにする。
そして俺は小さな声でデシウスに語りかける。
「……デシウス」
(――何だ?)
「さっき俺が中傷を受けた時、気にしてねえって言ったのは嘘じゃなくてよ。親父や弟に散々言われてきた影響か、本当に何も感じねえんだ」
(ああ、確かにアレと比べてしまうとな)
「だがよ~。さっき俺が馬鹿にされた時にフェリスは怒ったよな? 正直、あの時は何でこいつ俺の為にこんな怒るんだと疑問だったんだけどよ、俺にもやっとその理由が分かったわ~」
俺はフェリスを中傷している探索者達の方へ歩いていく。
これを見た探索者は椅子に座ったままニヤリと下種な笑みを浮かべる。
「おいおい、ヌルが今更俺達に何か用――」
男が最後まで言葉を言い終える前に俺は男の頭を掴み、そのままテーブルへ叩きつけた。
「――ガハァッッ!!」
突然の衝撃に男の意識は瞬時に消失し、俺は白目を向いた男の頭を掴んだままその辺に無造作に放り投げ、周りの探索者に言った。
「――俺の仲間を泣かしてんじゃねえぞ」
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