第五話 その頃のマギウス家
カイとデシウスが街を出発してすぐの頃、マギウス家の屋敷は今までにない程の喧騒で埋め尽くされていた。原因は勿論……。
「どういう事だ、何故父様の右腕は治らない!?」
声を荒げているのはカイの弟、リク。
場所は父バルザの寝室で、目の前のベッドに右腕がなく顔色も悪いバルザが寝かしつけられている。最も、顔色はこれでも幾分かましにはなった。
屋敷に連れ戻されたばかりのバルザは顔色が蒼白で、死体と見間違えても不思議ではない程に憔悴しきっていた。下手をすれば、そのまま死んでいた程に。
バルザの危機を救ったのは、マギウス家が昔から懇意にしている治癒魔術師。マギウス家が懇意にしてるだけあり、実力が超一流と言っても過言ではない程だ。
しかし、そんな彼もリクの右腕を治せという命令には、静かに首を振った。
「申し訳ありませんリク様。正直に申し上げますと、私ではバルザ様の右腕を治す事は不可能です。いや、おそらく私以外の治癒魔術師でも……」
この発言にリクは当然の如く猛反発し。
「何故だ! 腕の欠損は今まで何度も治してきたんじゃないのか!?」
リクの言葉通り、箱入りのカイと数千年前に生きたデシウスは知らなかった事だが、この世界の治癒魔術師は腕の欠損も普通に治す事が出来る。
ましてや目の前の治癒魔術師は超一流、普段なら数分もあれば腕を生やす事も容易いはずだった。しかし、今回ばかりは事情が違うと首を振り告げる。
「リク様、今回は事情が違うのです。どのような手段を用いたかは不明ですが、現在のバルザ様は右腕がない状態が正常と思える程に完璧に治癒されています。これでは治癒魔術で腕を生やす事は容易ではありません。無理に行おうとすれば、バルザ様が痛みに耐えきれるかどうか……」
治癒魔術師の言葉にリクは苦し気に顔を歪める。
本当なら治癒魔術師の言葉に反発したいところだが、バルザから魔法に関して天才と評価を付けられているだけあり、リクは治癒魔術師の言葉が真実だと理解してしまう。
「おそらく、この腕を治すにはエリクシルしかないかと」
治癒魔術師の言葉にリクはエリクシルか、と呟く。
エリクシル、又の名を究極の回復薬。
これを使えばもし体が真っ二つになったとしても、瞬時に回復する。
しかし、その絶大な効果が故に莫大な金を必要とする。
おそらく、マギウス家の全財産を使ってやっとといったところだろう。
普通なら諦める。
しかし、今のリクは冷静ではなかった。
「ライク、魔術帝国メダノアに使いを出せ。エリクシルを一つ買うと」
リクの言葉に部屋にいた執事長は慌てて言った。
「リク様! そんな事をしてはマギウス家が!」
「煩い! 父がこうなった以上、今のマギウス家の当主は僕だ! お前は僕の言う事に逆らうというのか!?」
リクの言葉に執事長は何も言い返せず、承知しましたと苦し気に告げた。
一応補足しておくと、普段のリクが横暴な態度をとるのは兄のカイだけであり、それ以外の者に対しては比較的寛容である。
しかし、尊敬する父の姿を目の当たりにして、リクは冷静さを完全に失ってしまっていた。これはリクがファザコン気味なのも理由の一つである。
「しかし、誰がこんな事を……」
治癒魔術師の呟きにリクの脳裏にカイの姿が浮かぶ。
リクとて無能なカイがこんな事を出来るとは到底思えないが、現にバルザがカイを始末しに行き、返り討ちに遭い右腕をなくしてしまった。
「――あの、クソゴミ野郎が」
リクの口から出た余りに下品な言葉に周りの者は驚くが、憤怒に染まったリクの表情を見て誰もそれを指摘する事は出来なかった。
「おい、お前」
リクは部屋にいた私兵の騎士に言葉を投げかける、
騎士はリクの余りの迫力に体を震わせるが、何とか言葉を絞り出す。
「な、何でしょうか?」
「今すぐ街の出口を兵で固めろ。兄様が街の外に出るのを防げ。そして、捕獲したら必ず僕の元へ連れて来い。いいな?」
「か、畏まりました!!」
騎士が慌てて部屋の外に出ていくのを確認して、リクは部屋の窓から外を覗き目を吊り上げ口元を醜く歪ませ、呪詛を呟くように言った。
「兄様、絶対にこの街から逃がしませんよ。必ずあなたを捕まえ、父の前で八つ裂きにしてあげます。クク、今から楽しみだ……」
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